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5.俺と彼女のお散歩コース

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容は変更なし 誤字報告感謝

「いけ。≪(かぜ)(やいば)≫」


 アムの澄んだ声が響き渡る。明瞭で自信にあふれた声に、俺はまるで騎士様が隣にいるかのような錯覚を抱いた。

 放たれた三つの刃が、次々と緑の首を跳ね飛ばす。

 人より少し長い鼻と耳が特徴の――ゴブリンの頭が三つ続けて転げ落ちた。

 切り離され、存在を保てなくなった頭と体が、さらさらと消えていく。残るのはいつものように魔石だけだ。

 幻想生物、もしくはモンスター。生態系に属さず、魔力を拠り所に産まれ、生きる彼らをそう呼ぶ。人や虫や鳥などと違い、倒せば塵となり、魔石だけが最後に残される。

 この魔石が、魔法の研究には欠かせないものだ。

 俺も研究で使う。砕いて消耗品に作り替えるもよし、そのまま魔力を込めて利用法を探るもよし、少々面倒だが、魔法を込めて魔工石に作り替えてもよしだ。

 先ほどから俺は、アムの倒したモンスターの魔石を集める係になっている。

 ダンジョン内は不思議なことに、昼夜問わず光がいらない。

 なので光源係にもなれない。

 アムの魔法の練度は高い。初歩的な魔法一つでも手抜かりなく、力強く発動している。他の魔法も実践レベルで使えることは、容易にわかる。

 彼女なら、パーティを組めば二十層程度は軽く突破できるだろう。

 幼き頃、神童と呼ばれただけの事はある。

 俺が、手を貸す必要はなさそうだ。

 それでも警戒は解かないが……うん。これでは本当にお散歩だ。

 冒険者としては、常に護衛する側であったので、これでは落ち着かない。


「なぁアムさん。何かやることないかい?」

「君は、動いてないと死ぬ魚か何かだったんだね。散歩なんだから、手ぶらでゆったり行こうじゃないか」

「いや、剣もバックパックも持ってきてるけどな。第一、散歩なら町中でよかっただろ」

「それは、僕の趣味と実益を兼ねた”お散歩”にしたかったからね」

「依頼って言ってただろ」

「『僕と一緒に散歩しようか』といっても、着いてきてくれる君じゃないだろう」


 絶対に行かないな。確信が持てる。

 今現在、第四階層目に降りる長い階段を下っている途中だが、ここにきてやっと、アムが俺を連れてきた理由が分かった。

 仕事を忘れてリフレッシュしろ、ということなのだろう。


「ハハハ、気遣いありがとう。だがな……何でダンジョンなんだよ。全然リフレッシュできねぇよ。お前、デートに誘う女の子たちに『僕と一緒にダンジョンへ潜らないかい』とか言ってんのかよ」

「その台詞を言うと、本当に一緒に来る子達ばかりでほんと困るんだよね……自分は無条件で守ってもらえるって、軽い気持ちの子ばかりでさ」

「実際に言ったのかよ……え? マジで?」

「連れてはこないさ。戦えない人を護衛して進む大変さは、君の方がよく知っているだろう」


 ああ、よくわかる。

 勝手に喚いて、勝手に動いて、勝手に危険に晒されて、勝手に怒鳴り散らす奴等のことは……よくわかる。一度で反省し、こちらの指示に従ってくれる人は、天使にさえ思える。


「ああ、もうあの手の輩に悩まされる必要はないんだな。ハハハ、最高だ。アハハハハ」

「こんなところに連れてきた僕が言うのもなんだけど……やっぱり君には、休息が必要だね」




 第四階層も問題なく突破する。

 しいて言うならば、一角兎の可愛さにに目を奪われたアムを、後方から狙っていたゴブリンアーチャーが二匹。それを俺が始末したぐらいだろうか。

 低層とはいえ、本来一人で進むものでも、一人で戦うものでもないのだから、助け合うのは普通の事だ。

 油断の代償は、チョップ一発で勘弁しておこう。


「ところで、何で目的地が五階層目なんだ?」

「この間、新人の子が魔石採取に潜ったんだけどね。この先で、大量発生してたらしいのさ」

「へー、何が?」

「ブラックスライムだよ。あの黒くてドロリとしているアイツさ。ブラックスライムの魔石を砕いて作った墨が、スクロールによく馴染むんだよ」

「新人に任せればよかっただろ。経験経験」


 俺の言葉に、アムが苦笑いしている。

 新人の子、たぶん女の子だろう。彼女の様子でも思い浮かべたのだろうか。


「あー、逃げ帰ったんだな」

「『もう私、ダンジョンになんて行きません』とか言い出してね……怯える子は慰めてあげたいけど、先輩という手前ね……」


 何だろう。

 結局俺は、体の良い荷物運びとして連れてこられただけな気がしてきた。

 まぁ、回りまわって人助けなら、別にいいか。

 小部屋一面のブラックスライムぐらいなら、簡単に処理できるだろう。


「なら、さっさと片付けて帰ろうぜ」


 そして俺たちは、第五階層に足を踏み入れた。


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