67.パック調査隊~誘い~
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シャーリーの淹れてくれたお茶で、口を潤す。
はぁー。やっぱり自分で淹れるのとは香りが違う。美味しい。
当のシャーリーは、話の邪魔になると言い、既に帰ってしまった。
居てくれてもいいのに……。
俺が屋敷の掃除をする話も、うやむやになりそうだ。
「それで、大事な頼みごとって何ですか?」
「近隣の森の調査に、付き合って欲しいんだ」
随分と率直に頼みごとが飛んできた。
まぁ、ヘヴィオーガが四体も出現したとなると、調査は必要だし、念のための戦力は必要になるだろう。急場で使うなら暇している俺って訳か。
「いいですよ」
「即答だね。いつもなの?」
「断る理由もないので」
本当は一つある。
ドレイク先生に、一日休養命令を出されているのだが……急ぎの用件ならば仕方が無いだろう。御免、ドレイク先生。
「そういえば待ち合わせって言ってましたけど。大所帯で?」
「いや、調査は三人。私と、マルク君と、森に詳しそうな知り合い」
『森に詳しそうな知り合い』って非常にあやふやな人選過ぎないだろうか。
だが、三人とは意外だ。急ぎで揃えられないにしても、冒険者パーティーぐらい護衛につけるものでは無いのだろうか?
「三人?」
「ああ、その森に詳し――いや、テラさんが大人数は好きじゃないから」
「へー。どんな人なんですか?」
パック先生が高い鼻に指を当て、何か考え込んでいる。一つ、二つと。
「んー。先入観無しで会った方がいいかな」
ミュール様に会う前も、アムにそう言われた憶えがある。
まぁ、会ってから判断する方がいいのは、御尤もな話だ。
「わかりました。で、目的地はヘヴィオーガ出現地点一帯と。待ち合わせは?」
「門だよ。これを飲んだら行こうか」
「では、先に準備しておきますね」
「ごゆっくりー」
お茶を飲み干し、自室に戻る。
今日は、バックパックと剣を忘れずに。
青色と赤色のポーションの数も確認してと。予備の道具袋と、ムル婆ちゃん特製の毒消しと、必要ないだろうが気付け薬も念のため。
乾燥肉も少量入れておこう。日を跨ぐ事は無いだろうが、用心のために。
「来ませんね」
「彼女、時間に緩いからね」
あぁ、テラさんって女性なのか。
現在、門から少し離れた場所で、立ったまま待ち惚け真っ最中である。
まだ、一時間であるから……いや、駄目だろう。
これなら屋敷の掃除をしておいた方が、良かったな。
「帰りますか」「駄目だよ」
俺のちょっとした提案を、パック先生は即座に否定する。
「朝一番で、こうも暇なら情報屋にでも会いに行けばよかったかな」
「マルク君もそういう人、使うんだ」
「知ってるか知らないかで、生き死にが変わりますから」
もしかしたら、他の地域でも可笑しな事になっているのかも知れない。ジャイアントクラブの件も、それの直接的な情報ではなかったが、彼から仕入れた話だった。
冒険者ギルドという、対モンスターの専門組織との縁を切ったのだから、情報源は手放すべきではない。
「もう少し、頻繁に会いに行くかな」
「女の子にも、まめに会いに行くと良いよ」
「パック先生の所にも?」
「ハハハ。冗談では済まなくなる」
「じゃあ、やめときます」
あー早く来ないかな、テラさんとかいう人。
『先入観無しで』と言われたが、初対面から時間に遅れるって中々の減点要素だよな……俺も気を付けよう。
「やあやあパック、待たせてしまったかのぅ」
可愛らしい声が聞こえた。声の主に目を向ける。
少し離れた所から、こちらに手を振りながら近付いてくる少女が一人。
ふらりと広がった銀の髪。
そして何より目を惹くのが、そこから飛び出した長い耳だ。
横に尖っている耳が、個性的で可愛らしい。目鼻立ちも良いが、耳に目が行く。
とはいえ、変な口調の少女である。
パック先生に目を向けると、彼女は小さく頷いた。待ち人のようだ。
「遅いですよ、テラさん。今日はマルク君も一緒だと、言っておいたはずですよ」
「坊主もすまぬ。猫を追いかけておったら、ついのぅ」
「いいえ、お構いなく。そして、初めまして。マルクです」
小さく礼をしながら思う。
パック先生、本当にこの人、大丈夫な人?
パック先生が不必要な人を呼ぶとは思ってはいないが……遅刻の理由が猫?
うん。第一印象は、可愛いだけのよく分からない少女だ。
だが、可愛いはシャーリーやアムで間に合っている。
「知っとる知っとる。お主の母とも旧知じゃった。とはいえ、赤子の坊主しか知らんでのぅ。大きくなったものじゃ」
「は、はぁ」
パック先生? この人何歳なの?
パック先生に目線を送るも、返ってきたのは、小さく横に振られた首だけである。
「テラさん。一緒に行動するのだから、自己紹介を」
「そうじゃった。わしの名前はテッラリッカじゃ。マルクなら『テラ』や『テラちゃん』と気軽に呼んでも良いぞ」
テラさんの顔に笑顔が浮かぶ。だが、それは少女のそれよりも、ムル婆ちゃんの笑顔に近いような……いや、そういう子がいてもいい。
が、”ちゃん”は呼び難い。ここは慎重策で。
「では、テラさんとお呼びしますね」
「何じゃ堅いのぅ。マリアなら、わしから言わずとも『テラちゃん』と呼んできたのじゃがな。それに踏み込むときにドンッと行かねば、女子は落とせぬぞい。なぁパックや」
「その点は同意するけど、”ちゃん”はやめましょうか」
「あのー。時間も遅れているんで、行きません?」
「そうだね。マルク君」「では、行くかのぅ」
パック先生とテラさんは、スタスタと先を歩き出した。
何で引っ張り出された俺が、催促しなければならないのか……先行き不安だ。
「マルク。早う来い。迷子になるぞい」
急かすテラさんの後を追いかける。
だが何だろう……非常に腑に落ちないのは何だろう……。




