表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

795/1014

788.枯れ木のパラサイト~後編、そして~

 炎帝竜の大剣が、枯れ木の巨人の振り下ろした右腕を捉え、その斬撃の道筋通りに赤い炎を刻んだ。

 斬撃(こん)から広がる炎は、瞬時に巨人の右腕を喰らい始める。

 俺の頭を打ち据え、叩き潰す(はず)であった腕部は、炎に包まれ、(ちり)すら残さず消滅した。炎が俺の肌を撫でるが、熱さ一つ感じない。

 視界の先で、枯れ木の腕を(ちり)に変えながら、右腕の根元へと炎が浸食していく。

 だが、狙いは奴の体ではなく、巨人の顔から俺を見下ろす赤い(こぶ)、一点。

 一瞬でも早く近付き、直接、斬る。

 

「≪(じゅう)――」


 呪文を唱え始めた俺の目に、嫌な光景が映し出された。

 巨人の腕の中程までを喰らっていた炎が、突如、爆発したかのように空中へ拡散してしまった。炎を(まと)う枯れ木が、弾ける様に空中に散る。

 あれは、炎帝竜の大剣の力じゃない。

 枯れ木の巨人自身の仕業だ。

 (みずか)ら燃える枯れ木を切り離し、炎に焼かれるのを防いだという事か。

 対応の早い相手だ。

 だが、空中へ向けた足も、呪文も止めない。

 踏み出した足を下ろす空中。そこに魔力の足場を生み出し、踏み込み、蹴る。

 一蹴り、二蹴りと、奴の顔を目指し空を駆ける。

 同時に口を動かし、呪文の続きを唱えた。


「――(おう)跳躍(ちょうやく)≫」


 足元へと放たれた魔力が、生み出した魔力の足場を破壊し、代わりに俺の体を高く飛翔させる。

 跳ぶ体は奴の顔へと近づき、正面へ向けた炎の剣の切っ先は、人の倍ほどに大きな赤い(こぶ)へ突き進み――赤い(こぶ)が、枯れ木で出来た体の内側へと逃れる様に、その姿を隠した。

 一つ目が消え、のっぺりとした顔面へ炎が突き刺さると同時に、俺は左手と両足を顔へ突き立て、衝撃を緩和させる。

 逃げた赤い(こぶ)を追う為に、右手に握る炎帝竜の大剣を押し込むも、奴は既にそこには居なかった。

 奴は――下。

 俺は左手と両足を巨人の顔から離し、自由落下に身を任せ、落ちた。

 突き立てたままの炎帝竜の大剣が俺の落下に伴い、枯れ木の巨人に赤い(あと)を残して行く。

 落ちながら斬るよりも、燃え、消えるのが、早い。

 だが、重要なのは、この枯れ木で出来た巨人の体ではない。

 狙うべきは、本体だ。

 逃げた赤い(こぶ)は、炎に追われながら巨人の頭から首、胸、腹と逃げ、俺から遠ざかるように背から空中へと脱した。

 巨人にこだわる理由なんて奴には無いのだから、先程、新たに生み出した枯れ木に模したモンスターを集め、また新しい体でも作るつもりなのだろう。

 いや、それとも、ただ逃げるつもりか?

 どちらにせよ、そうはさせない。

 魔力の足場を生み出し、斜め下へと駆け下りながら、逃げる赤い(こぶ)のボコボコとした背へ狙いを定める。

 燃え尽きた枯れ木の巨人の体は、空を駆け下りる俺の邪魔をする事はない。

 この魔法を防ぐ盾にもならない。


「≪氷結(ひょうけつ)投擲槍(とうてきやり)≫」

 

 結晶から槍へと変じた魔法が、青い閃光となって空を裂く。

 赤い(こぶ)を貫くのも、直線上の大地へ突き刺さるのも一瞬の事であった。

 移動していた慣性すら凍り付いたかのように、空中で動きを止める赤い(こぶ)

