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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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71.パック調査隊~蟹退治~

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし

「お疲れ様、ちょっと行ってくる」

「ええ馬じゃな。よーしよしよしよし」


 愛馬を一撫(ひとな)でする。

『まだ行けるぜ!』と言わんばかりに我が愛馬は、ぶるると声を上げる。

 テラさんが軽いとはいえ、二人乗りで急ぎ走らせたのに、まだまだ元気一杯の様子だ。癒しの水や風を起こして補助をしていた事を考えても、こいつの生命力は並ではない。

 とはいえ、無理をさせるのは心苦しいものだ。帰りはゆっくり行こう。

 テラさんも、我が愛馬を気に入ったのか、(しき)りに毛を撫でつけている。

 俺としても嬉しい限りだ。

 さて、馬を預けた後は、聞き込みだ。

 情報が無く、ここがハズレであるならば、それはそれで良い話だ。

 ジャイアントクラブの発生原因の調査に来たことを告げ、村長への面会を求めた。予想よりもすんなりと話が通り、すぐに会うことに。


「これはマルクさん。また来て頂けたのですね」


 その声には、若干の期待の色が滲んでいた。ということは……。


「やはり、またモンスターが?」

「はい。小さいモンスターの目撃は減っているのですが、山の中でジャイアントクラブを目撃したものがおりまして」

「数は?」


 村長は首を横に振る。不明というわけだ。

 ただ前回と違って、ジャイアントクラブそのものの出現を疑いはしない。

 確実にいる。

 あと、聞いておくことは……。


「そうですか。それで冒険者への依頼は?」

「既に。周辺のモンスター討伐も含めて依頼を出しました」


 ならば、狙うのはジャイアントクラブと、その原因解明優先で良いだろう。

 出会ったモンスターは倒すが、(くま)なく討伐する必要は無さそうだ。


「でじゃ。以前のジャイアントクラブを目撃した時の前後で、怪しげな人物は見なかったかのぅ?」

「いいえ、特には。狭い村ですので、そういった人物は噂になりますので。お役に立てず申し訳ありません」


 テラさんの質問は、空振りだ。まぁ、怪しい格好でうろついたりせずに、商人や冒険者の振りをして活動しているだろうし、仕方のない話だ。


「いえ。前回の場所も含めて、少し調べてきます。態々(わざわざ)ありがとうございました」


 頭を下げ、村長と別れ、俺とテラさんは二人で山へと向かう。

 日が落ちる前には、片付けておきたいものだ。

 山は近い。

 俺たちは駆け足で、前回ジャイアントクラブに遭遇した場所へと向かった。


「大した情報はなかったのぅ」

「冒険者に依頼したのが分かったので、十分です」

「蟹の数が分かれば、全部平らげるのじゃがな」


 山に入って遭遇したのは、腹の出っ張った緑色のトロルであった。

 一体だけなら――「そのまま行きます」――足を止めずに進む。

 そしてすれ違いざまに、腕を――「≪(みず)(やいば)≫」――振り払う。

 魔法で生み出した水の線が、トロルの大きな腹を通過していく。

 剣では、こうはいかない。

 両断された腹から青い液体が、トロルの魔力が噴き出る。

 低い断末魔を上げ、トロルは消滅していった。

 魔石を拾わなくて良いのならば、足を止めずに先に行くのだが……こればかりは仕方がない。放置して、モンスターに増えられても困る。

 魔石を拾い、バックパックへと放り込む。


「ほれマルク、行くぞ」


 先導は、場所を知っている俺の役目だ。テラさんの前を走る。

 警戒して山に入ってみたが、モンスターの数が少ない。

 目的地までにトロル一体としか出会わないとは、思わなかった。

 そして、目的地である横穴のある岩場に辿り着いた。

 木々から出ずに、横穴前の開けた場所を目視で確認する。


「うわぁ……」

「これは酷いのうぅ」


 蟹、蟹、蟹……蟹だらけだ。

 一体ですら巨大なジャイアントクラブが、六体もいる。

 むしろ、何故ここに密集しているのか分からないぐらいだ。

 実に窮屈そうである……。

 前回と対処は同じだ。森林に近いので火は厳禁。水精霊の斬撃で斬っていくしかない。あの俺の背丈の半分ほどに大きい(はさみ)に、近付くのは気が進まないが。

 それに問題は、数だ。

 不意打ち気味に倒した前回と違って、それが出来るのは初めの一体だけだ。

 残り五体を同時に相手取るのは、正直きつい。

 危険だからとて、戦わぬ訳にはいかない。


「マルクや、何か策はあるかえ?」

「突っ込んで、斬る」

「お主、よく今まで生きてこれたのぅ……ふむ。あの堅い甲羅を斬れる魔法があるのじゃな」

「あります」


 切断可能なのは、前回に実証済みだ。

 俺の言葉を聞いたテラさんが、腰に両腕を添え、胸を張り出した。


「しょうがないのぅ。わしが何とかして見せようぞ」

「お願いします」


 森の奥で、大木に巡らせた魔力を考えるに、本当に何とかしてくれる予感がする。自信満々のテラさんを信じよう。

 俺の返事に、テラさんは満足そうに顔を綻ばせる。


「して、作戦は?」

「突っ込んで、斬る。マルクは、それで良いのじゃ」


 斬れるか? と問われたのだから、そりゃあ斬りに行くしかないよな。

 俺のやることは変わらないと。それで良しというのなら、信じて突撃しよう。


「タイミングは任せます」

「では、もう行くぞい」


 テラさんが先に森のベールから飛び出した。俺も後を追う。


「さぁ見ておれ、マルクよ。これが≪精霊樹(せいれいじゅ)牢獄(ろうごく)≫じゃ」


 知らない魔法。知らない魔力。

 テラさんの中で膨れ上がった魔力が、地を伝い、ジャイアントクラブたちの足元へと伸びていくのが見て取れた。

 次の瞬間、ジャイアントクラブたちの足元から幾本もの木が高速で生え、伸びていく。ジャイアントクラブの巨体を搦め取るように、縦横無尽に動き、その足を、その鋏を、その体の動きを封じ込めていった。

