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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十七章

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786.燃える木々

文章修正

 木々を薙ぎ払う想像と共に、この身の内側にて炎の力を高める。


「我が内なる竜の目よ。その眼光を(もっ)て射抜き、その炎を(もっ)灰燼(かいじん)と化せ――」


 本来、ただ横に炎で薙ぎ払う魔法。

 それを繊細に操る為に言葉を紡ぎ、魔力を炎へ、そして魔法へと変える。

 生み出すのは炎竜の放つ一撃。

 俺は(そら)へ左手を掲げ、呪文を唱えた。


「――≪炎竜(えんりゅう)一閃(いっせん)≫」


 左手から生まれた魔力の塊が、赤く輝きながら空へと飛ぶ。

 高く、高く。

 上昇する魔力の塊を停止させ、俺は掲げた左手を振り下ろした。


()ぎ払え」


 言葉に従い、魔力の塊から一筋の赤き光が放たれた。

 その光が指し示すのは、遠い枯れ木の根元。

 光そのものに熱はなく、ただ地面へ突き刺さるだけ。

 魔力の塊から放ち続ける光を操り、空から地上へ線を引く。

 枯れ木と枯れ木を、光の線で繋ぐ、繋ぐ、繋ぐ。

 (またた)く間に五十の線を地面に刻み、俺は魔法の力を解放させた。

 瞬間、描いた線に沿って炎の柱が立ち昇り、枯れ木を包み込んだ。

 炎を制御し、狙った枯れ木以外を燃やさぬ様に集中する。

 アッと口から(こぼ)すよりも早く、枯れ木が黒に染まり、砕け、地に落ちた。

 だが、瞬時に焼け落ちたのは枯れ木だけであった。


「チッ。そう言う事かよ」


 バルザックさんの呟きに合わせ、全員が炎に包まれている木々へと駆け出す。

 十数本の枯れ木は、燃え、朽ちた。

 今もなお朽ちず、残り、燃え続けている木々……あれらは、モンスターだ。

 擬態は無意味と知ってか、モンスターは(みき)と枝を大きく揺らし、暴れている。

 だが暴れ、払おうとも、その枝の先端まで焼く炎は、消えない。

 恐らく、奴らに追撃は不要だ。

 だが問題なのは、枯れ木に擬態しているモンスターが、今、燃えている奴らだけではない事。そして、どれ程いるか分からぬ事。

 立ち並ぶ枯れ木の森を走りながら、周囲へ警戒の目を向ける。

 すると突如、通り過ぎようとしていた横の枯れ木から魔力を感じた。

 俺達は一斉に跳び、散開する。

 魔力を感じ取れぬはずのバルザックさん達戦士も、ほぼ同時に動いていた。

 そして、伸び、しなり、振り下ろされた枯れ木の枝は、誰も居ない地面を(えぐ)る。

 戦士の動きは速い。

 (かわ)すと共に得物を手に持ったバルザックさん、ドムさん、テガーさんは、俊足を(もっ)て枯れ木に接近していた。

 俺達魔術師は、周囲を警戒しながら枯れ木から離れる。

 伸び、振り下ろされる枝を、大剣と大斧が粉砕する。

