表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

806/1014

799.仇討ち

誤字修正 文章修正

 俺はゴンさんと共に、ダンジョンへと急いでいた。


「状況は?」

「儀式の前準備の露払いをしていた冒険者が、ヴァンパイアと遭遇しちまった」

「階層と数は?」

「四十の入口。数は一……と思いてぇな」


 ゴンさんは、苦々しく、そして自信なさげに呟いた。

 恐らく、共に露払い――目的地までのモンスターの掃討作戦――を行っていた冒険者、もしくは聖騎士が戻って来て、ゴンさん達に報告をしたのだろう。

 正確な情報は、分からないと考えるべきか。

 それにしても、四十階層にヴァンパイアなんて……。

 ワンダーさんの調査と実際遭遇した経験から、ヴァンパイアはダンジョンでは第五十三階層と五十四階層に現れるモンスターであると分かっている。

 四十階層の露払いならば、依頼を受けたのはBランク冒険者だろう。

 勝てなくはないが……何人死ぬか分からない。


「ゴンさん。今、ダンジョンに残ってる人は?」

「ツヴァイ隊とレスローパーティーが、まだ中に残ってる」


 聖騎士の皆が、守りを固めていれば、生存者がまだ残っている可能性は高い。

 ヴァンパイアは、回復術士の治癒の力に弱い。

 そして聖騎士は回復術士に劣るとも、皆、法力を使う事が出来る人達だ。

 だがそれは、ヴァンパイアが一体で、守りに徹していればの話……行ってみないと、結局は分からないな。


「ゴンさん。万が一は逃げ帰るから、上で準備をお願い」

「任せろ……マル坊。いつもすまん」

「いいっこなし。急ごう」

「ああ」


 大聖堂の脇を抜け、裏手にある小さな建物へと駆け込む。

 ゴンさんとは、ここでお別れだ。

 俺はそのまま下り階段を駆け下り、ダンジョンへと侵入した。

 向かうは、第一階層にある、三十八階層へ飛ぶ転移陣の部屋。

 間に合うか間に合わないかなんて、分からない。

 だけど、そんな迷いは、足を止める理由になんてならなかった。




 第三十九階層と第四十階層を繋ぐ階段。

 階段部屋と呼ばれる小さな部屋の中に、聖騎士らと冒険者達はいた。

 息絶え絶えに荒く呼吸する聖騎士もいれば、己の出番を待つ聖騎士もいる。

 そして、悲痛な面持ちの冒険者達は、動揺と、怒りと悲しみで満ちていた。

 冒険者パーティーのリーダーであるレスローは、怒りを発散するかのように石壁に拳を叩きつけながら、伸びる通路の先を睨みつけていた。

 階段部屋から伸びる、人三人ほどが横並び出来る程の細く短い通路の先には、横長の部屋が広がっている。

 だが、横長の部屋に面した入口には、今、白く光る守りの壁『大天使(だいてんし)守護(しゅご)』が敷かれ、一面を塞いでいた。

 横長の部屋の中から白き壁へ向け放たれるのは、闇の如く黒い蝙蝠(こうもり)達。

 羽ばたき、白き壁へと突撃する蝙蝠(こうもり)達は、白き壁に当たると共に、ジュッと溶ける様に、消滅していく。

 しかし、蝙蝠(こうもり)が白い壁にぶつかる度に、大天使の守護を維持している二人の聖騎士の力が弱まっていた。

 途切れ途切れで放たれる、無数の蝙蝠(こうもり)

