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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十七章

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785.小休止と可笑しな願い

 俺達は、木の根に腰を下ろし、体を休めていた。

 魔力で雑に作り上げた薄紫色のカップを片手に、干し肉をゆっくり噛み続ける。

 皆、一様(いちよう)に、無言で(あご)を動かし続けていた。

 硬い干し肉を少しずつ口の中で(ほぐ)して行くと、次第に口の中に肉の味わいが広がり始める。少々しょっぱいのも、ご愛敬だ。

 黙々と咀嚼(そしゃく)を続ける中、サラスさんとシャラガムさんが浮かない顔をしながら、脇に置いた道具袋を眺めていた。

 道具袋は、道中討伐したモンスターの魔石でパンパンに膨れ上がっている。

 魔石が道具袋に何かあるのだろうか?

『どうしたんですか?』と尋ねたいが、今は残念ながら口が塞がっている。

 俺も、サラスさん達も。

 先に食べ終えた俺は、疲れた(あご)を休めながら、茶で一息入れ、皆が食べ終えるのを待った。

 ふぅ……山の中、茂る木々の中で飲む茶も、中々良い。

 鼻から吸う息に意識を向けると、町では感じない雑多な匂いが漂っている事が分かる。木漏れ日で輝く草々(くさぐさ)もそう、今腰掛けている木もそう。

 こうして、テラさんが好きそうな自然を感じられるのも、休憩中だから、だな。

 これでモンスターや野生生物を警戒しなくて済むのならば、もっと良いのだが。

 まぁ、人の生活圏の外なのだから、まったり休憩とはいかないか。

 その時「プハァー」と酒でも飲んだ後の様な、深い吐息が聞こえて来た。

 吐息の主であるバルザックさんへ目を向けると、カップを見ていたバルザックさんの顔が此方(こちら)へ向き、視線が重なった。

 普段の威圧的な鋭い目と違い、(わず)かながら目尻が柔らかい。


「へヘヘッ。茶があると肉も美味ぇぜ」

「普段は水の魔工石で済ませているからな……はぁー、やはり良い味だ」


 どうやら、ドムさんも魔法の茶を気に入ってくれたらしい。

 二人とも世辞で言っている可能性もあるが、称賛は素直に受け取っておこう。

 

「どういたしまして。おかわりもありますよ」

「ぷはぁー。マルク、おかわりー」


 そう言うサラスさんであったが、カップを掲げたまま動こうとはしなかった。

 山道を歩き続けて、動きたくない気持ちは分かる……仕方がないなぁ。

 俺は立ち上がり、サラスさんの前まで行き、指の触れぬ先の先から茶を流し、サラスさんのカップへ注いだ。


「ありがと」


 気が付けば、他の四人もカップを持ち上げ、おかわりを要求していた。

 皆、警戒の為、それぞれ少し離れた場所に座っているので、全てのカップの上に直接茶を生み出すのは、少し億劫(おっくう)である。

 俺自身が移動し、直接注いだ方が楽だ。

 面倒だが一人一人に茶を配り、俺は再び、先程の木の根へと腰を下ろした。

 各々(おのおの)から礼の言葉が飛んできたので、返礼代わりにカップを持ち上げ、答える。

 そのまま茶を飲み、休憩を続けていると、バルザックさんとサラスさんの会話が聞こえて来た。


「にしても、ちっとばかし厄介だな」

「ほんと。モンスター多いわね」

「帰ったら、こっちも報告か……面倒(くせ)ぇ」

「そっちは任せたわよ、バルザック」

「ケッ」


 ん? モンスターが多い?

 たしかに、道中現れたモンスターの数は、多少多く感じる。

 だが、誤差の範囲内だと思う……こういう時は、聞くに限る。


「あの? サラスさん。モンスターが多いって、どういう事ですか?」

「ん? あー、マルクは知らないで当然よね」

「ちょっと待て、マルク。おめぇ、鉄骨竜から何も聞いてねぇのか?」


 納得した様子のサラスさんと、困惑からか眉を(ひそ)めるバルザックさん。

 二人の対照的な反応を見ても、何が何だか俺には分からない。

 鉄骨竜? 何か聞いておくべき事でもあったのだろうか?

  

「えっと、何の話です?」

「ったく、あいつら……世話になったなら事情ぐらい話しとけってんだ」


 そう吐き捨てる様に呟くバルザックさんの代わりに、ドムさんが事情を説明してくれた。


「簡単に言えば、最近……邪竜の目覚めの後から、モンスターの出現が少しばかり不安定になっていてな。鉄骨竜が現在調査中って訳だ」

「ギルド職員も、マルクに話すべき事じゃないと思ったんじゃない?」

「噂が市井(しせい)に流れれば、ただ不安が広がるだけだからな」


 サラスさんの言葉に、シャラガムさんが続き、意見を後押しする。

 鉄骨竜が情報を()する理由は(うなず)けるし、第一、俺はもう部外者なのだから、態々(わざわざ)そんな情報を伝えはしないだろう。

 テガーさんの大きな(うなず)きからも、それが当たり前な判断であると分かる。

 バルザックさんが義理堅いと言うか、律儀なだけだな。

 野性味ある姿と、(あふ)れ出る戦闘欲に似合わず、良い人である。


「そんな事になってたんですね」


 少しだけ、思い当たる節がある。

 アルケーの森もそうだし、今いる山の東側、炎帝竜さんの縄張り近くもそうであった。もしかしてデュラハンやコカトリスも、そうだったのだろうか?