 剛腕にて払う一撃に、細い枝状の腕が耐えられる訳がなかった。

 バルザックさんとドムさんが枝を吹き飛ばす中、独り(みき)へと接近したテガーさんが、両手で握り締めた大斧を振り抜いた。

 直角に侵入した大斧の刃が、枯れ木の(みき)を両断する。

 二つに分かたれたモンスターは、その上部を重力に任せ倒しながら消滅していった。地面へ繋がる下部もまた、同時に消える。

 その間に燃えていたモンスター達もまた、塵となり、消滅していた。

 切断され、消えた敵。

 燃え、消えた敵。

 その二つを見た俺は――俺達全員は、警戒をより(つよ)めた。

 そして全員の言葉を代弁するように、バルザックさんが呟く。


「本体は、何処(どこ)に居やがる」


 消滅したモンスターは、魔石を落とさなかった。

 ロードゴブリン、イービルリッチ等々(などなど)……モンスターの中には、己の魔力を使って別のモンスターを召喚する力を持つ者がいる。

 そして、奴らに生み出されたモンスターは、魔石を残さない。

 この枯れ木に擬態していたモンスターも、同じく。

 生み出したモンスターが、燃やされ、叩き折られたのだ。

 もうすでに、本体であろう謎のモンスターも、俺達の事を認識している(はず)

 各人(かくじん)、周囲を警戒する中、バルザックさんの声が静寂に響いた。


「シャラガム、なんで分かった?」

「話にあった倒木が無い。それと分かり(にく)いが、微妙に色が違う」

「あ? 全部同じに見えるぜ」

「同じく」「私も」「ああ」「うむ」


 バルザックさんに同意する様に、俺達の声が重なった。

 残念ながら俺達は、シャラガムさん程に繊細な色彩感覚を持っていないらしい。

 周囲の枯れ木を見比べても、似た枯れ木にしか見えない。

 先程不意打ちしてきたモンスターの姿を思い返しても、枯れ木とモンスターの違いなど分からなかった。

 恐らくシャラガムさんから見ても、本当に分かり(にく)いのだろう。

 でなければ、先の不意打ちを受けずに済んだ(はず)である。

 これは探すのに苦労しそうだ。

 そう思った矢先、相手が先に動いた。

 大地が揺れると共に、北東から強大な魔力が突如として現れたのだ。

 大地の揺れから、サイクロプスの攻撃を思い出したが、今立つ地面に魔力は感じない。

 揺れは体勢を崩す程大きなものではなかったが、安易に動く事は出来ない。

 魔力を感じた北東へ体ごと向き直り――北東の空に、赤い何かが浮いていた。

 赤い何かと共に、東に生えていた枯れ木もまた空へと浮かんでいる。

 俺は、遠くに浮かぶ赤い何かを見て、既視感を覚えた。

 色こそ違えど、あの膨れ上がった(こぶ)の様な姿は、アルケーの森で見たパラサイトに似ている。

 特に、精霊樹に寄生していた奴に、酷似(こくじ)している気がした。

 遠目からでも、ぼこぼことした表面が脈打っているのが分かる。

 だが、あれがパラサイトならば、なぜ浮いている?

 木々への寄生を捨て、何をするつもりだ?

