69.パック調査隊~学派長~
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パック先生を引っ張るように、帰路に就く。
帰りもフォレストタイガーが、先導を務めてくれる。
「マルクも、この虎を魔法で御するとは、やるのぅ」
「そんなことしてませんよ」
テラさんの首が、ぎちぎちと鈍く動き、こちらを向いた。
「じゃあ、なぜ彼奴は襲ってこぬ?」
「賢いからかと。今回も前回も利害は一致してますし……何もなく縄張りに入ったら、次はガブリ! だと思いますよ」
人間と野生動物との関係は、そんなものだろう。
人間が森のモンスターを掃除すると言っても、同時に狩人が野生動物を狩っている。冒険者が、むやみに野生動物を狙う事は、儲けという意味でも無いだろうが、狩人は別だ。
肉も皮も骨も、町で有効利用されている。
野生動物に考えがあるか無いかなんて知らないが、俺たちは、対モンスターの味方であり、己らを狩る敵でもある。ならば、”次”がどうなるかなんて明白だ。
だが、傲慢であったとしても――
「まぁ、敵対したくはないですけどね」
先行するフォレストタイガーが振り向き、俺と目が合う。
”次”が無いことを祈ろう。
門を通り、町に入ってもまだ警戒は解かない。
森の異常が、人為的な事件であるのならば、むしろ町中は警戒を強めるべきだ。
学派の門も潜り抜け、三人で行く。
何処に向かっているかも、敢えて聞かない。
何処に耳があるか、分からないからだ。
「マルクは心配性じゃのぅ」
「私たちの為にですよ。夜もマルク君に守って貰おうかな」
「それは旦那さんに頼んでください」
研究棟を通り過ぎ、足は、フクロウの瞳の本部の方へと向かっていた。そして、そのまま本部の中へと入っていく。
学派員達のための受付を通り過ぎ、さらに奥へと進む。
流石に、もう聞いても大丈夫だろう。
「パック先生。行先は?」
「マルク君は知っているだろうけど、今は学派の人手が足りなくてね。学派長へ直接持っていくのさ。光栄だろう」
「あー。そういえば俺、学派長に会ったこと無いかも」
いや。かも? ではなく、無いな。姿も名前も浮かんでこない。
既に、学派長室の前に到着していた。
パック先生が、重そうな扉を三度叩く。
すると、木製の重そうな扉が自然と開いた。
学派長室の中は、思ったほど重々しくは無かった。
調度品は、飾り細工に質感にと、格式の高そうな物ばかりであるが、室内からは圧迫感を感じなかった。
執務用の机の奥には、良く手入れのされた立派で長い白髭を貯えたご老人が、座って待っていた。白くとも豊富な髪は、ご老人の生命力の豊かさを表しているようだ。
俺達三人に笑顔を向けている。
年齢は、七十かそこらに見える。このご老人が、学派長なのだろう。
「入り給え」
「「失礼します」」「邪魔するぞ」
俺とパック先生はお辞儀をして入室する。テラさんはお構いなしだ。
テラさんの行いを気にすることもなく、学派長は笑顔のままだ。
「白くなったのぅ、フィン」
「お主は変わらんな、テッラリッカよ」
二人の口調は、とても柔らかかった。
どうやらお二人は旧知の仲のようだ。あれ? テラさんって何歳だ?
まぁいいか。女性の年齢は、気にするものではないよな……。
テラさんは、それだけの会話で十分とばかりに笑顔になった。
学派長の口角も上がっている。
「さて、パックよ。成果は?」
「はい。こちらを」
パック先生は両手を用い、黒い短剣を学派長の前へ差し出した。
学派長は、骨ばった手で短剣の柄を掴むと、表、裏と観察し始めた。
「うむ。『変質の楔』だ」
「学派長は、ご存じなのですか?」
「古い物だ。本来、このような禍々しき事に使うものではないが。これが森に?」
「それは、マルク君から説明を」
いきなりですか、パック先生。
学派長は、黒い短剣を机の上に静かに置き、俺を見てニコリと皺を増やした。
説明を促しているのだろう。
こういった説明は、苦手だ。
「はい。森の奥地にて、ヘヴィオーガとの遭遇地点をさらに奥へ進み、そこで魔力的に不快感を覚える大木を発見しました。目視や魔力の流れでは、原因を感知できなかったため、テラさんの助けを借り、原因となる位置を特定しました。その後、張られていた防衛魔法を魔力で強引に突破した所、その正体が黒い短剣であったという事です」
伝わったのだろうか? 心配になってくる。
フォレストタイガーの事は省略したが構わないだろう。
むしろ話しても、相手が困るだけかもしれない。
俺の話を聞いた学派長が、小さく頷いた。
「ああ、仔細わかった。パックへの協力ありがとうマルク君。さらにで誠に申し訳ないが、引き続きパックに協力しては貰えないだろうか」
「元より、そのつもりです」
「そうか。ありがとう」
そう言って、学派長が俺に向かって右手を差し出した。
なので机の前まで近付き、その手を握りしめる。
学派長の骨ばった手は、相応に年齢を感じた。
「では、パック。調査の進展を期待している」
「はっ。お任せください、フィンスティング学派長」
大きく胸を張ったパック先生は、変質の楔を受け取り、再び礼をした。
「下がって良い」
「「失礼します」」「フィン。またのぅ」
退出時もお辞儀をして、学派長室を後にする。テラさんは、自由だ。
全員が退出すると、重そうな木の扉は勝手に閉まっていった。
「さてどうするかな? テラさん。マルク君」
「とりあえず遅い昼食だけど、腹を満たしてからかな」
「じゃな。腹が減って倒れては無意味じゃからのぅ」
腹を押さえる俺に同意するように、テラさんが俺の背中を軽くはたく。
ヘヴィオーガ出現が人為的なものであるならば、急ぎ行かねばならない所がある。が、腹が減っての強行軍などやってはいけない。それはテラさんに同意だ。
「私は、変質の楔を調べることにするよ。マルク君、テラさんを頼んだよ」
「逆じゃ。わしがマルクの面倒を見るのじゃ」
「ハハハ。頼んだよマルク君」
「はい。わかりました」
「逆じゃ!」
森では頼れる気がしたのだが、遅刻の件もあるし……駄目だ、不安しかない。
まぁ今は、鳴る腹に従って、昼食にしよう。




