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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

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588/1014

581.調査依頼と予定終了

誤字修正 誤字報告感謝

 ピュテルの町を拠点とする魔法学派『フクロウの(ひとみ)』の本拠地。

 その一室である学派長室にて、学派長フィンスティングが、椅子の背もたれに体を預けていた。骨ばった体が、(きし)みを上げる。

 フィンスティングは、現在七十七の歳を重ねたにも(かか)わらず、(いま)だ豊富な髪を保ち、立派な(ひげ)(たくわ)えていた。

 白に染まった毛色もまた、彼の顔に刻まれた多くの(しわ)に合っていた。

 フィンスティングは、白髭を手で撫でつけながら、正面の机、その上に乗る一枚の手紙に目を落とした。

 開かれた便箋(びんせん)の封じには、獅子の紋章が描かれている。

 今朝、王都より届いた内密の依頼。

 多くの部下は居れど、この依頼を任せられる者は一人しか居なかった。

 学派長室の中に突如出現した魔力を感じ、フィンスティングは、待ち人の訪れを知った。

 正面の魔力に目を向けたフィンスティングが、一つ(まばた)きをすると、そこには既に、一人の女性の姿があった。

 転移魔法の影響か、透き通るような青く長い髪が、女性の背で小さく揺れる。

 女性としては高い背丈に乗った顔は、人形を思わせるような整い方をしていた。

 その流麗な顔の中にある鋭い目。その奥に潜む銀の瞳が、椅子に腰かけたままのフィンスティングを見下ろしている。

 彼女は、ミネルヴァ。フクロウの瞳の副学派長を務める女性である。


「お待たせしました、学派長」


 感情一つ浮かばぬ無表情で、ミネルヴァは口を開いた。

 その声に、学派長の白眉が動いた。


「ほぅ、今日は機嫌が良さそうだな。マルク君のお陰かな?」

「フフッ、そうですね。しかし、その当人は、現在、テッラリッカさんの里帰りに付き合い、この町には居ませんけど」


 ミネルヴァの言葉に、フィンスティングの目が(いぶか)し気に細まった。


「む? アルケーの里で、何か問題でもあったのか?」

「いいえ。助力の感謝へ態々(わざわざ)と。ウフフ。やはり彼女の事は気になるのですね」

「今はもう、数少ない友人の一人だからな」

「マルクも学派長も、良き友人をお持ちで……(うらや)ましい」


 フィンスティングは、無表情な彼女の心中を知ることは出来なかった。

 一つを除いては。


「ミネルヴァ副学派長。君は、森の(たみ)の事を()いておらぬだろうに、テッラリッカの事は、中々に買っておるのだな」

「別段、森の民だけを嫌悪している訳ではありませんよ」

「そうだな……全て等しく、か」


 その呟きにも似た声に反応したミネルヴァを、フィンスティングは見逃さなかった。無表情の仮面の下から、薄っすらと漏れ出した微笑(ほほえ)みを。


「語らい、知れば、多少の情くらい()くものでしょう?」

「フッ。そうだな」


 小さく笑みを浮かべたフィンスティングとは対照的に、ミネルヴァの笑みは一瞬のものであった。

 

