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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十七章

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787.枯れ木のパラサイト~前編~

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 斜面を駆け、下りながら枯れ木で出来た巨人との距離をはかる。

 近付けば近付く程に、見上げる角度が大きくなり、相手の巨大さが(うかが)えた。

 枯れ木の巨人は、その長い足を大きく踏み出し、こちらへ接近せんとしている。

 巨人の長い足は、地に残る枯れ木を物ともせず、足を動かす度に、枯れ木の森が砕け散っていく。

 巨人の股は、地に残る枯れ木の三倍ほどの高さがあり、全長は目測出来ぬほどに高かった。

 巨大すぎて、間合いをはかるどころではない。

 炎の魔法の有効射程まで接近出来たならば、出来るだけ距離を取るべきだな。

 俺は斜面を下るのを止め、横へ走る事にした。

 点々と枯れ木の残る山の中を走れば、この一帯の命が奴に吸い尽くされている事が自然と分かる。

 草木は枯れ、地は乾き、動物や虫の姿すら見えない。

 幸か不幸か、普通の山や森の中よりは幾分か戦い易くはある。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫、≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫……」


 呪文を唱える度に十の燃え盛る火球を宙に展開し、枯れ木の巨人へ向け、放つ。

 火球は、巨人の顔と胴へと吸い込まれる様に飛び、命中と共に爆発を起こした。

 火球そのものの熱と爆発により、奴の体が砕け、燃える。

 だが、燃焼は全身に伝わる事はなかった。

 巨人は、火球が命中し、燃え、砕けた枯れ木を自身の体から切り離していた。

 奴の体から離れた枯れ木は、燃えたまま、空中にて消失する。

 そして、体から生えた木々が瞬時に損傷した部位を埋め、修復されていく。

 まるで部品を入れ替えるかのように。

 俺は付かず離れずを保ちながら走り、呪文を唱え続けた。

 一射十球。

 ただひたすらに火球を飛ばし、奴の体を燃やし、砕き、吹き飛ばし続ける。

 奴が体を作り直す度に、奴の魔力は減って行くはずだ。

 魔力は無限ではない……だが、この枯れ木の森を見るに、どれ程の魔力を貯えているか、分かったものではないな。

 今はまだ、相手が近付く以外の動きをみせるまで、同じことを繰り返そう。

 (しび)れを切らすのは、相手か、俺か。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫、≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫……」


 足と口と魔力を動かし続け、斜面を横切りながら、幾十、幾百と火球を飛ばす。

 顔の真ん中にて存在を主張する赤い(こぶ)にも火球は命中しているのだが、残念ながら大きな効果は見られない。

 だが、間違いなく、あれが本体だ。

 あの赤い(こぶ)に炎帝竜の大剣を突き刺せば、恐らく勝てる。

 (はや)る気持ちが、安易な選択を取りたがる……だが今は選べない。

 攻めと守り。危機と安全。

 踏み込んで勝てるのならば、踏み込む。

 踏み込まねばならぬのならば、踏み込む。

 だが今は、我慢の時間だ。

 安易な選択を取れば、死ぬのは俺だけじゃない。

 巨人を野放しにすれば、サイクロプスを倒しに向かってくれたバルザクさん達が挟み撃ちに遭い、死ぬ。

 それは、御免だ。

 迫る巨人、飛ぶ火球、響く爆発音。

 追っても追いつかぬ俺に(しび)れを切らしたのか、枯れ木の巨人は動きを変えた。

 足を止めた巨人に合わせ、俺も足を止める。

 足は止めても、口は止めない。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」


 火球をその身に受けながら、巨人は己の両腕を伸ばし始めた。

 巨人は、地を(すく)うようにその両腕を振る。

 そのまま肩の上へと持ち上げられた右腕には、枯れ木が握られていた。

 それで何をするかなんて、明白だ。

 俺は再び駆け出しながら、守りの魔法を展開した。


「≪風精霊(かぜせいれい)封壁(ふうへき)≫」


 うなりを上げた巨人の右腕が、握る枯れ木を投擲(とうてき)する。

 枯れ木が飛び、先程まで立ち止まっていた地面に突き刺さった。

 そして巨人の左腕が動き、次の枯れ木が飛ぶ。

 だが、呪文を唱え終わり、足を止めた俺の正面には、既に三枚の不可視の壁を展開している。

 見えぬ守りの壁に枯れ木が衝突し、枝を砕く。

 勢い強く投擲(とうてき)された枯れ木は、俺の封壁を一枚砕いた所で、その動きを止めた。

 枯れ木の幹が地面へ落ちる前に、俺は封壁を消し、再び走り出した。

 地に落ちた枯れ木が、地面を鳴らす。

 これならば、防ぐよりも(かわ)した方が良い。

 巨人は直立したまま腕を更に伸ばし、次々と枯れ木を地面から引っこ抜き、俺へ投げ付け始めた。

 迫る枯れ木は、駆ける俺を捉える事は出来ず、地に突き刺さり大地を揺らした。

 俺は回避を自身の足に任せ、攻撃を続ける事にした。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫、≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫……」