 白い光の壁の先、そして飛翔する蝙蝠(こうもり)の先に、独りの男が優雅に立っていた。

 白髪で、血色が悪い青白い肌をした三十前半程の男は、舞踏会にでも今から参加するかの如き黒い洒落(しゃれ)た装いをしており、色気に満ちた貴族の様である。

 その男、ヴァンパイアは、見る者を魅了する顔に笑みを浮かべながら、周囲へ魔力を放ち続けていた。

 一定の数溜まった魔力が、一斉に黒き蝙蝠(こうもり)へと変じ、白き壁へ飛んだ。

 受ける白き壁の先で、二人の聖騎士が(うめ)く。

 抜け落ちる力に(あらが)いながら、聖騎士達は大天使の守護の維持に(つと)めていた。

 聖騎士が(こら)え、侵攻を阻止する中、レスローが口を開いた。


「このままじゃ済まさねぇ。セラの(かたき)は……この手で討つ」


 リーダーレスローの言葉に、上質な皮鎧を纏う戦士も、杖を持つ手を震えさせていた魔術師も、白い法衣を払い決意の目をした回復術士も、(うなず)きを(もっ)て答える。

 だが、意思を固めた彼らに()を唱える者がいた。

 それは、現在、この聖騎士隊を率いているツヴァイであった。

 ガッシリとした体躯が、レスローへと近付く。


「まて。貴公ら、死ぬつもりか? 援軍が到着するまでの間、ここは我ら聖騎士が死守してみせる。戦うのは、それからでもよかろう」

「他人に討たせる(かたき)なんかねぇ。俺達は、行くぜ」

「……どうしてもと言うのならば、我々も続こう」

「駄目だ。これは、俺達の戦いだ……あんたらは、巻き込めねぇよ」


 短髪を掻くレスローの姿を見て、ツヴァイの四角い顔に苦々しい(しわ)が広がった。

 ツヴァイの視線は冒険者達を次々と見定める。

 その、覚悟の表情を。


「分かった。だが、いつでも下がって来い。彼奴(きゃつら)の攻撃など、我らが全て防いでやろう」

「……その時は、頼む。お前ら、セラの(とむら)いだ。行くぞ」

「おう」「やってやるさ」「ええ」


 リーダーの号令に戦士が応え、魔術師が意気込み、回復術士が静かに同意する。

 彼らは急ぐことなく通路へ向かい、大天使の守護を維持する聖騎士の後ろで止まった。


「勝負は一瞬だ。ゲイリー。俺達が前に出て奴の動きを止めるぞ」

「おう」

「チュルチェは、魔法であの蝙蝠(こうもり)を何とかしてくれ」

「全部、ぶっ飛ばすよ」

「その意気だ。ナタリー、守りと……(とど)めは任せる」

「必ず、この手で」


 指示を出し終えたレスローと戦士ゲイリーは、腰の剣を抜き、(さや)を捨てた。

「≪精霊(せいれい)(のこ)()≫」と呟くチュルチェの呪文に合わせ、二人の剣に炎が宿る。


「魔法は効きにくいから、気休め」

「上等」「助かる」


 レスローは炎の剣を構えたまま、動かない。

 二人の聖騎士が空けた隙間から、白い壁に打ち付けられ、消える蝙蝠(こうもり)の先を見つめ続けた。

 間を空け、一度、二度と蝙蝠(こうもり)の群れが消滅した――その時、魔術師チュルチェの声が響いた。


「今だよ」


 一斉に白い光の壁を通り抜け、四人は横長の部屋へと突入した。

 燃える剣を持ち、散開する様に左右に分かれる戦士二人。

 部屋の中央で魔力を展開するヴァンパイアを正面に捉えたチュルチェは、声高らかに、木製の杖を正面へ向けた。


「これが僕の全力だ。≪暴風竜(ぼうふうりゅう)大薙(おおなぎ)≫」


 杖の先端より生まれた風が怒涛の勢いを持ち、前方へと流れる。

 ヴァンパイアへ向け吹き付ける風の勢いは凄まじく、生み出された蝙蝠(こうもり)達を砕きながら、ヴァンパイアの体を(きし)ませ、吹き飛ばした。

 横長の部屋。その奥の壁へと衝突するヴァンパイアを狙い、戦士が駆ける。

 それを追う様に、回復術士のナタリーもヴァンパイアへと近づいていた。

 壁に激突したヴァンパイアが、突如、全身を白い霧へと変え、動き始めた。

 白い霧と化したヴァンパイアが、ゲイリーへと迫る。

 炎を宿したゲイリーの一閃が、白い霧を切り裂く。

 だが、霧は(わず)かに燃えるばかりで、ゲイリーの体を通り抜けてしまった。

 先手を打ったゲイリーは、その唐突な一撃に万全の対処が出来なかった。

 転がる様に前へと跳ぶゲイリーの背に、三爪の赤い線が刻まれた。

 皮の鎧を紙の様に裂き、肉を(えぐ)る一撃に、赤い鮮血が噴き出る。

 背の痛みに(うめ)きながらも、転がり、ヴァンパイアへと向き直るゲイリー。

 ゲイリーの目に、人の姿へと戻ったヴァンパイアの赤の重なった爪が映る。

 一方、ヴァンパイアは、起き上がろうとするゲイリーを見つめていた。

 ゲイリーが、体勢を崩れてしまっている事は、明白である。

 追撃を試みるヴァンパイアが、狼の如き一足を(もっ)て、跳ねた。

 跳躍と共に、ゲイリーへと振りかぶられた赤い右爪が、甲高い音を立て、その軌道を変えた。

 間に入ったレスローの剣が、中程で折れ、宙を舞う。

 剣の刃を失い、死に体を晒すレスローへと標的が変わった。

 触れる程に近づいたヴァンパイアの左手が、レスローの腹部へと伸びる。