 もしかしたら、ダンジョン内も?

 いや、無駄な考えだな。

 情報が足りぬまま点と点を結んでも、それは妄想にしかならない。

 ただ、ダンジョン深部へのAランク冒険者派遣を、ギルマスが渋っていた理由の一つが、今更ながら分かった。

 当然、外に不安がある状態で、戦力をダンジョンの調査に()きたくないよな。

 あの髭面(ひげづら)の利己主義は気に食わないが、理解は出来る。


「ちなみにだ。四日前にまとめて討伐して、これだぜ」


 サラスさんの脇に置かれた道具袋を指差しながら、バルザックさんが言う。

 四日前……なる程。

 祭りの前に、安全確保のため近くのモンスターを減らしていたんだな……そういえば昔、この時期になると近くのモンスターを討伐する依頼に、(すけ)()依頼で参加し、あちこち駆け回っていたな。

 おっと、昔の自分を思い出していても仕方が無い。

 俺は、素直な感想を、バルザックさんへ伝える事にした。

 

「四日でこれだと、たしかに多いですね」

「倒すのは良いんだがよぉ、流石にサイクロプスを前に、消耗したくねぇよな」

「なら、調達屋みたいに隠れながら進む?」


 その問いに、バルザックさんがどう答えるか?

 そんな事、重々承知の上で、サラスさんは言っているのだろう。

 俺にだって分かる事なんだ。寝食を共にするパーティーメンバーなら(なお)の事。

 そして予想通りの答えが返って来た。


「んな事、出来ねぇから厄介なんだよ。全部、ぶっ飛ばして、真っ直ぐ進もうぜ」

「まっ、そう言うわよねー。ちょっとは私にもやらせなさいよ」

「魔力使い過ぎんなよ」

「それは、マルクに言いなさい」


 受け流す様に、俺へ話題を移すのは止めて貰えませんかね、サラスさん……。

 ダンジョン第五十七階層の戦いにおいて、バルザックさん達の前で魔力切れを起こしてしまった手前、何一つ言い返す言葉がない。

 俺に出来る抵抗は、そっと視線を逸らす事だけであった。


「ハハッ、違ぇねぇ。さて、休憩終わりだ」


 バルザックさんの声に従い、各々カップを地面へ置き、立ち上がる。

 俺が魔力で作った六個のカップ全てを消滅させると、カップに残っていた数滴の茶が宙に投げ出され、そのまま地面を濡らした。

 皆、残さず飲んでくれたらしい。


「ごちそうさん。じゃあ、行くぜ」

「「「「おう」」」」「はーい」

 

 今し方まで休憩していたのが嘘のように、スタスタと山の中を歩き出す。

 自然と隊列を組み、北へ。




 木々の茂った山中は、似たような場所の連続であった。

 どこもかしこも、木、木、木。

 遠く、東へ真っ直ぐ進めば、岩場があるのだろうが、正直自信がない。

 だが、地形に多少の起伏があれど、上りと(くだ)りの違いくらいは分かる。

 山の奥へと下る俺達を、モンスターが……待ち受けてはいなかった。

 一体たりともモンスターが見当たらぬ山を不気味に思い、より一層警戒しながら慎重に歩を進めて行く。

 すると、違和がどんどんと近付き、俺達の前に広がった。

 そこには異様な光景が広がっていた。

 山の奥へと下る程、木々の密度が薄くなっており、そこに生える木たち全てが、枯れ果て、朽ちている。

 右も左も、視界が開け始めた前方も。


「話通りだけどよぉ……これ、どうなってんだ?」

「さぁ? この辺りの(はず)よね?」

「……見当たらないな。もっと奥か?」


 サラスさんとドムさんは、拭えぬ疑問をそのまま口にする。

 思案気に「うーむ?」と呟くテガーさん。

 シャラガムさんは、何か気になるようで、周囲の枯れ木へと目を向けていた。

 俺もサイクロプスを探してみたのだが、サイクロプスが歩き、倒したという木々すら見つける事が出来なかった。


「探すしかねぇか」

「どっかに行ったとしたら、困るわね」

「みんな、止まれ」


 更に奥へと進もうとする俺達を、そうシャラガムさんが止めた。

 全員が言葉に従い、立ち止まり、シャラガムさんの次の言葉を待った。

 敵襲の可能性を考え周囲を見回す……だが、特にモンスターの姿は見えない。

 ふと、シャラガムさんが俺を見ている事に気付いた……何だろう?


「マルク。一つ頼みがある……あの一帯を焼き払ってくれ。今、すぐに」


 シャラガムさんが指で指し示したのは、俺達が進もうとしていた北から(わず)かにずれた、北北東であった。

 何だか分からないが、あの一帯だけ燃やせば良いんだな。

 自分の判断も大事だが、シャラガムさんの言葉は、きっと何か意味がある。


「分かりました」

「ちょっと、いきなり何言ってんの? ここ、山の中よ」

「マルクの腕なら、山火事は起きん」

「はい。任せて下さい」


 答えを口にしないのは、恐らくシャラガムさん自身、半信半疑だからだろう。

 ならば俺は、シャラガムさんが信じた半分に賭けよう。

 俺はバルザックさんの前へ移動し、魔法の準備を始める事にした。

 想像するは炎。

 シャラガムさんの指す『あの一帯』を焼き払うのに適した魔法を選び、俺は言葉を紡いだ。

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