74.掃除はこまめに
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無駄に広い屋敷を掃除する。
特に二階部分など、最後に入ったのは何時の事だろうか。
荒らされた屋敷から、ゴミを排出した時だろうか。
シャーリーに二階の状況を聞いてみると、頻繁ではないが掃除をしていてくれた。何があるかも聞いてみたら、呆れた様子で答えてくれた。
「何もないよ」
まぁそうか。冒険者になってから、買った物を二階に持っていった憶えがない。ということは、何も置いていないということだ。
今は一階で事を済ませるようにしているが、昔は二階に寝室があった。
懐かしくはあるが、二階を使う気はしないな。
シャーリーに任せたままというのも、大問題なので、自分でも屋敷の管理をするようにしなければ。
と、俺の考えをシャーリーに伝えると、酷く嫌そうな顔をされた。珍しい顔だ。
二階を放っておく決断が、まずかったのだろうか?
「ほら、お兄ちゃん。今日は一階の掃除だよ」
そう言って、シャーリーは俺に背を向け、掃除に取り掛かり始めた。
今日の任務では、シャーリーがパーティーリーダーだ。彼女の指示に従おう。
始めは、居間かららしい。
「よし、やりますか」
「まずは、高い場所をお願い」
「了解」
シャーリーが届かない位置の、埃と汚れを落としていく。
それほど個所はないが、シャーリーが掃除するには大変だろう。
上から下へ。基本は大切だ。
普段手を伸ばさない場所から、生活空間へ。拭くものは布で拭き、埃を払うものは羽根はたきで。そして最後は棒雑巾で床を拭き取る。
一室だけでも、中々の労力だ。
シャーリー曰く、この屋敷は、物が少ないからまだ掃除しやすいよ、とのこと。
個人的には、物の多いシャーリーの家の居間も好きなのだが。行商をしている父親を含めた家族五人、それぞれが存在している感じがして、部外者の俺がいても落ち着くというか。
おっと、シャーリーの家の事を考えている場合じゃない。
「シャーリー。次はどこを?」
「食堂をやっちゃおう」
食堂に入って、再び上から掃除を始める。
シャーリーの届かない部分を優先的に、一つずつ。
毎日使っていると気が付かないものだが……本当に物が少ないな。
昔は、もっと色々なものが飾ってあった。
壁に絵が。棚に小物が。卓に花が。
置いてあるものが少ない理由は知っている……諦めたからだ。
どれだけ元に戻そうにも、戻らない大切なものがある。
同じ光景を見ようにも、絶対に戻らないものが。
寛ぐ父の姿も、笑う母の姿も、訪ね来る冒険者達の姿も、父と母を慕い集う人々の姿も、そこにいる自分の姿も。どれだけ、屋敷の中を元通りにしても、調度品を揃えても、あの光景は戻ってはこない。
だから、諦めた。
考えてみれば、殺風景なのは当たり前だった。
「どうしたの? お兄ちゃん」
気が付けば、シャーリーが俺の顔を覗き込んでいた。まん丸な瞳が、俺を心配そうに見つめている。
独りで考え事をしていると、暗くなってしまう自分を感じる。
でも、シャーリーを見ていると、大丈夫だ。そういう気になる。
「んー。何か殺風景だなーって思ってな」
「だから、お花置こうよ」
そういえば、そんな話を前にしたような? 俺は聞いてただけだったか?
「花は枯れて、少し悲しい気分になるからな……絵か置物でも買ってくるか」
「私、可愛いのが良い!」
シャーリーがビシッと手を上げ、提案をした。
可愛いのねぇ……思いつくのが、猫ぐらいしかない。
発想が貧困すぎるな、俺。
それでも、そのまま伝えてみる。
「可愛いなら、猫かな」
「飼うの?」
「世話ができない。だから絵か置物」
何かと家を空ける事が多いので、動物は飼えない。だから買うなら物だ。
まぁ、問題はどこで手に入れるのすら分からないって事だけど。でも、それはゆっくり探せばいい。そう、ゆっくりと。
「他にもいっぱい揃えようよ。お兄ちゃん」
「掃除が面倒になるだけだぞ」
「えー。買おうよー」
むー、と口を尖らせながらシャーリーが抗議する。
顔は不満そうだが、声は楽し気だ。
つい、顔が緩んでしまう。
「何か見つけたらな。ほら、掃除掃除」
「はーい」
俺の手も止まっていた。いや、俺のせいでシャーリーの手が止まっていたのか。
俺は、椅子を一つ一つ乾拭きしていく。
何か見つけたら、か。
今度また、町の散策にでも出かけよう。
装飾品店にも顔を出したいし、知らない店も見て回りたい。”欲しいもの”なんて見つからないかもしれないが。
卓上を拭くシャーリーに目が行く。
もう昔と同じ光景を見れなくても、大丈夫だ。
今は、自分自身の描きたい光景を、自分自身の手で。
出来るならそこに、俺の笑顔と”誰か”の笑顔があれば、嬉しい。
今は、掃除を続けよう。
探すのはゆっくりでいい。ゆっくりで。
台所の油汚れが落ちない……くっ、俺では勝てない。
今度、掃除用魔法でも探してみるか……いや、あるのか? そんな魔法?