 氷結の投擲槍による凍結の力が長く続かない事は、先の一撃で既に知っている。

 だが、動き出すまでの時間は把握済みだ。

 落下と跳躍。

 それだけで届く距離まで走り、跳ぶ。

 跳躍した方向を風の羽で微調整をしながら、赤い(こぶ)の脇へと進む。

 交差する瞬間、両手で構え直した炎帝竜の大剣を払い、そのボコボコとした体の中央に炎の線を描いた。

 俺は、そのまま斜めに落下しながら、風の羽を操り、空中で身を(ひるがえ)した。

 遠ざかる赤い(こぶ)が、炎に浸食され、(ちり)へと帰る。

 炎が消えた今、先程まで赤い(こぶ)が居た空中に残るのは、小さく光る魔石一つだけであった。

 風の羽に魔力を込め、落下速度を緩やかにしながら周囲を見回すと、先程赤い(こぶ)から放たれた種子より生まれたモンスターが、溶け消える様子が目に映った。

 枯れ木に模したモンスターが消えても、吸い上げられた命は戻らない。

 今は、一つの脅威が去った事を、喜ぼう。

 だが、一息つく時ではない。


「≪魔力(まりょく)(やり)≫」


 魔石の落ちた場所へ一本の槍を放ち、目印代わりに地面へ突き立てる。

 回収は後だ。

 俺は、急ぎ地面へ降り立ち、南西へと走った。

 無事だと確信していても、早くバルザックさん達と合流しないと。




「ハハハッ。どんだけタフなんだぁ? てめぇはよぉ――オラァ」


 高みより振り下ろされるサイクロプスの左前腕に対し、バルザックは両手で握る大剣を払った。

 暴風の如き、拳と大剣。

 二つは重なり、弾き合い、互いに進むべきであった軌道を元へと戻す。

 裂ける肉に構う事なく、サイクロプスは逆側の右腕を振り下ろす。

 対し、バルザックも崩れた体勢を全身の筋肉を以て立て直し、すぐさま大剣で迎え撃った。

 大地を揺らす剛腕は、バルザックの斬撃に阻まれ、地を穿(うが)つ事はなかった。

 切り裂いたサイクロプスの右腕が、既に再生している事を見て、バルザックは挑発的な笑みを浮かべる。


「おらっ、どうした? 四本腕は飾りか?」


 (おのれ)の九から十倍程に高い巨人を前に、バルザックは軽口を叩く。

 その胸中では、先程、突破を図ってきたサイクロプスから魔術師を守り、剛腕をその身に受けたテガーの安否がちらついていた。

 だが、バルザックは(おの)が役目を果たす為に、巨人の前に留まり続ける。 

 砂漠の砂のような色をした巨体が咆哮(ほうこう)を上げても、バルザックは意にも介さず、大剣を斜め後ろへと流す様に構え続ける。

 一つ目が自分を捉えている事を認識しながらも、バルザックの目は、その一つ目ではなく、目の上に生えた捻じれた一本角を見ていた。


(頼んだぜ、サラス)


