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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第二章

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60.氷魔法が使えない理由

読みやすいように全体修正 内容変更なし

 意識が重たい。

 小一時間も踊り続けた俺は、流石に疲れてしまった。

 体力的でも魔力的なものでもない。精神的なものだ。一挙手一投足を先読みして体を動かすなんて芸当、一朝一夕で出来るものではないようだ。

 自己練習は後日にしよう。

 そんな訳で、またお茶を頂いているのである。

 うん、お茶を飲むと、ささくれた神経が解けていくようだ。


「では、そろそろ本題に入りましょうか」

「本題って……あぁ、そうだった」


 氷魔法について聞きに来たんだった。

 新しく知る魔法に心躍って、忘れるところだった。


「はい、氷魔法の事です。率直に言いますね。マルク、あなたはマリア様に封印魔法を受けています」

「封印?」


 ミュール様は、ゆっくりと頷いた。

 封印ってあれだよな。

 魔力を封じ込めたり、危険な魔道具を破壊せずに使えなくしたり、対処できないモンスターを一時的に縛り付けたり、なやつだよな。

 ついこの前、ムウがダークマターの対処に使ったのも、封印の(たぐい)だった。

 直接は見ていないが、結果として生まれた水晶体を見れば、明らかだ。

 しかし母が、俺の氷魔法だけを封印する理由が分からない。


何故(なぜ)でしょうね?」

「私にも全く。ですが、思っていたより冷静ですね」

「母の仕業で間違いないですよね?」

「はい。先程、肌を重ねて詳しく調べましたので。間違いなく、マリア様の魔法によるものです」


 俺の事を操って、遊んでいただけでは無かったのか。

 全く(もっ)て気が付かなかった。まぁ、それは横に置いておこう。

 前提としてミュール様の話を信じるとすれば、ここに嘘を入れても仕方がない。

 母が何らかの理由で、封印魔法を施したのだろう。


「ならば絶対に、何か理由があっての事ですから」


 そこに、敵意や悪意があるはずがない。

 ならばこそ、心配になることがある。


「まさか、俺の体に変なモンスターが封印されているとか?」

「ないですよ」

「封印を解いたら、神をも殺せる力が目覚め――」

「ないですよ」

「とんでもない魔力が――」

「ないですよ」

「ですよね」


 ほっとするのやら、残念なのやら……。

 お茶を飲み、ひと息入れる。ふぅ。少し落ち着いた。

 ミュール様の魔力は、ピシりと冷えて、冷静になれる。


「氷魔法だけ、器用に封印されているって事でいいんですよね」

「はい。マリア様の封印魔法の精度は、流石と称賛すべきものです。出来ればマルクには、我々の標本になって欲しい程にね」


 この人も、魔法学派の一員だということを忘れていた。

 まぁ、ミュール様の場合は、からかいで言っているだけだと思うが……彼女の表情からは判断がつかない。


「怖い事は無しでお願いします……まぁ、調べるだけならお好きにどうぞ」

「あら? 早く封印を解いてくれ、と頼まれるものかと?」

「原因が分かっただけでも僥倖(ぎょうこう)ですから。特に、急ぎもしませんので」


 氷魔法を試し、魔力が霧散する現象の理由を知れただけで、大きな一歩である。

 氷魔法が早く使えるようになれば、それは嬉しい事なのだが、今まで使えなかったのだから、今日明日に望むということもない。


「それに、母の施した封印を解く危険も、同時に考えるべきですから」


 正直、可能性として考えているだけで、封印を解くリスクは無いと思っている。

 母の言葉を憶えているから。

 ミュール様の銀の瞳が、俺の目をずっと捉えている。何かを探るように。

 そして、彼女の柔らかな唇が動き、言葉を(つむ)ぐ。


「あなたの考えは分かりました。解く方法は考えておきましょう」

「ありがとうございます」


 素直にありがたい。本来なら、こちらから頭を下げて頼むべきものだ。

 だから今、頭を下げる。


「頭を上げて、マルク。私とあなたの仲なのですよ」

「俺には、どんな仲なのか想像もできません」


 頭を上げ、ミュール様を見て、俺はそう言った。

 実力でいえば、捕食者と被捕食者の関係だろう。

 もちろん俺が被捕食者だ。

 貸し借りでいえば、転移の事と今日の事を考えるに、俺の方が借りは多い。

 親密さでいえば、そこまでではない気がする。

 改めて思う。ミュール様と俺は、どんな間柄なのだろう?

 俺の困惑を他所に、ミュール様の目尻は下がり、口角は上がっていた。

 実に楽しそうである。その笑顔が作り物でないことを祈るばかりだ。

 それは、ただの俺の願望でしかないかもしれないが。




「ちなみに、今すぐにと言ったら?」

「解けません。私は、氷漬けにするのは得意ですが、封印は分野が違いますので。もし行うとすれば、力尽くになりますよ」

「それは、最後の手段でお願いします」

「フフフ。もちろんです」

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