68.パック調査隊~森へ~
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昨日と違い、ゴブリン等も倒しながら森の奥へと進む。
とはいえ、昨日ムル婆ちゃん達が倒しているので、それほど数はいない。
パック先生とテラさんの足取りも軽かったので、進みは速い。
パック先生は実地調査であちこち行っているので、分かる。
テラさんも、森に慣れているのだろうか?
「テラさんも、よく森に?」
「森は、わしの庭みたいなものじゃからのぅ」
なるほど。俺も森の事を聞くなら、ムル婆ちゃんの世話になるだろうし、パック先生にとって、森の案内役がテラさんなのだろうな。
遠くに、あの大きいフォレストタイガーがいる事に気が付いた。
森の奥から木々を揺らしながら、こちらに近付いてきている。
「テラさんなら、あれ、どうします?」
「ん? あ、あれは!」
俺が『あれ』を手で指し示す前に、テラさんの体がぶるりと震えた。
そして、テラさんは、その小さな体をパック先生の後ろに隠した。
パック先生は、まだフォレストタイガーに気が付いていないのか、テラさんの様子を不思議そうに見ている。
ガサッと斜め上から音がする。予想通り、木の太い枝にその長い体躯をのせたフォレストタイガーの姿があった。
パック先生が固まっている。
まぁ、二人とも、無駄に攻撃的でないから助かる。
「昨日はリリーをありがとう。助かったよ」
伝わるか分からないが、礼の言葉と共に頭を下げる。
フォレストタイガーは、グルルと喉を鳴らすと、森の奥へと戻っていく。かと思ったら、一定距離進んだ所で、止まった。
昨日と同じで、フォレストタイガーを追ってみる。
「だ、大丈夫なのかい? マルク君」
「大丈夫な訳なかろうが、この戯けが」
「大丈夫ですよ。たぶん」
俺は、フォレストタイガーを追って先へ進む。
警戒してもモンスターはいないし、怯える二人より前に出ることにした。
少し速足で、フォレストタイガーを追いかける。
フォレストタイガーは、進んでは止まり、進んでは止まりと、こちらを誘っているようだ。連れていきたい場所があるのだろう。
さて、そこが危険地帯か否かが問題だが……万が一の時に逃げやすいよう、二人は後ろにいてもらった方が良い。
「パック先生たちは念のため、もう少し離れて付いてきて下さい」
「わかったよ」「どうなっても知らんぞ」
仮にパック先生達がモンスターに襲われても、通常森に出てくるモンスター程度ならば、パック先生一人でも軽く片が付く。
そういう意味での心配は、必要ない。
とはいえ、警戒は切らさない。
進む先と、フォレストタイガーと、周囲と、パック先生達と。
意識を向ける場所が多くて困る。
森の異常の調査は、後ろの二人に任せっきりになるな、これは。
「テラさん。この森に変な所ってあります?」
「今、マルクが追いかけている虎ぐらいじゃ」
後ろから、二人の声が聞こえてくる。異常なしと。
木々が不自然に折れたり抉れたりしている地点にたどり着いた。憶えがある。
フォレストタイガーは、まだ先を進む。
「ここが、昨日ヘヴィオーガと戦った場所です」
「暫し待て。調べる」
テラさんの言葉に従い、足を止める。
フォレストタイガーも待ってくれているようだ。
テラさんは、土を見て、幹を見て、枝葉を見て、流れる空気を感じている。
同時に魔力の流れも調べているのだろう。
「うむ。何も問題ないのがむしろ不思議じゃ。先を急ごうぞ」
「はい」「わかったわ」
俺たちが再び歩き出すと、先導も進みだす。
一面の木々がなぎ倒された場所。俺がヘヴィオーガと戦った場所もテラさんが調べたが、何も問題ない、との判断であった。
大人しく、フォレストタイガーの導きに従うしかないようだ。
フォレストタイガーの先導に従い進むと、一本の大木が目に入った。
大の大人三人が手を繋げば、幹を囲めそうである。
だが、何だろう? 見ているだけで気分が悪くなる。
淀んだ魔力を感じるのは確かなのだが……。
フォレストタイガーも、大木には近寄らないように足を止めた。
