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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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80.バルザックと出発準備

読みやすいように全体修正 内容変更なし

「マル坊! まだ居てくれたか。すまんが、また力を貸してくれ」

「いいよ、ゴンさん。でも、急ぎじゃないなら客を帰してからね」


 来訪者はゴンさんであった。いつもの手、足、胴に金属防具を付けている戦士然とした格好であることから、仕事をしている最中に俺を呼びに来たのだろう。


「ああ今回は、遺跡の中に残してきた者はいねぇ。準備をしてからでも大丈夫だ」

「わかった。ちょっと待ってて」


 俺は食堂へと戻り、お茶を喉に流し込んでいたバルザックさんに言った。


「急ぎの用が出来たから、帰って貰っていい?」


 バルザックさんが、席を勢いよく立ち、笑い出した。


「アハハハハ。何言ってんだマルク。それ待ちで来たって、ちゃんと言ったじゃねぇか。俺も行くぜ。あっ! 剣は、貸してくれよ」

「金にはならないよ」

「それは、お前も同じだろうが」


 そうだった。俺がバルザックさんに”普通”を言っても、意味がないのだった。


「ありがとう、バルザックさん。さぁ急いで準備しよう」

「応よ」


 バルザックさんを連れて、ゴンさんの元へ向かう。

 

「ゴンさん。バルザックさんも一緒だけどいいよね」

「何で『巨人殺しのバルザック』が……いや、願ったり叶ったりだ、マル坊、バルザック殿、よろしく頼む」


 ゴンさんは、俺の後ろの巨体を見て、目が飛び出んばかりに驚いている。

 そして、俺達に向かって歓喜の声を上げ、礼をした。

 バルザックさんのファンなのだろうか?

 だが、それよりも――


「そんな通り名あったんですね」

「あー? 他人の付けた名前なんて興味ないな。ほら、武器取り行くぞ」


 ()かすバルザックさんを、地下の倉庫に案内する。侵入者対策用の剣や、俺の普段使いの剣では、バルザックさんには合わないだろう。

 鍵を開け、倉庫の中に三人で入る。


「あまり、良いものはありませんよ」


 俺の使わない不用品が置いてあるだけだからな、この倉庫。


「セツナさんの剣とか置いてないのか?」

「全部盗まれましたから」

「ケッ。あのクソ野郎どもが」


 今更語るべき事は、それ以上ない。

 倉庫の中を物色するバルザックさんを見ているより、自分の準備をしよう。


「適当に持っていっていいですからね」


 そう二人に告げ、俺は自室へと向かう。背に了承の声が掛かる。

 持っていくものは何だろう? 目的を先に聞いておくべきだった。

 バックパックの中には、入れっぱなしの物がある。

 青色と赤色ポーション各二本。気付け薬。ムル婆ちゃん特製の毒消し。

 前回使った道具袋は、魔石と共にパック先生の所だ。道具袋は追加で。

 布もあると役に立つ。干し肉は……予備を切らしていた。買い足してないから仕方がない。長期戦にならないことを祈ろう。

 加工済みの小さい魔石も二つ。念のために。

 第何層に行くかは知らないが、準備はこのぐらいだろう。剣も忘れずに。

 自分の準備を終え、倉庫に戻ると、バルザックさんが一本の大剣を手に持っている姿が見えた。

 あれはクレイモアと呼ばれる大剣だ。

 刀身は比較的細身で、バルザックさんの腰ほどの高さしかなく、両手剣としては小振りである。刀身側へ、くの時に張り出した(つば)が特徴的で、柄は余裕をもって両手で持てるようになっている。

