表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

593/1014

586.霧が晴れ

 テラさんの魔力が満ちた精霊樹の周りには、木々が生えておらず、代わりに木の巨人が乱立していた。既に擬態は解いており、奴らは二本足で立っている。

 全てを倒す暇は無い。

 黒い霧が濃く、強くなっている事を、身に(まと)う炎の鎧が教えてくれる。

 そして、急ぐ理由がもう一つ。

 精霊樹に満ちるテラさんの魔力が、徐々に薄くなっている。

 それは黒い霧によるものではなく、パラサイトの仕業だ。

 精霊樹の根、(みき)、枝の至る所に細く伸びたパラサイトが、テラさんの魔力を貪欲に吸い続けていた。

 ただでさえ、膨大な量の魔力をこんな遠くまで伝えているのだ……いつまでも魔力が持つはずがない。

 今ならば、俺自身が精霊樹に直接魔力を通す一手を省くことが出来る。

 この、テラさんの作ってくれた好機を、逃すわけにはいかない。

 精霊樹への最短距離を取りながら、邪魔な木の巨人の足元へ潜り込む。

 駆け抜けながら、根が絡まり出来た巨人の両足を、炎の剣で切り払う。

 切断面に残った浸食の炎が、足から(みき)へ上り、木の巨人を喰らいつくす。

 赤く燃える炎に照らされる中、パラサイトの種が飛び込んできた。

 木の巨人の陰に隠れていたのか。

 跳躍した木製人形への対処の為、一足だけ方向を変え踏み込み、炎帝竜の大剣を相手の胴へ突き刺した。

 突き刺した剣から炎が広がる。

 塵へと変わるパラサイトの種を無視し、剣を払いながら、精霊樹へ駆け――大地の下で、魔力が動いた。

 俺は走る足に無理をさせ、横へ跳んだ。

 突如、地面から伸びた木の根が、俺の進んでいた(はず)の、その先を薙ぎ払った。

 その根の中に、パラサイトの細い(くだ)が通っているのが分かる。

 あれを炎帝竜の大剣で斬れば、パラサイトを焼き殺せる可能性がある。

 根へ駆けた俺の思惑を知ったかの様に、根は再び地中へと戻っていった。

 剣を振ることを止め、代わりに前へ進む。

 地中に潜む根の動きを、テラさんの魔力を手掛かりにし、感じ取る。

 潜むパラサイトの種を警戒しながら、更に前へ。

 俺からの攻撃を警戒してか、根は動きを止めていた。

 出て欲しい時には、動かない。

 根を切れぬならば、結局、精霊樹の幹にある(こぶ)を狙うしかない。

 右上から真っ直ぐ振り下ろされた木の巨人の腕が、俺の進路を遮る様に地面を叩く。弾けた土を、炎の鎧が消滅させた。

 間、髪入れずに、しなる腕に炎の剣を重ね、炎を移す。

 恐らく、これだけでは、木の巨人の全てを焼き払う事は出来ないだろう。

 それでも今は、動きの阻害が出来れば十分だ。

 燃える木の腕が上へと昇り、進むべき道が開く。

 その隙に突破し、正面の木の巨人へ突き進む。

 正面の巨人が攻撃を始める前に、懐へ潜り込み、足を切断する。

 ここから先は、進路を(ふさ)ぐ敵は居ない。

 踏み込む足が、俺の体を前へと押し出す。

 地を削り取る轟音が、走る俺の背に届く。

 木の巨人の鞭が、俺の真後ろに振り下ろされた音だ。

 構う必要は無い。

 前へ、前へ。

 不思議と、パラサイトが寄生した精霊樹に動きは無かった。

 枝は動かず、根の動きも、先の一撃だけ。

 テラさんのお陰か? 精霊樹の抵抗か?