 火球と枯れ木が空中ですれ違い、それぞれの目指す先へと飛ぶ。

 爆発する火球が巨大を削り、枯れ木が大地を(えぐ)る。

 枯れ木の巨人は、地面から普通の枯れ木を引っこ抜きながら、こちらへ向け歩き始めた。厄介な事を。

 流石に飛翔する枯れ木を(かわ)しながら、距離を離し続ける事は出来ない。

 迫る木々を(かわ)し、火球を放ち続けながら、次の一手を考える。

 魔法で再び距離を離すか、それとも――その時、巨人の顔にある赤い(こぶ)から魔力の流れを感じた。

 同時に、投擲(とうてき)を続けていた巨人の動きそのものも変化した。

 地を擦るほどに長くなった腕を地面へ置き、上体を反った巨人は、顔を空へと向ける。一つ目の如き赤い(こぶ)で空を見上げる様に。

 何をするかは分からないが、好きにはさせない。

 急ぎ、魔力を高め、魔法を組み立てる。

 作り出すは長き槍。鋭く貫き、凍結の力を(もっ)て、その魔力ごと凍り付かせろ。


「≪氷結(ひょうけつ)投擲槍(とうてきやり)≫」


 俺が頭上に一つの青白い結晶を生み出すと同時に、巨人の赤い(こぶ)から空へ向け無数の球体が、次々と飛び出し始めた。

 (すん)でで間に合わなかった事を悔やむよりも、奴の企みを止める事が先だ。

 俺は即座に結晶を槍へと変化させ、魔力の集中点である赤い(こぶ)へ向け放った。

 瞬く間に巨人の胸から頭へと進み、貫いた槍が、その軌跡を追う様に青い閃光を空に残す。

 赤い(こぶ)の動きは、その魔力が凍り付くと共に、止まった。

 だが、既に空へ放たれていた球体は周囲に散り、地面へ向け落下を始めている。

 俺は自分へ向け落ちて来た手のひら大の球体を、腰の剣を抜き、切り払った。

 半球状に二つに分かれ、地に落ちたそれを見て、俺は自分の失敗を知る。

 地面へ溶ける様に消えたそれは、種子であった。

 いや、消えたのではない。

 真っ二つに切断されて(なお)、その種子は動いていた。

 その二つの場所で、魔力が(うごめ)き、急速に地面から伸び、それは姿を現した。

 枯れ木――違う、枯れ木に()したモンスターだ。

 俺は、急ぎ前へ駆けながら、モンスターの腕の距離から離脱する。

 モンスターが攻撃を始めるよりも前に、速く。

 俺の走り抜けた後を、枝の如き腕が追い、地面を(えぐ)り取る音が聞こえた。

 俺は後ろの二体を放置し、巨人へ向け全力で走る。

 態々(わざわざ)感知に集中しなくても分かる。

 あちこちに落ちた種子が、今、どうなっているか。

 奴らは地面から伸び、その魔力を隠す事なくワサワサと枝を動かし続けている。

 今はまだ、その場から動かず、枯れた大地から、更に命を吸っている様だ。

 急がないと。

 途中で止めたとはいえ、かなりの数の種子が地面に落ちた。

 その全てに囲まれでもしたら、ひとたまりも無い。 

 巨人はまだ、静止したまま動かない。

 今の内に近づき、攻めるしかない。

 先程までの遠距離からの攻撃が、誤りだったとは思わない。

 だが、結局前に出て、決着をつけるしかない訳か。

 未知の相手と戦う場合は、仕方が無い事だ。

 意識を切り替え、魔法の発動へと専念する為に言葉を(つむ)ぐ。


()原初(げんしょ)(ひかり)(たけ)(なんじ)()れるは(だれ)ぞ――」


 想像するのは、一本の炎の剣。

 最大の魔力を込めた炎帝竜の大剣は、使わない。使う訳にはいかない。

 今は、母と炎帝竜さんと俺自身の炎を燃え上がらせる。

 染み付いた言葉が、魔力の操りを助け、想像を明確にしていく。


「――(いま)ここに(ちり)()(もの)()を、(われ)に、(しめ)せ――」


 枯れ木の巨人が上を向いていた上体を起こし、その赤い(こぶ)を俺へ向けた。

 凍結の力から素早く逃れた奴に対し、恨み言を呟く暇なんてない。

 俺は走りながら左手に持つ剣を横へ投げ捨て、最も信頼する剣の名を、叫んだ。


「――≪炎帝竜(えんていりゅう)大剣(たいけん)≫」 

 

 先程まで直剣を握っていた左手から炎が生まれ、伸びる。

 炎は身の丈程に成長し、俺の魔力を喰らいながら、赤々と燃え上がった。

 左へ流した切っ先をそのままに、炎の(つか)に右手を添え、滑る様に足を止めた。

 もう既に、巨人の腕の届く範囲。

 巨人の対応は早く、振り上げた右腕を、俺へ向け振り下ろしていた。

 枯れ木で出来た腕は太く、俺の体なんて簡単に叩き潰せるだろう。

 だが、回避はしない。

 俺は、握り締めた炎の剣を信じ、斜め上へ向け、左から右へと剣を払った。

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