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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

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588.ケルンクラウの報告

 詰め所にて昼食の片づけをした後、ユーディアナ様の家で茶を楽しんでいた。

 テラさんの魔力切れも、大事(だいじ)に至らない様で一安心だ。

 暇に押しつぶされそうになっていたユーディアナ様の話し相手を、テラさんと共にしながら、ケルンさんからの(しら)せを待つことに。

 (しら)せではなく、ケルンさんが直接訪れたのは、既に夕刻になってからであった。

 食堂に顔を出したケルンさんの表情は、険しくもなく、喜ばしくもなく……口元に力の入った、そう、不可解、という顔をしていた。


「お疲れ様です」

「マルク独りか?」

「はい。テラさんはユーディアナ様の寝室に」


 今は『三人分のカップの片づけ』という名目で、二人っきりにしてる。

 積もる話もあるだろう。それを邪魔するほど、野暮ではないつもりだ。

 だが、ケルンさんが来たなら、それも終わりだろう。

 恐らく、再び四人で話し合いをする事になる。


「お茶、用意しますね」

「ああ、頼む」


 俺は魔法の茶の準備をしながら、先程片付けたカップを取りに向かった。

 隣室の食器棚から四人分のカップを両手に持ち、食堂へ戻ってみると、立ったままのケルンさんが、独り小声で呟いていた。


「報告はまとめてした方がいい……いや、だが、またユーディアナ様の寝室に入るのか……クッ。覚悟を決めるしかないのか……」


 何の覚悟かは知らないが、ここでまごついていても仕方が無い。

「寝室へ」の一言と共に、ケルンさんの脇を抜け、テラさん達の所へ向かう。

 寝室の前に立ち、扉を……両手が塞がっているので、声だけ掛ける事にした。


「マルクです。ケルンさんが戻って来ました」

「マルク様、ケルン。お入りください」


 ユーディアナ様の声と同時に、室内で動く音が聞こえた……テラさんの足音だ。

 そしてすぐに内開きの扉が開いた。


「ささ、入れ入れ」

「失礼します」「失礼致します」


 覚悟の決まったケルンさんの声を聞きながら寝室へ入り、一旦(いったん)、カップを机に置く事にした。

 扉を開けてくれたテラさんは、寝台の端に戻り、自然と腰を下ろす。

 (わず)かに揺れる寝台の上で、ユーディアナ様は穏やかな表情を浮かべていた。

 上体を起こしているユーディアナ様の顔色は、朝ほど悪くない。

 熱により赤みを帯びていた顔も、今は落ち着きを見せていた。

 まぁ、そうでなければ話し相手、ではなく看病する事になっていただろう。

 額に張り付いたままの癒しの水が、少しでも役に立ったのなら、幸いだ。

 ユーディアナ様の視線が、寝台横へ移動したケルンさんへ動く。


「ケルン。ご苦労様です」

「有難う御座います。まずは現状の報告を」

「まずは、座ったらどうじゃ?」

「ああ」


 机の前の椅子を寝台へ向け、ケルンさんが着席する。

 自然と、朝の話し合いと同じ位置関係に納まった。


「ではまず、パラサイトの駆除ですが、発見済みであった二十のパラサイトの駆除は(とどこお)りなく完了しました。焼き払い、処理したものが七、パラサイトのみを処理したものが十三。戦士七名が怪我を負いましたが、いずれも軽傷です」

「皆、大事(だいじ)なくてなによりです……続きを」


 ユーディアナ様が、言葉の間のその一瞬、俺とテラさんへ視線を送り、再びケルンさんへ目を向けた。

 それは事実確認などではなく、感謝の視線だろう。

 その感謝は、素直に受け取っておこう。

 ユーディアナ様の促す声に従い、ケルンさんが報告を続ける。


「ハッ。その後、パラサイトに寄生された木々を探すために偵察を出しました。偵察部隊の内二名が北の精霊樹に寄生する異様なパラサイトを発見。直後、パラサイトより発生した黒い霧が拡散を始めました」

「異常事態であった事は、知っています」


 全ての笛の音は、ユーディアナ様も聞いていたのだろう。

 処理完了の音も、救助要請の音も。


「魔法に長けた者達が黒い霧の広がりを抑えている間に、マルクが黒い霧へ突入。精霊樹に寄生していたパラサイトを処理致しました。寄生された事により弱っておりますが、精霊樹は無事です」