 六体のジャイアントクラブが、あっという間に拘束された。

 抵抗するように体を動かしてはいるが、木々の拘束は外れる気配はない。ジャイアントクラブの力をねじ伏せるだけの魔法と、それを可能にする魔力――


「凄いや、テラさん」

「マルクや、後は斬り伏せてみい」


 走る速度を上げながら、俺はテラさんに尋ねる。


「あの木は斬っても?」

「構わん。ただの魔法の木じゃ」

「ならば。≪水精霊(みずせいれい)斬撃(ざんげき)≫」


 後は、一体ずつ斬っていくだけだ。一つ、二つ、三つ……。




 とりあえず、この大きな魔石六個は予備の道具袋に詰めておいた。

 ジャイアントクラブの魔石は、大きくて困る。

 防具や道具の耐久性を上げるのに使えるので、有用な魔石ではあるのだが……俺は使わないし、まぁ、今回のこれは調査用か。


「テラさんのおかげで助かったよ」

「お主なら独りでも何とかしたろうに。動きを見ればわかるのじゃ」


 俺は、首を横に振る。”何とか”するのと安全に倒せるのでは、天と地ほどの差がある。独りで戦うことが多かったあの頃から、それは身に染みている。


「ありがとうございます」

(ほん)に、マルクは真面目じゃのぅ。もう少し緩く生きても良いのじゃぞ。まぁ感謝は有難く受け取っておくとしよう」


 周囲を見渡していたテラさんが、その歩みを横穴の中に向けた。

 横穴は、ジャイアントクラブが出入りできる程度の大きさはある。

 まぁこの中に変質の(くさび)があっても、ジャイアントクラブ自体は、外で生まれた可能性もあるから、この想像は無意味であるが。


「やっぱり、この穴ですかね?」

「人為的な仕掛けじゃと、隠しやすい場所を選ぶじゃろうて」

「なるほど。≪追従(ついじゅう)(ひかり)≫よ」


 魔法で、浮遊し、付き従う光の球体を生み出す。

 光が横穴を照らす中、俺とテラさんは歩く。

 変質の楔が、大木の時と同じく隠匿(いんとく)の魔法で隠されているならば、近付かなければ発見できないだろう。横穴の奥であるなら尚のことだ。


「モンスターは、おらぬようじゃな」

「ジャイアントクラブが生み出される時に、周囲の淀んだ魔力を使い切るからでしょうか?」

「かもしれぬのぅ。そこらはパックに任せようぞ。わしらは、黒い短剣じゃ」

「はい」


 出ないと言われても、警戒は変えない。これは癖のようなものだ。

 横穴は一本道で、そして、もう行き止まりだ。

 行き止まりである奥の壁から、気持ち悪い魔力の流れを感じる。大木と同じだ。


「確かにここじゃ」

「ええ。どう探しましょう?」

「壁に魔力を這わせるか、魔力をぶつけて反応させるか」


 ならば簡単な手がある。

 魔力を込めれるだけ込めて、ゆっくり、静かに――「≪(かぜ)≫よ」――風を、奥の壁全体に流してみる。

 想定通りに、壁一面に俺の魔力が流れていった。が、反応が無い。


「無いのぅ」「失敗か」


 俺の失敗を気にすることもなく、今度はテラさんが、壁に手を当て魔力を流し始めた。が、これも反応が無い。


「無いですね」「変な感じじゃ」


