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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

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582.昼食と笛の音

 ケルンさん達と合流した俺達は、一度、里へ戻る事となった。

 倒したパラサイトの調査と範囲を広げた偵察は、交代の方々に任せ、俺達は里への帰路につく。

 里へ戻る間に、ケルン隊とヤム隊の状況も聞くことが出来た。

 前衛に立った戦士達が怪我を負ったものの、大怪我をした者はいなかった。

 まぁ、パラサイトの種は素早い相手だが、動きは直線的だ。

 集団で対処すれば、そう難しくは無いのだろう。

 パラサイト自体も、そもそも近づかずに焼くのだから、怪我しようがない。

 問題は、増殖力だ。

 偵察に出た人の報告待ちだが、そう広まっていない事を祈ろう。

 里に戻った俺達は、戦士達の待機所でもある詰め所にやってきた。

 とはいえ、各々(おのおの)、自宅にて昼食を取るらしい。

 この里には、宿や食事(どころ)は無い。

 祭りやらで一堂に会する時以外は、それぞれの家々で食べる習慣だそうな。

 俺とテラさんは、分けて貰ったキノコと山菜を、詰め所にある簡易炊事場にて、焼いて、焼いて、焼きまくった。

 テラさんがキノコの種類を見極め、焼きの指示を行う。

 俺は、それに従うだけだ。

 傘の大きすぎるキノコは、風の刃で切り分ける。

 焼いたキノコと山菜の横に、小さく塩を盛りつけ、完成だ。

 塩も油も、鉄の鍋も、この里では貴重な物だろうに『自由に使ってくれ』と気前良く許可が出た。有難い。

 流石に、今から肉の為に獲物を狩って来るとの申し出は、丁重に断った。

 使った鉄鍋を洗い終え、卓へ戻ると、先に料理を運んでくれていたテラさんが、椅子に座ったまま手招きをしていた。

 料理を前に、長い耳を上下させているテラさんは、可愛らしい。


「ほれ、こっちじゃ、こっち」


 テラさんの声に反応し、周囲の視線が俺に集まる。

 詰め所には、当然、待機中の人達がいる。数は七人。

 室内には、六人掛けの卓と椅子。それが二組。

 俺とテラさんは、そのうちの片方を二人で占拠する形になっていた。

 もう一つの卓で、彼らは少々狭そうに座っている……食べ終えたら空けますので、(しば)し、ご辛抱を。


「お待たせしました。≪自然(しぜん)息吹(いぶき)≫よ」


 俺はテラさんの隣に座り、空の木製カップへ向け指をさし、茶を注ぎ入れた。

 立ち昇る香りに目を(ほころ)ばせたテラさんを眺めていると、目が合った。

 それがなんの合図かぐらい、分かる。

 すぐにお互い卓へ視線を戻し、同時に口を開いた。


「「いただきます」」


 重なる声が心地よく、そして食欲が増してくる。

 さぁ、キノコだ、キノコ。

 木製のフォークを取り、キノコへ突き刺す。

 加工されたフォークの先端はそう尖ってはいないが、()の長い乳白色のキノコを簡単に貫いた。黄色がかった焼き色が、良い。

 少し膨らんだ傘から(かじ)り付く。

 柔らかな食感と同時に、キノコに残った水分がジュッと口の中に(こぼ)れ落ちる。

 これは、味わいの汁だ。

 火の通った熱さを持つキノコを、一噛み、二噛み……噛めば噛むほどに、キノコの旨さが口に広がってくる。

 それに臭みの無い良い香りだ。

 フォークは突き刺したそのままに、口を付けていない方のキノコの()に、盛った塩をちょっとだけ付ける。

 残りの()を、口へ放り込むと、塩のしょっぱさが、キノコの味わいを引き立ててくれる。やはり塩は偉大だ……取り過ぎも問題だけど。


「山で食べたキノコも美味しかったですけど、これも良いですね」

「この森のキノコは、旨いからのぅ」

「ええ。良い味してます」


 既に一口大に切り分けてある茶色の傘を、フォークで刺し、口へ運ぶ。

 濃厚なキノコの旨味が、ぷにゅっとした噛み応えと共に口を支配する。

 これは塩を付けると、味が濃くなりすぎるな。

 そのまま噛む、噛む、噛む。

 キノコは、一つ一つ味わいが違って、少し楽しい。

 小さなキノコも、平べったいキノコも、しわしわなキノコも、良い。

 緑の(くき)の先に、ひょろっと芽が伸びた様な山菜も――これは、ちょっと苦い。

 だが、塩をほんの少量付けただけで、味わいが変わる。

 塩の刺激が、山菜の味を引き出し、苦みを少しだけ抑えてくれる気がする。

 恐らく疲れからだろう……塩が体に染み込んでいく。

