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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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78.幕間~五長会議~

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝

 ある屋敷の一室にて、三人の人物が集まっていた。

 円卓に五つの椅子が用意されており、現在二つが空のままである。

 そこに扉を開け、一人の女性が、大きな胸を揺らしながら駆けこんできた。

 ふわりとした薄い桃色の髪に、おっとりした印象を持つ顔つきの女性、商業ギルド『白馬(はくば)(ひづめ)』ギルドマスターのプリシラは、甘い声で言った。


「私が最後だったみたいね。御免なさい」


 そして、彼女は空いている一席に座った。

 大柄で髭面の男、冒険者ギルド『鉄骨龍(てっこつりゅう)(きば)』ギルドマスターのギルマスは、しゃがれた声で言った。


「最後ではない、太陽伯の代理がまだだ」


 この町の代理統治者に与えられる爵位、太陽伯。

 本来、この集まりに参加するはずの太陽伯。

 その代理すらも来ていないことを、ギルマスが言及した。

 彫刻じみた顔をし、全身が筋骨隆々の男、工房ギルド『精霊銀(せいれいぎん)(つち)』ギルドマスターのノックは、屋敷中に通るような大声で、それを訂正した。


「ギルマスよ、今日はこれで全員だ」

「そうそう。四人の長に任せるって言ってたわ」

「あの若造め……代理一つも立てられんとは」


 呆れと苛立ちを隠さぬ、ギルマスの言葉。

 ギルマスの感情など気にもせぬ冷静さで、ノックが言った。


「太陽伯の代理など、誰もできぬさ」

「チッ。ならば早く始めろ」


 見事な白髭を貯えた老人、魔法学派『フクロウの(ひとみ)』学派長のフィンスティングが、閉ざしていた口を開き、開始の宣言をする。


「では、五長(いつおさ)会議を始めよう。皆、議題は分かっているな」


 三人が首を縦に振る。


「鉄骨龍よ、説明を頼む」

「ああ。王都近郊でのダークマター事変はもう終わった。十年前にあれだけの大口叩いていた騎士団の連中も少しは黙るだろうな、被害は村々の人的被害と騎士団。後は王都の冒険者だけだ」

「王都からの救援依頼は、全て?」

「終わらせた。王都の冒険者も頼りになるのは一部だけで、後はゴミだ」


 学派長の問いに答えるギルマスは、王都の冒険者達を思い出し、鼻で笑った。


「村は、ちゃんと機能してますか?」


 ゆったりとした声でギルマスに尋ねたのは、プリシラである。


「問題ない。輸送や商売には影響はない範囲だ。機はそちらで勝手に見ろ」

「ギルマスよ。人死にを軽く扱うのは好かんな」

「ノック君って若いんだ。自分のやるべき範囲を(わきま)えないと、何にもできないよ」

「しかしだな」


 ノックは、大きな声で否定する。

 それを眺めるプリシラは、穏やかな笑みを浮かべている。

 まるで子供を見るような笑顔だ。柔らかな口から言葉を発する。


「ノック君なら、物を作る。私なら、お金と物を動かす。ギルマス君なら、困った人を助ける。お爺ちゃんなら、魔法の未来を見据える。自分のやるべき事以外に目を向けちゃうと、足元がぐらぐらしちゃうよ。ノック君もギルドマスターなんだから。ね?」

「フンッ! 貴様は金儲けがしたいだけだろうが」

「真っ当に儲けたい人の元にお金がいかない。そんな貧乏な世界は、私、嫌いよ」


 語気の強いギルマスの言葉を、プリシラは軽く受け流し、ウインクする。


「話がずれているぞ。鉄骨龍よ、他に何か言うべきことはあるか?」

「下手人は死んだ。俺からは、それ以外は無い。次はフクロウの番だ」


 ギルマスの返しに、学派長は(うなず)く。


「ダークマターの調査および破壊に向かった者達の報告は、各々、既に目を通しておるだろう。魔力的痕跡以外は、何もなかった。ただそれだけだ。犯人不明。ダークマターの行方も不明。モンスターの黒い影の軍団も、詳細も不明」