 疑問を浮かべると同時に、俺は攻撃へと移っていた。

 遠い。だが、これならば撃ち抜ける。


「≪氷結(ひょうけつ)投擲槍(とうてきやり)≫」「≪魔力(まりょく)(やり)≫」


 俺が頭上に槍を生み出すよりも早く、サラスさんの生み出した薄紫色をした槍が空を駆けた。

 一斉に飛ぶ二十五の槍は、その勢いを落としながらも赤い(こぶ)へと進む。

 だが、赤い(こぶ)と共に地上より浮かび上がっていた枯れ木達が、魔力の槍と赤い(こぶ)の間に次々と割り込み、盾となり始めた。

 勢いを落とした槍では、枯れ木を砕く事しか出来ない。

 防がれたサラスさんの攻撃を追う様に、俺も氷の槍を放つ。

 分散し、放つ魔力の槍と違い、赤い(こぶ)へ向け一点突破を仕掛けた俺の槍は、盾となった枯れ木の(みき)を一つ、二つと貫く。

 だが、三体目の胴に突き刺さり、氷の槍は止まってしまった。

 一歩、届かない。

 凍り付き、地上へ落ちる三本――いや、三体の枯れ木に似たモンスター。

 奴らが落下し、砕ける間にも、赤い(こぶ)と宙に浮く枯れ木は動き続けていた。

 山のあちこちから集まった枯れ木達は、盾になるだけではなく、赤い(こぶ)を守る様に()じれ、重なり、ある形を作り上げていく。

 赤い(こぶ)を中心とした球体を頭とし、そこから首を、胸を、胴を、腕を、腰を、足を作り上げ、高く(そび)える巨人へと姿を変えた。

 高い、高い位置から、赤い(こぶ)が、巨人の一つ目の様に俺達を見下ろしていた。

 巨人は、目測できぬ程に、大きい。


「おいおい一つ目って……調達屋の奴ら、とんだ節穴野郎だぜ」


 揺れが収まる中、バルザックさんの声が聞こえるが、俺はそれに同意する事が出来なかった。

 命知らずの調達屋が何者かは知らないが、こんな山の奥まで足を延ばせる人が、この木の巨人とサイクロプスを見間違えるとは思えない。

 ならば――走る悪寒に従い、俺は周囲を見回しながら呪文を唱えた。

 攻撃の為ではなく、偵察の為に。


「≪(かぜ)(はね)≫、≪獣王(じゅうおう)跳躍(ちょうやく)≫」


 放つ魔力が地面を穿(うが)ち、俺の体を真上へと跳び上がらせる。

 まだ、高く。


「≪獣王(じゅうおう)跳躍(ちょうやく)≫」


 呪文を唱えず生み出した魔力の足場を破壊しながら、更に上へと跳び、風の羽を(もち)いて、ゆっくりと体を回転させる。

 北東には、枯れ木の集合体である巨人。

 眼下の枯れ木の森に、動く木や他のモンスターは見つからない。

 そして、西に――居た。予想通り。

 地上からは山の起伏に隠れて見えなかったが、灰色と黄色の中間のような色をした四つ腕の巨人が、此方(こちら)へ向け近付いて来ている。

 俺は、動き出した木の巨人を警戒しながら、自由落下に身を任せた。


「西からサイクロプスが接近中です」


 着地の少し前に風の羽へ魔力を込め、落下速度を落とし、穏やかに着地する。

 俺を迎えるのは、苦虫を噛み潰したバルザックさんの顔であった。


「チッ、撤退するしかねぇか……」


 そう、撤退も選択の内だ。

 選べる方針は、三つ。

 挟み撃ちにあってでも、一丸となって木の巨人と戦う。

 一度撤退して、応援を呼ぶ。

 そして、もう一つは、二手に分かれて戦う。

 どれか一つを選ぶとすれば、三番目だ。

 俺の頭の中に、嫌な想像が浮かび上がる。

 あの赤い(こぶ)が、アルケーの森で精霊樹に寄生していた黒いパラサイトと似たモンスターであるならば、もしかしたら黒い霧を吐き出すかもしれない。

 俺一人ならば、炎獄王(えんごくおう)(よろい)を使えば、ある程度は黒い霧も防げる。

 だが、バルザックさん達は……選べる選択なんて、結局ないんだよな。


「バルザックさん達は、サイクロプスを」

「おい、てめぇ!」

「枯れ木の原因は恐らくあの赤いのです。放っておけば、もっと力を付けます」

「今、やるのが良いってか……チッ、死ぬんじゃねーぞ」

「当然」


 流石バルザックさん。決断が早い。

 他の皆の言葉を聞かず、俺は北東へ、木の巨人へ向け走り出した。

 すると背後から、サラスさんの怒声が聞こえて来た。


「マルク! 無茶したら分かってるわね!」

「はい」


 死にたくも無いし、サラスさんに()(ぱた)かれたくもない。

 たった一言で、気負う心が(ほど)けていく。

 ありがとう、サラスさん。

 そう、背はバルザックさん達に預ければいいんだ。

 俺は、俺のやるべき事をやろう。

 まだ遠く、枯れ木の集まる足が、一歩、一歩と、此方(こちら)へ向け動く。

 目標を見定めた俺は、斜面を強く蹴り、更に前へと駆けた。

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