 空腹も相まって、すぐに皿の木目が全て露わになってしまった。

 空の皿をフォークで突っついても、もうキノコも山菜もない。

 あるのは木目だけだ。


「カカッ。戦う(おのこ)には、ちと足らんかもしれぬのぅ」

「少し。まぁ、町に帰れば、狼のまんぷく亭が俺を待ってますから」

「わしらを、じゃな」


 肩を小さく上下させながら、テラさんが笑った。

 御尤(ごもっと)もである。行くなら当然二人で、だ。

 食事の合間合間に飲んでいた茶を飲み干し、自分とテラさんの空のカップへ、再び茶を注ぎ入れる。最後の一滴まで、余さずに。


「ふぅ……マルクの茶は落ち着くのぅ」


 茶を受け取るや否や、即座に口へ運んだテラさんが、まったりと言う。

 横から見る長い耳の先端が、ふにゃりと下へ向いているので、本心なのだろう。

 茶を淹れた甲斐(かい)があるというものだ……魔法でだけど。

 俺は、まだ茶に口を付けない。

 まず、先に飲むものがあるからだ。

 俺はバックパックから赤色ポーションを取り出し、封を解く。

 これが最後の魔力回復ポーションだ。

 もう家にも無いので、またガル兄に作って貰わないといけない。

 赤い液体を、そのままグイッと流し込む。

 口の中に臭みが広がり、磨り潰した野草を舌に塗りたくったかの如き苦みが、俺を襲う。何度飲んでも、これはキツイ。

 喉を通り、体へと入り込んだポーションは、即座に魔力へと変化した。

 だが、広がる魔力が大きすぎる故か、体が他者の魔力を異物と感じてしまう。

 それがまた、気持ち悪い。

『不味い』という言葉が、口から飛び出しそうになるが、今は食後だ。

 我慢しよう。


「あれほど頻繁に飲めば、普通は慣れるものじゃがのぅ。そう言えば、わしはまだ飲んだことが無いのぅ」

「止めた方が良いですよ、テラさん。本当に……」

「じゃな。わしは、この普通ので良いのじゃ」


 そう言ってテラさんは、赤色ポーションをごくりと飲み干す。

 荒事になるとは予想していなくとも、テラさんもまた、魔力回復用のポーションを用意していたらしい。

 飲み干したテラさんは、口角を上げ、俺に空のポーション容器を振って見せた。


(かも)(ねぎ)で買ったものじゃ」

「俺も、店の売り上げに貢献したいんですけどね」


 ピュテルの町にある道具屋『(かも)(ねぎ)』は、シャーリーの家であり、シャーリーの母リンダさんの経営する店である。

 だが幼馴染の店に貢献したくとも、残念ながら俺は、戦闘や旅に道具をあまり使わない。道具を使わずとも、ほぼ魔法で事足りる。

 ポーションは、ポーション作りを生業(なりわい)としているガル兄から直接購入しているので、道具屋で市販品を買う必要はない。

 改めて、そう考えながら口の苦さを茶で誤魔化していると、テラさんが笑った。


「カッカッカ。そう、苦々しい顔をするでない。リンダもシャーリーも、そのような事を気にする小さき女子(おなご)では無いのじゃ」

「それは、知ってます。この顔は、ポーションの所為(せい)ですから」

「ならば良い良い。魔力が落ち着くまで、ゆっくり休むのじゃぞ」

「はい、テラさん」


 テラさんは、笑顔を浮かべながら、俺の肩をぺしぺしと叩き始めた。

 俺はそれを受け入れながら、ゆっくりと反対の手で茶を飲む。

 ポーションや魔力に関わらず、今は待機せねばならない。

 偵察に出た人達の報告待ちだ。

 落ち着いて背もたれに体を預け、小さく息を吐きだす。

 使った食器を洗って片づけないといけない……けど、少し休んでからにしよう。

 そう思った矢先に、甲高い笛の音が鳴り響いた。

 今はパラサイト駆除に動いている人は居ない(はず)……なので、討伐完了の合図ではない。この笛は、何の(しら)せなんだ?


「テラさん」

「救助要請じゃ。行くぞ」


 既に立ち上がっていたテラさんは、止まることなく動き出した。

 外へ飛び出すテラさんを追って、俺も詰め所から出て、そのまま里を出る。

 テラさんは、音の方角も分かっているらしい。

 先導は任せるしかない。

 速度を上げ、森を駆けるテラさんの後ろを走りながら、俺は、胸にざわつきを感じていた。これは、ポーションの異物感ではない。

 何だろう? 

 テラさんの進む先から感じる、この不快感は。

 魔力感知は利かぬままなのに、気持ち悪さだけは、伝わってくる。

 行けば分かる。

 今はただ、救助要請が大事(おおごと)でない事を願いながら、俺はテラさんの背を追った。

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