そして、警戒するように牙を見せ、唸り声を上げていた。
パック先生達も辿り着いた瞬間、眉を顰めた。
「何なのじゃこれは!」
「気持ち悪いね」
「こんなものに近付くまで気が付かないなんて。パック先生、テラさん。これ、何かわかりますか?」
「わからん」とテラさん。首を横に振るパック先生。俺も分からない。
とはいえ、見ているだけでは来た意味がない。
二人に目配せし、俺一人で近付いてみる。
鬼が出ようが蛇が出ようが、俺だけなら被害は少なくて済む。
近付いてみたが、大木には特に反応は無い。
見た目としても、問題のありそうな個所は見当たらない。
モンスターの擬態も疑ったが……大木自体は、普通の木だ。
触れてみる。予想に反して何も起きない。
「異常なしです」
「即座に反応する仕掛けはないようじゃな。よし。わしが調べようぞ。パック、離れて観察を頼む。マルクは逆からじゃ」
「了解、テラさん」「逆からですね」
テラさんが、大木に近付き、下から上へと舐めるように見る。
そして大木をゆっくりと一周した。
そして、彼女は大きな幹に両手を付けた。
大木に、彼女の魔力が流れていくのが見て取れた。生命が湧き上がるような温かな魔力だ。枝も葉も根も、大木の隅々まで温かな魔力が満ち満ちていく。
「何かあったかのぅ」
おっと。見惚れている場合ではない。異常は……即座に見つかった。
木の根元に、黒い影が見えた。
その影は揺らめきながらも、どこか短剣のような形であった。
「ありました。パック先生、こっちです」
パック先生が、走って俺の方へと回り込んだ。
パック先生の目にも、俺と同じ光景が見えているのだろう。
彼女は、黒い影を暫し観察し、口を開いた。
「マルク君。魔力でガシッと取っちゃっていいよ」
「木はわしが守っとるから、ドカンとやれ、マルク」
確保の注文と破壊の注文が、同時に入る。
破壊が簡単ではあるが、調査の為には確保をしたいよな……確保しよう。
「出来れば確保で。無理なら壊す。≪魔力≫よ」
俺は呪文を唱え、右手に魔力をまとわせる。
そして、大木の前で膝を曲げ、右手を影に伸ばした。
右手を近づけるごとに、バチリ、バチリと弾ける音がする。
隠匿の魔法以外にも、攻撃的な防衛魔法が掛けられている様だ。
だがこの程度ならば、魔力だけで押し通せる。
徐々に右手を進めていくと、揺らめいていた影が、明確な短剣の形に変わる。
それは、十字鍔から波型の刀身が伸びた、黒い短剣だった。
柄に手を伸ばし、無理矢理、掴む。
俺は、呪いの魔道具でないことを祈りながら――木から抜き取った。
途端、気持ち悪い魔力も、その禍々しさも消え去っていく。
俺の右手には、黒い短剣が握られていた。
「大丈夫かい? マルク君」
「ええ」
パック先生の言葉は、俺を心配しているようであるが、その目は俺の右手の黒い短剣に注がれている。興味津々のご様子だ。
俺も、短剣を観察してみる。
波のように曲がっている刀身には、何やら紋様が刻まれている。赤い宝石が柄の端に施されているが、それ以外は、鍔も柄も仕掛けは無いようだ。
パック先生に渡しても問題ないだろう。
パック先生は、俺から黒い短剣を受け取ると、目を輝かせて調べ始めた。
「おぉお。これはまた変な物が。赤い宝石は、単純な魔力の入れ物かな? それとも、ここにも何かしらの魔法が仕込んであるのかな? うーん、これは何かに突き刺してみたくなるねぇ。そう思わないかいマルク君」
「思いませんし、帰ってからにしてくださいね」
「ふぅ。木は無事じゃぞ。なかなかマルクもやるではないか」
木から手を放し、こちらに来たテラさんが、銀の髪をふわふわさせながら、笑顔を浮かべていた。大木が無事なのが嬉しいようだ。
「テラさんの魔力も凄かったです」
俺がいくら魔力を込めても、ああはならない。
無理矢理込めても魔力に包まれるだけだ。
知識だろうか? 経験だろうか?
何にせよパック先生が助っ人に呼ぶのも納得である。
「年の功というやつじゃよ」
そういってテラさんは、ハハハと笑う。
髪からはみ出した耳が、ちょこんと上下に揺れた。