 打破への一手を待ち、バルザックは迫る足を跳躍一つで(かわ)し、(おのれ)を掴まんとするサイクロプスの腕を切り裂いた。

 続く三つ腕が、休むことなくバルザックを襲う。

 到底、人の身では抗う事の出来ぬ巨人の剛力を、バルザックは己の膂力(りょりょく)と技のみで弾き返し続けた。

 その隙を()うようにサイクロプスの足元へと急接近したドムが、サイクロプスの(かかと)を大斧で叩き割る。

 一撃離脱するドムを狙った拳が、地面を叩いた。

 力強き一撃に大地が揺れるが、それはバルザック達が警戒する魔力によるものではなかった。剛腕ゆえの揺れ。

 そんな揺れ一つで動きを止めるドムとバルザックではない。

 サイクロプスの腕や足の届く範囲から離脱したドム。

 そして、ドムへと敵意が向いた瞬間を見計らい、ドムの叩き割った足とは逆の足へ駆けるバルザック。

 眼前の太すぎる足へ向け、バルザックは渾身の一撃を振り抜いた。

 鋼の如く硬いサイクロプスの皮膚を裂き、巨大な大剣が(くるぶし)(かかと)の間を(わか)つ。

 裂けた肉から青い液体が噴き出し、枯れ木の山を染めた。

 ()しものサイクロプスも、大きく崩れ、前へと倒れ込む。

 サイクロプスは、枯れ木の枝を破壊しながら片膝で大地を穿ち、四つ腕にて地面を叩いた。

 好機と攻め込もうとするバルザックであったが、シャラガムの声で止まった。


「来るぞ、≪魔力(まりょく)(かべ)≫」

「チッ」


 サイクロプスへ向いたまま、離れ、跳ぶバルザックの動きは素早い。

 跳躍したバルザックの足が、地面につく事はなかった。

 ついたのは、シャラガムの生み出した魔力の壁の上面。

 その時、サイクロプスが上体を軽く反り、地面につけていた四つ腕を一斉に振り上げた。振り上げた四つの拳は、そのまま大地を叩く為に振り下ろされる。

 瞬間、地面と拳が激しく重なり、大地が弾け飛んだ。

 魔力の壁が、下から突き上げる力で揺れる。

 バルザックは、自然と体勢を崩さぬよう揺れに対処しながら、周囲を見回していた。前後左右、自身の乗る魔力の壁以外の全てを(おお)い尽くす土を見ながら、思う。


(ハハッ、こんなん知らずに避けれんのは、マルクぐれぇだろうな)


 サイクロプスが動き出さないか注意しながら、バルザックは降り注ぐ土砂や枯れ木にも同時に注意を向けていた。

 だが、土砂や枯れ木の一部は、バルザックの真上にも生み出されていた魔力の壁により遮られており、バルザックの体に触れる事は無い。

 土と石と砕けた枯れ木の降る中、力強いサラスの声が響いた。


「さぁ、(こうべ)を垂れなさい。≪破滅(はめつ)奔流(ほんりゅう)≫」


 土砂が落ち切る時と、サイクロプスが動き出す時の合間に、呪文の終わりがピタリとはまった。

 膨大な魔力の波がサイクロプスの真上に生まれ、落ちる。

 空から魔力を叩きつけられたサイクロプスの体が(きし)み、地につけたままの四つ腕がメシリ、メシリと音を立てる。

 屈服させんとする力と、巨人の(あらが)い。

 均衡が崩れる前に、バルザックとドムは走り出していた。

 魔法と力。

 限界を迎えたのは、サイクロプスであった。

 四つ腕と上体が地に叩きつけられ、破壊の音を響かせる。

 だが、次第にサラスの魔法も弱まって行き、消えてしまう。

 魔力に圧し潰され土煙すら上がらぬ中、荒れた大地を駆けていたバルザックは、サイクロプスの顔の前で立ち止まった。

 そして、大剣を大きく振り上げたバルザックは、恨めしそうに顔を持ち上げたサイクロプスへと、勢いよく振り下ろした。

 バルザックの全身が躍動し、目にも止まらぬ斬撃を生む。

 輝く銀線に裂かれた一本角は、いとも簡単に砕け散り、もののついでと言わんばかりに、サイクロプスの顔に縦一直線の傷を生み出した。

 深い、深い、傷を。

 当然、中央に位置する一つ目もまた裂けており、黒目の円が、中央を境に左右でずれ始める。

 その時、(なか)ば決着はついていた。

 だが、バルザック達は手を休めはしない。

 バルザックの大剣が(うな)り、ドムの大斧が巨腕を飛ばし、サラスの魔法が降る。

 如何(いか)に巨大であろうとも、彼らの猛攻に耐える事など出来なかった。

 人ほどに巨大な魔石を残し、サイクロプスは塵となり、山に散る。

 炎の剣を握り締めたまま駆け付けた青年の役目は、何一つなかった。

 それでも、駆け付けた援軍に対し、バルザックは(いか)つい顔に笑みを浮かべ言う。


「よぉマルク。こっちも終わったぜ。おつかれさん」


 そして青年から視線を逸らした、バルザックの目に、シャラガムに支えられ立つテガーの姿が映った。

 口から零れる安堵を隠す様に、バルザックは皆に指示を出す。


「シャラガム。テガーの治癒を。サラス、マルクは二人を頼む。ドムは俺と偵察だ。行くぞ」

「「「おう」」」「了解」


 独りで大物狩りをした功績をひけらかす事もなく、傷ついたテガーの元へと向かうマルクを見て、バルザックは苦笑いを浮かべた。


(これで、俺達より(よえ)ぇと本気で思ってんだからな、こいつ……)


 バルザックの肩を叩くドムもまた、バルザックと同じ顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