 両手剣としては素早く振り回せるのだが、魔術師の俺には、大きくて邪魔である。重さは別に問題無いのだが。


「良い剣があるじゃないか。何でこんなもんが?」

「昔、礼で貰ったんだけど、売るわけにもいかないし、使わないしで……ね」


 武器屋に並ぶ物より良い物らしいのだが、武具の鑑定は俺には出来ない。

 俺の普段使いの剣も、そこらで売っている品だ。

 バルザックさんは、柄を握り、その馴染みを確かめていた。

 今にも振り回しそうで、少々怖い。


「こんなもん死蔵する方が、よっぽどひでぇよ。これ使っていいか?」

「貰っちゃっていいよ」

「へへっ。ありがとよ」


 彫りの深い顔に笑みが浮かんでいる。真っ直ぐに嬉しいようだ。

 バルザックさんは、大剣を鞘に納めると、帯を肩に回し、それを背に担いだ。

 いつもの大剣と比べてしまい、余計にクレイモアが小さく見える。

 まぁ、バルザックさんの嬉しそうな顔を見ると、そんな小さな事は、どうでもよいと思えてくる。実際、どうでもいい事だった。


「よっしゃ。行こうぜマルク。と、えっと、ゴンさん」




「で? 今日は何階層?」


 現在、遺跡入口を抜け、ダンジョン第一階層である。事情を聞くならここまで来ないと、目あり耳ありで、ゴンさんが話してくれない。

 だが、ダンジョンに入っても、ゴンさんは口を開かない。

 何となく理由を察した。

 緊急性もないのに、俺を呼びに来たことを考えると理由は一つだろう。


「エル様絡みの話なんだね、ゴンさん」

「エル様って誰だ?」


 ゴンさんが俺から目を背けるのと同時に、バルザックさんの視線がこちらに向く。

 エルの事は何と説明してよいのだろう。いや、教会関係者がここにいるのだから、俺が語るよりは、任せた方が良いだろう。


「ゴンさん。お願い」

「あぁ……本人も、貧民救済に力を入れている尊き御方なのだが、まぁ……大司教様のお孫さんだ」

「ちょっと我が(まま)な可愛い女の子で、俺の友達ですよ」

「マル坊……丸くなったな」


 俺の追加説明に、ゴンさんは何か思う所があったようだ。

 なぜか、自身の目頭を押さえている。


「何だよ。お偉いさんの御守りかよ」

「あっ。いや、バルザック殿。モンスターの相手には違いないんだ。御守りってのも否定はしねぇが」

「ちょっとまったゴンさん。御守りとモンスター相手って、エル様をダンジョンに連れて行けってこと? 流石に俺は反対だよ」


 ゴンさんは俺へ向け『そう言うと思った』とでも言いたげな顔をしている。が、それは看過出来ない話だ。

 従者に守られた状態なら、エルの安全は保障されているようなものではあるが、それと危険地帯に連れ込むのは、話が別だ。


「マル坊を呼んだ理由の一つでもあるんだよ」

「止める為だね」

「いいや。初めっから話す。昨日の夜から遺跡に潜ってた冒険者パーティーがいたんだよ。彼らは転移陣で第二十五階層に飛んだ。狙いは第三十一階層の自然地帯での採取」

「あぁ、あそこか」


 ダンジョンは、基本的に人工的に出来ている。

 四角く作られた部屋。舗装された通路。石畳や細工柱、トラップに階段まで。

 だが、ダンジョン内の一部の場所が自然を模したようになっている。それもまた人工的なのかもしれないが、それは俺達には分からない。

 ただ、そういう場所は、草花や水、鉱石など自然由来の素材が採取できる地点であり、生産者にとって有益な場所である。

 当然、道中ではモンスターに襲われるし、採取中も気を抜けないので、戦えない者が行くには厳しい場所である。なので、冒険者が依頼として行くことが多い。


「てことは、銀狙いだったわけだね」

「出るかもわからねぇのにご苦労なこった」


 バルザックさんは、採取よりモンスター討伐の方が好きそうだものな。

 俺も、他人にあれこれ言えないけど。


「ああ、事前に採取許可も取ってあった。でだ、彼らは今日早くに帰って来たんだよ。採取物も持たずにな」

「空振り、だったら俺が呼ばれる訳ないよね。モンスターか」

「ああ、彼らは第三十階層までしか辿り着けなかった」


 残り一階層という所で引き返したのか。第三十階層といえば、大部屋どころか巨大な部屋が一つある。というより一つしかない。

 そこには大抵大物がいるのだが、そいつにやられて帰ってきたのか?

 いや普通のモンスターなら、倒しに向かう必要もないか。


「で? 何がいたんだよ」

「ミノタウロスだ」


 ミノタウロス? そう変わったモンスターではなかったな。

 ミノタウロスは、頭部が牛のモンスターだ。

 全長が成人男性の約二倍ほどあり、筋肉の付き方は、オーガより人間に近い。

 特徴的なのが、人を突き刺すように前に出た二本の立派な角と、柄の長さがミノタウロスの身長程の長さの大斧だろう。

 大きな体格ながら、素早く、そして力に任せた長い得物の一撃。

 容易(たやす)く倒せるモンスターではない。魔術師以外には。

 ダンジョンでは、第三十七階層辺りで出会うことが多いモンスターである。

 とはいえ、一体だけなら問題の無いモンスターであるし、ならば――


「何体いた?」

「ああ。冒険者の話じゃあ三体だな」

「あれ? 思ったより少ないね」

「マルクよぉ。お前の考えが可笑(おか)しいだけだぜ。狙った階層より奥の敵が出てきた時点で、パーティーとしての戦闘計画が崩れちまうんだよ。逃げ帰って正解だなそいつら」


 バルザックさんの言葉に、ゴンさんは(うなず)く。


「まぁ、それは良いよ。問題は、エル様が何故(なぜ)ついて来るのか? だから。ゴンさん、続きをお願い」

「ああ。マルクは儀式って知ってるよな」

「うん。露払いの助っ人依頼は、何度もやったからね」

「俺もよくやったぜ。実入りも良いしな」


 儀式は、教会の人間が特定の部屋で行うものだ。遺跡の鎮静化を(はか)るものらしいが、俺には効果のほどは分からない。

 教会の、特にこの町の教会にとっては、大事なことなのだろう。

 露払いは、その儀式を行う人達に先んじてダンジョンに潜り、モンスターを狩る仕事だ。モンスターは一度倒せば、すぐには湧きはしない。通り道だけではなく、その近くの部屋等も狩り、後続の安全を確保する役目である。

 今その話が出るということは――


「エル様が、儀式に向かうってこと?」

「ああ。朝一に話を聞いたエル様がな、『わたくしが儀式を行い、鎮めますわ』って言い出しちまった。で、問題なのがだ、エル様の言葉を上が飲みやがったんだよ……マル坊が、エル様を護衛することを条件にな」

「ゴンさんに言うのは何だけどさ……教会ってアホなの?」


 あっ! ゴンさんが目を逸らした。ゴンさん自身も似たようなことを思っていたのだろう。ゴンさんも上に振り回されて大変なんだろうな……。


「まぁいいじゃねぇかよ、マルク。そのエルって奴も、自分の意思と役割で、危険に踏み込むことを決めたんだろう。なら俺たちは、それを守ってやる。それが人生の先輩の役目ってもんさ」

「でもエル様は、まだ十歳だよ」

「ハハハ。それこそお前が言うんじゃねぇよ。自分が何歳から冒険者やってるのか忘れちまったのか? あぁ?」

「お、憶えてるよ」


 俺の言葉に、ニヤリとバルザックさんが笑う。会話が決着した証として。

 やっぱりバルザックさんは、苦手だ……嫌いじゃないが。

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