 確かにここに、大木と同じ仕掛けがあるはずなのだが?


『見たいもの以外も見ませんと、探し物は見つかりませんのよ』

「見たいもの以外ねぇ……」


 ふと、二日前に聞いた少女の声が頭に響き、俺の口から言葉が(こぼ)れた。

 いや、そりゃあ探し物はしているけど……今は関係ないよな。

 だが、テラさんは何か閃いたようだ。

 銀の髪からはみ出した耳がピョコピョコ動いている。


「これは誰かの仕業じゃったな。ならば隠すに決まっておる。マルク。この壁を破壊せい」

「あー。変質の楔を探しても無いわけですね。テラさん後ろに」


 破壊するなら単純に魔力を用いて。想像を掻き立てる。壁を破壊できる巨大な大槌を。魔力で生み出し、それを壁に――


「叩きつける。≪魔力(まりょく)一撃(いちげき)≫」


 単純な魔法。(ゆえ)にイメージと魔力操作が必要になる。

 口から放った呪文が、この閉所の中で力と変わる。可視化できるほどの紫の魔力の塊。それを、目の前の壁に突撃させる。

 そのまえに――「≪(かぜ)≫よ」――もう一つ魔法を使っておこう。

 魔力の塊は、引き絞られた(つる)から解放されたかのように、奥の壁に向かって高速で飛んでいく。

 衝突、と共に轟音が耳を(さわ)る。

 舞う土煙は、生み出しておいた風に乗って外へと流れていく。

 この場に他の誰かがいれば、意思を持った土煙が、俺達二人を避けたように見えただろう。

 土煙の晴れた後には、壁に開いた大穴と、壁の先に(わず)かな隙間、そして奥には横穴の行き止まりである本物の壁が見えた。


「やはり作られた壁であったか。自然な作り(ゆえ)、騙される所じゃったわい」

「また作り物だと面倒ですね。≪(かぜ)≫よ」


 早速、魔力を余分に込めた風を生み出し、奥の壁に当ててみる。

 バチリ、という音と共に、黒い影の揺らめきが見えた。奥の壁中央だ。


「マルク」

「了解です」


 と言ったものの、すぐは引き抜かない。周囲を確認し、罠の有無を調べる。

 光を当て目視で、耳で、魔力の流れで……何もないようだ。


「では、≪魔力(まりょく)≫よ」


 右手に込められるだけの魔力を込め、先程目に入った影の場所へと、ゆっくり、ゆっくりと右手を近付けていく。

 弾けるような音と、俺の手を弾く魔力の感覚。ゆっくり、だが強引に手を伸ばし、明確に姿を現した黒い短剣の柄を掴み……そのまま引き抜く。

 大木の時と同じだ。

 黒い短剣を引き抜いた瞬間には、不快な魔力の流れが消え去っていた。

 今回はパック先生に渡す訳でもないので、布を取り出し、変質の楔をぐるりと巻いて、バックパックへ入れておくことにした。

 周囲を見渡しても、異常は見当たらない。


「テラさん。他は……ないですよね」

「うむ。マルクよ、ご苦労であった。帰ろうぞ」


 テラさんは手を上にあげ、体をぐっと伸ばしている。

 彼女の中では、お仕事は終わりなのだろう。

 出口へ歩き出したテラさんを追って、俺も帰るとしよう。

 警戒は怠らずに。

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