 考えるよりも、今は、足を動かす。

 一蹴り一蹴り……進めば進むほど、身に(まと)う炎の鎧が黒い霧に(むしば)まれていく。

 炎の鎧による焼く力だけでは、対抗出来ない。

 炎獄王の鎧へ魔力を注ぎ込みながら、(なお)、進む。

 巨大な世界樹は、もう目と鼻の先だ。

 地に太い根を張り、その太すぎる(みき)が、輝きを放ち、空へと伸びている。

 狙うは『向かって、裏側』だ。

 もうパラサイトの全体像は掴んでいる。

 俺は右を抜けるように、回り込む。

 裏側へ抜けた俺は、異様なパラサイトの姿を横目に見た。

 そこには、木に擬態した小さな(こぶ)ではなく、俺の身の丈を超えた、オーガほどの大きさの瘤があった。

 魔力により、その形は分かっていたが、その様相に嫌悪を覚えてしまう。

 濃くなった黒の中でも分かる、黒。

 ぼこぼことした表面が、(わず)かに脈打っている。

 そして、所々に空いた穴から噴き出す、黒い霧。

 これ以上、黒い霧は広げさせない。

 最大速度で進む足を踏み止まらせ、パラサイトへ向き直り、俺は低く跳んだ。

 黒い霧を吹きだす正面を横切りながら、両手に握る炎帝竜の大剣にて()ぐ。

 肩ほどの高さに引いた赤い炎の線が、広がる。

 炎が精霊樹から露出している黒い(こぶ)を消滅させ、精霊樹の中へと進む。

 精霊樹の中に張り巡らされたパラサイトの管を伝わり、炎が精霊樹を駆け巡る。

 分かれ、無数に伸びた根の一本一本まで、枝の一本一本まで。

 枝先にまで伸びていたパラサイトが、一斉に燃え、塵と化した。

 その瞬間、輝く世界樹が赤く染まった。

 それはまるで、炎の葉を枝に(まと)わせたかのようであった。

 そして、炎の葉を散らす様に、赤い光が広がり、消える。

 一瞬の赤い輝きが放たれると共に、辺り一面を、いや森を(おお)っていた黒い霧が消えた。

 炎の鎧を蝕んでいた力は、もう無く、視界を染めていた黒も無い。

 テラさんの魔力で満ち、輝く精霊樹は、無事だ。

 そこには、火の粉一つ残ってはいなかった。

 パラサイトの駆除の確認は、里の人に頼むしかないな。

 ふと、黒い(こぶ)があった場所に、親指大の魔石が落ちている事に気が付いた……今は良い。まずは、やるべき事がある。

 放置してきた木の巨人を、全て始末してしまわねば。

 そう思い、精霊樹の南側へと駆けた――そこには、何も居なかった。

 炎獄王の鎧を消し、良好となった視界で周囲を見回す。

 先ほどまで俺を追って暴れていた木の巨人は、擬態した姿一つ無かった。

 俺の視界に映るのは、小さな広場の様に開けた土地だけだ。

 開けた土地を囲う木々が、木の巨人の擬態とは思えない。

 擬態を解除した時に隆起(りゅうき)した土が、あちこち削れた地面が、木の巨人が幻でなかった事を証明している。

 パラサイトの種も、見当たらない。

 パラサイトの種はともかく、木の巨人は、先ほどのパラサイトと共に消えたのかも知れないな。

 木の巨人は別種ではなく、パラサイトと隷属(れいぞく)的な関係だったのだろう。

 イービルリッチの生み出すスケルトンや、ロードゴブリンの生み出すゴブリンも同じ性質を持っている。

 黒い霧が晴れ、木の巨人がいなくなった。

 当面の脅威が去った事を、今は喜ぼう。

 たった一つ落ちた魔石を拾いに戻った後、俺は周囲の警戒を続ける事にした。

 炎帝竜の大剣は、消さない。

 残る魔力が少ないので、少々辛いが、変なパラサイトを討伐した事で何が起こるか分からない以上、警戒は(おこた)らない。(おこた)れない。

 体を襲う虚脱感に支配されぬよう、気をしっかり持たねば。

 皆と合流するまでは、精霊樹を守らねばならない。

 見上げた精霊樹から、テラさんの魔力が消えていく。

 黒い霧が晴れた事で、状況が皆にも伝わったのだろう。

 テラさんは、大丈夫かな?

 テラさんが、無理と無茶をしたのは確実だ。倒れていなければいいけど……。

 怪我をした彼らの事も気になる。

 黒い魔力による浸食は消えたとしても、怪我が消える訳ではない。

 いや、俺が考えても仕方が無い事だ。今は警戒と――


「お疲れ様。助かったよ、精霊樹」


 礼を伝えないと。

 テラさんに聞かねば真偽は分からないが、恐らく、自らに寄生したパラサイトの操りに抵抗し、根や枝による攻撃を阻止してくれたのは、この精霊樹だ。

 木に語り掛けても、何も分からないし、何も変わらない。

 言葉が返ってくる訳でもない。

 それでも、一言二言ぐらい……良いだろう。

 森に、ふわりと風が流れた。

 森の木々と精霊樹を撫でた風が、豊かな葉を揺らし、鳴らす。

 それを返事として、受け取っておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