「学派長。そろそろ本題を」

「年寄りに付き合わせてすまんな。今回は、月女神(つきめがみ)の遺跡を調査して貰いたい」


 王都の北部に位置する遺跡。

 その調査が、今も机の上で開かれたままの手紙に書かれていた依頼。

 ミネルヴァの視線が、フィンスティングから獅子の紋章へと移る。


「レオニード王……では、マルクに?」

「君にだ。あの遺跡の中へ自由に出入り出来るのは、君だけだからな」

「邪竜の目覚めによる深部への影響を調べろ、という事ですね。モンスターは全て放置しますが、宜しいですか?」


 それが問いではない事を、フィンスティングは知っていた。

 (ゆえ)に、フィンスティングは大きく(うなず)き、答えを返す。


「分かっている。君の、そのマリアとの誓いを破る必要は無い」

「ならば、御受けしましょう」

「ああ、頼んだ」

「では、失礼します。≪転移(てんい)≫」


 短い呪文と共に、ミネルヴァの姿が忽然(こつぜん)と消えた。

 独り部屋に残ったフィンスティングは、ゆっくりと息を吐き出した。


「いつも、ああ穏やかならば良いのだがな……マルク君、君にも感謝を」


 フィンスティングは、そう呟き、ゆっくりと目を閉じる。

 その閉じた(まぶた)の裏に、森を共に駆ける少女の姿を思い浮かべながら。


「テッラリッカが迷惑を掛けていなければ良いが……頼んだぞ、マルク君」


 呟きは、誰にも伝わる事もなく、学派長室の中で広がり、消えた。




 地面から襲い来る木の根を(かわ)し、上方から振り下ろされる枝を跳んで(かわ)す。

 葉を付けたまま(しな)う枝は、地面を叩き、折れてしまう。

 パラサイトは、宿主がどうなろうとお構いなしの様だ。

 俺が着地する機を逃さずに、木の上に隠れていたパラサイトの種が飛び掛かって来た。だが、分かっていれば何も問題は無い。

 軌道を見切り、炎帝竜の大剣にて切り上げる。

 下から上へ描く炎の軌跡が、木製に見えるその体を切り裂き、瞬時に焼き払う。

 休まず、即座に前へと進む。

 テラさんの魔法を信じて。

 隠れていたパラサイトの種が、寄生された木の裏から跳躍と共に姿を現す。

 踏み込む足をそのままに、パラサイトの種を、炎帝竜の大剣で払い除ける。

 炎に飲まれ、消えるパラサイトの種を置き去りにして、更に前へと踏み込む。

 テラさんの生み出した魔法の木が、地面で暴れる根と、俺の背を狙う枝を、次々と拘束していく中を駆け、俺は寄生された木の(みき)に触れた。

 もう十三度目になる慣れた手順だが、手は抜かない。

 木の全体に広がったパラサイトの姿は、一つ一つ違っていた。

 魔力を木の隅々にまで通し、それを貪欲に吸うパラサイトの形を感じ取り、小さな(こぶ)を炎帝竜の大剣で突き刺した。

 浸食の炎が木の中を駆け巡り、パラサイトを焼き尽くす。

 同時に、テラさんの魔法に抵抗していた木の動きも止まり、(きし)む音が鳴り止む。


「テラさん。お願い」

「よし、離れておれ」


 テラさんによる、木への癒しと周囲の修繕を見守りながら、俺は警戒する。

 問題なく根は土の中へ戻っていった。

 折れた枝はそのままだが、強く生き残って貰う事を祈るしかない。


「ふぅ。パラサイトは、微塵(みじん)も残っておらぬ。後は木の生命力に任せるのじゃ」

「お疲れ様です」

「うむ。これで予定の二十本は終わりじゃな」


 俺達テラ隊が十三。ケルン隊が四。ヤム隊が三。

 (あらかじ)め発見していたパラサイトは、全て駆除出来た(はず)だ。

 だが、まだ森から感じる違和感が消えていない。


「ですが、まだ――」

「残っておるのぅ。じゃがそれは、ケルンらと合流してからじゃ……それに、腹が減っては何とやらじゃぞ」

「ですね、お昼にしましょう」


 敵がまだ残っている事は、喜ばしい事ではないが、テラさんの表情は曇り無く、明るかった。

 木漏(こも)れ日の差し込む方向から、太陽の位置を知れば、現在の時間が推測出来る。

 もう昼時を過ぎている。

 それに魔力を使い過ぎたかもしれない……炎帝竜の大剣を出したまま駆け回っていた為、流石に疲れてしまった。

 俺は、周囲にパラサイトの種やモンスターがいない事を確認し、炎帝竜の大剣を消す。すると、少し体が軽くなった気さえした。

 炎帝竜の大剣自体に、重さは無いのだが不思議なものだ。


「じゃあ、行きましょう。テラさん」

「さてと……皆と合流する為に、もうひとっ走りじゃ。気張るのじゃぞ」

「えー、まだ走るのかよ」

「りょ、了解しました」

「はぁ、はぁひ、がんばりま、す」


 森の戦士二人も、魔術師の少女も、もう駄目みたいだ。

 一応、走る速度を考えたり、戦闘の負担を軽くする為の役割分担もしたんだけどな……焼け石に水だったか。

 独り文句を言う青年が笛を吹いたのを確認し、テラ隊長が再度号令を出す。


「では、出発じゃ」

「「「「はい」」」」


 俺の声と、三人の絞り出した声を聞き、テラさんは、走り出した。

 テラさんの隣を走ろうと思ったが、止める。

 今、後方から奇襲を受けたら不味(まず)いな。

 俺は、体力切れでも必死にテラさんに喰らい付く三人の背を見ながら、行くことにした。

 警戒は怠らずに。

 合流するまでは、気を抜いてはいけない。

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