「精霊樹が無事で、良かった。それで、怪我人は?」

「はい。パラサイトと遭遇し、黒い霧に飲まれていた偵察隊の二名が重傷を負い、現在、ドーンの下で治癒を受けております」

「お二人の無事を、生命と森に祈りましょう」


 そう言ったユーディアナ様が、静かに目を閉じた。

 テラさんも目を閉じているので、恐らくケルンさんもそうであろう。

 俺は、この森の部外者であるが……彼らの無事を森に祈ろう。

 短い静寂を破ったのは、ユーディアナ様であった。


「時間を取らせてしまいましたね。ケルン、報告の続きを」

「ハッ。先程までパラサイトとパラサイトの種、そして黒い霧と共に現れた木の化け物を探していたのですが、発見出来ませんでした」


 ケルンさんは、戸惑いを含んだ声で、そう報告した。

 ユーディアナ様とテラさんの眉間に(しわ)が寄る。


「む? 既に見つけていた二十カ所以外に、広がっておらんかったのかえ?」

「いや、テッラリッカ……昼に出した偵察隊はパラサイトを発見していた。だが、そのパラサイトすら消えていてな……あと、寄生されていた跡は確認済みだ」

「うーむ……何が何やら……」


 テラさんが首を(かし)げながら、困惑の声を上げた。

 痕跡が残っているという事は、偵察隊の見間違えでは無いのだろう。

 消えた、か……。

 木の巨人もそうであったが、もしかしてパラサイトも、そしてパラサイトの種も同じく、黒い霧を放つパラサイトが生み出した存在である可能性がある……いや、可能性は可能性でしかないな。

 おっと、それで思い出した。


「すみません。あの変なパラサイトの事で、報告し忘れていた事が一つ」

「何だ?」「む?」


 テラさんを里へ連れていく事で頭がいっぱいで、忘れていた。

 俺は、バックパックから親指大の小さな魔石を取り出し、ケルンさんへ渡した。


「あの変なパラサイトを倒した場所に、落ちていたものです」

「これが、あのパラサイトのものだと?」

「いえ。確認している余裕は無かったもので……すみません」

「いや、構わん……確かに、森では見た事の無い魔石だな」


 ケルンさんは、右手でつまんだ魔石を目の高さまで持ち上げ、眺めていた。

 知識さえあれば、魔石を見るだけで、それが何のモンスターの物か、分かる。

 当然未知のモンスターは、別だ。


「ケルン。私にも」

「はい。ユーディアナ様」


 ケルンさんに渡された魔石を、親指と人差し指の間に挟んだユーディアナ様は、じぃーっと観察し始めた。

 ユーディアナ様は(しば)しの間、真剣な眼差しを魔石へ送っていた。

 そしてユーディアナ様が、魔石に魔力を通し始めた。


「これ、止めん――ぬおっ!」

「これは!」「ユーディアナ様!」


 テラさんによる制止の声は、魔石から()れ出した黒い霧によって、驚きの声に塗り替えられてしまった。

 ()れ出た黒い霧が魔石を包み、ユーディアナ様の手へと伸びる。

 そして、ユーディアナ様が魔力を通すのを中断した途端、黒い霧は空気中に溶けるかの様に消えていった。

 ()れ出たのが極少量だったから良かったが……流石に今のは、迂闊(うかつ)な行動だ。


「ユーディアナ様。今のは駄目です」「お主、何を考えておる!」

「ごめんなさい、マルク様、テッラリッカ。アルケーの森を長年苦しめてきた存在の正体が分かるかもしれぬと思ったら……つい」


 俺も、つい言葉が出てしまった。

 魔術師として理解できるが、ユーディアナ様の言葉に同意する訳にはいかない。

 同意できないのはテラさんも同じな様で、その長い耳をピンッと張っていた。

 あれは、怒りか緊張の表れだ。


「つい、ではないじゃろ。全く……」

「今回ばかりは、テッラリッカの言う通りです。ユーディアナ様にもしもの事があったら……ご自重ください」

「はい……」


 テラさんとケルンさんの叱責は、至極当然の話。

 ユーディアナ様が、少ししょんぼりしてしまったが、仕方が無い事だ。

 研究であれば、安全を確保した上で調べるべきだ。

 テラさんもケルンさんも、ユーディアナ様を心配する(ゆえ)に怒っているのは分かるのだが、場が少々ピリピリし始めているな……よし、茶を出そう。

 少しは、落ち着く筈だ。


「≪自然(しぜん)息吹(いぶき)≫よ……一旦、お茶にしましょう」


 右手人差し指、その先の先から流れる魔法の茶が、カップを満たしていく。

 一つ、二つ、三つ、四つと。

 流れる茶を止め、ユーディアナ様、テラさん、ケルンさんの順にカップを渡す。

 落ち着いて欲しい順に。


「ありがとうございます」

「うむ」

「気が利くな」


 俺も熱い茶を飲んで、少し落ち着こう。

 口に含んだ茶が、舌と鼻に、安らぎを運んでくれる。

 俺も含め、四人の吐息が、同時に部屋に広がった。

 自分の魔法で出しておいてなんだが……茶は、やはり、落ち着く……。

 もう話し合う事なんて無い気がするが、一度、仕切り直しだな。

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