「フンッ。フクロウでも、結局分からないだらけか」

「お爺ちゃん。村々の被害状況を教えて」


 学派長の言葉に、それぞれの反応を示した。

 ギルマスは悪態を吐き、ノックは無言を貫き、プリシラは状況確認を求める。


「テゴの村とユラの村は、一部の村民以外は建物含め全滅。撤去して建て直す方が早い。ナッツ村は、村民は無事だが、村は機能していない」

「領主はなんて?」

「民に復興を約束しているが、期待はしないことだ」

「うーん。ならもう動いている子達だけでいいか……ありがとう。お爺ちゃん。でも、あと一つだけお願い聞いてくれる」


 笑顔のプリシラを見る学派長の目は、鋭いままだ。

 学派長が、白い髭を撫で付けながら、口を開いた。


「魔石の事ならば、調査後は白馬に一任する。流通量の管理は、白馬のやるべき事だろう」

「お爺ちゃんは、話が早くて好きよ」

「話が勝手に進んでいるが、テーベ平原にて入手した魔石は、いったい”誰”の物なのだろうな」


 ノックの通る声が、疑問を発する。

 学派長は、表情一つ変えない。

 プリシラは「あー。そうね」と何かを考え始めた。

 ギルマスの顔は、苛立ちを見せてはいるが、不満は無いようだ。


「ダークハウンドとホークマンは調査隊による討伐(ゆえ)に、我らフクロウの物だな。それ以外は、ミネルヴァ副学派長とマルク氏に聞くべきことだ」

「バルザックらには、十分な報酬が与えられている。我ら鉄骨龍は、関与せん」


 学派長、ギルマスの言葉を聞いた後、プリシラが首を傾げながら言った。


「マルク君って、勝手に取引したら怒る子?」

「いや」「無いな」「気にもしない」


 プリシラの疑問を、学派長、ギルマス、ノックは即座に否定した。

 プリシラは、その言葉達に口をへの字に曲げる。


「何よー。みんなして、マルク君のこと知ってます感出しちゃって」

「一度会えばわかる」


 そう言ったノックの口角は上がっている。

 学派長も、ノックの言葉に同意するように(うなず)いた。

 ギルマスは、明後日の方向を向いて、我関せずといった様子だ。


「私たち白馬だって、マルク君の事、欲しいんだからね。もぅフクロウばっかりマルク君のこと独り占めしちゃって。今だって何かやらせてるんでしょう」

「今回の調査は偶然だ。フクロウから依頼をした訳ではない」


 表情一つ変えずに白髭を撫でている学派長に、プリシラが声を大にして言った。


「それってテーベ平原の報告書にも似たようなこと書いてたでしょう。ミネルヴァちゃんが勝手にやったとか言っても聞かないからね」

「むぅ……本当に副学派長の独断なのだがな」

「我ら精霊銀としては、たまに手を借りるだけで十分だ。精霊銀を切断できるあの腕は、独占したくはあるがな」

「俺は知らん」


 怒るプリシラ。困る学派長。

 微動だにしないノック。無関心をきめこむギルマス。

 言い争いを止める者もなく、流れが元に戻るまで、(しば)しの時間が必要だった。




「魔石の取引は、先に行う。マルク君には事後報告。問題発生時はフクロウが対処。でいいですね、お爺ちゃん」

「よい」


 小気味良い学派長の返事を受け、プリシラの顔に笑みが戻った。


「マルク君の取り扱いについては、保留という事で」

「よい」「構わぬ」「知らん」


 プリシラの提案に、学派長とノックは同意する。

 ギルマスも、関与せずという態度のままだ。

 学派長は全員を見渡し、次の議題へと移る為に動く。


「では、此度の本題へと入ろうか。この町に訪れる公爵への対応だが――」


 会議は終わらない。

 先程までとは打って変わって、心底面倒だという雰囲気を隠そうともしない四人の長たちによって、話し合いは続く。

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