 しかし、レスローは(かわ)しもせずに、その左手を受け入れ、剣を手放した。

 ヴァンパイアの爪が鎧を貫通し、レスローの腹を(えぐ)る。


「ごほっ」


 (こぼ)れる息。流れる血。

 そして『死の愛撫』によって、腹部へ差し込まれた左手を伝い、レスローの命がヴァンパイアへと吸い取られて行く。

 だが、レスローの口元は、ニヤリと弧を描いていた。

 レスローの脳裏には、今、自分が受けている死の愛撫によって、その姿すら残さず殺されたセラの姿が映っていた。


『レスローは、魔法使えないんだから、これぐらい持ってなきゃ駄目よ』

『だからって、こんな高い魔道具買って来るなよ』

『Aランク目指すんだから、それぐらい切り札として持ってなきゃ』

『勿体なくて使えねぇよ……まっ、お守り代わりに、貰っとくぜ』

『使わなきゃ損でしょ』


「だよ、な、セラ」


 レスローは、左手でヴァンパイアの手を掴み、右手を己の腰に回した。

 (さや)に納められた、一本の短刀の(つか)を、レスローは掴む。

 レスローは抜き取った短刀を、ヴァンパイアの左胸へと突き立て、叫んだ。


「吹き飛べぇぇぇ」


 短刀の刀身に埋め込まれた赤い魔工石が輝きを放ち、砕け散る。

 ヴァンパイアが(かわ)す暇もなく、レスローが(まばた)く暇もなく、薄紫色をした魔力の奔流がヴァンパイアを包み込んだ。

 魔力の奔流に弾き飛ばされ、吹き飛ぶレスローは、力なく、壁に激突する。

 ヴァンパイアの雄叫びが、部屋中に木霊(こだま)した。

 呪いに満ちた酷く耳障りな声が続く中、魔力に飲まれたヴァンパイアの体が砕け、塵となって消え始める。

 見る者を魅了する顔も、貴族の如き姿も見る影は無く、身が削れ、穴の開いた姿は、まるで虫に喰われた後の様であった。

 奔流が治まる直前、駆ける者がいた。

 戦士ゲイリーが、その力の収縮に合わせ、ヴァンパイアの胴を薙ぐ。

 走る炎が、ヴァンパイアを両断するが、致命には至らない。

 虚ろに立つヴァンパイアへ、白い影が肉薄し、その胸に触れた。

 刀身ごと砕け、消滅した魔道具が生んだ傷に、触れる様に。

 そしてヴァンパイアに振れたナタリーは、凛とした声を上げる。


「≪聖母(せいぼ)(いの)り≫よ。私に力を」


 彼女の右手から柔らかな光が放たれた。

 触れる胸から、ヴァンパイアへと広がった光は、その崩れかけの体を淡く、白く発光させる。

 ヴァンパイアの断末魔が、ナタリーの耳を侵す。

 ナタリーは、ヴァンパイアを見据えたまま、動かない。

 光に包まれたヴァンパイアの末端が、砂の様に崩れ、塵の様に空気の中へと溶けて行く。全身が、塵と化すのに、そう時間は掛からなかった。

 小指程の小さな魔石が一つ、音を立て、石畳に転がる。

 それは、ヴァンパイアを討伐した証。

 息を吐きだしたナタリーは、急ぎ、レスローへと向き――その時、ゲイリーの怒声が響いた。


「もう一体だ!」


 ナタリーと、駆け寄って来ていたチュルチェの目が、もう一つの通路から飛び出してきた狼の姿を見た。

 白く、速く、石畳を駆ける狼が、ヴァンパイアの変じた姿である事を、三人は即座に理解した。

 ナタリーとチュルチェを守ろうとするゲイリーの剣が空を切る。

 狼と交差したゲイリーの腕から、赤い血が飛び散る。

 ゲイリーを突破した狼は、瞬時に白い霧へと姿を変え、そしてナタリーとチュルチェの目の前で、急速に人の形へと変化した。

 赤き爪が輝き、鋭い牙が怪しく光る。

 咄嗟にチュルチェを突き飛ばしたナタリーは、拳を構え、口を動かす。

 だが、ナタリーには分かっていた。

 間に合わない、と。

 ナタリーとヴァンパイアの視線が重なった――瞬間、ナタリーは異常なまでの魔力を感じた。

 ナタリーが言葉を紡ぐよりも早く、その異常な魔力はヴァンパイアの中へと吸い込まれて行った。青い輝きが、ナタリーの目に残像として残る。

 呆気にとられるナタリーの前で、膨大な魔力がヴァンパイアの中で弾けた。

 それが凍結の魔法である事を、凍り付き、毛先一つ動かぬヴァンパイアを見て、ナタリーとチュルチェは気付く。

 駆ける足音と共に、ヴァンパイアの体に炎が走った。

 一閃、また一閃と走った炎は、凍り付いたままのヴァンパイアの体を喰らい、塵も残さずに消滅させた。

 落ちる魔石よりも、ナタリーとチュルチェの目は、炎の大剣を握る青年に惹きつけられてしまう。

 金の髪を揺らす青年の目は、ナタリーとチュルチェには向かず、先程ヴァンパイアが侵入してきた通路へと向けられている。


「二人の治癒を、早く」


 そう言い放った青年は、ナタリー達の返事を聞く事もせず、真っ直ぐ通路へと駆け出していた。

 聖騎士達が、近付く足音がナタリー達の耳に届く。

 急がないと。

 ナタリーは、壁に打ち付けられたレスローの元へと走った。

 戦いに背を向け、回復術士の使命を(まっと)うする為に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