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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

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580.戦いの合間に

 俺の注いだ魔力に包まれた木の中で、細く、深く根を張るパラサイトが燃える。

 断末魔一つなく、木の外には炎一つ漏れる事は無い。

 静かに炎と化したパラサイトは、欠片一つ残さずに消滅した。

 やはり、パラサイトの死の後に、魔石が残る事はなかった。


「これで五本目。テラさん」

「うむ。任せるのじゃ」


 地面を荒らした木の根は、パラサイトの消失と共にその動きを止めている。

 だが、(つまず)く可能性は、無くは無い。

 足元に気を配りながら、太い(みき)から少し離れ、警戒を続ける。

 代わりにテラさんが(みき)へ手を当て、パラサイト討伐の確認と、現状の回復の為、木に魔力を流し始めた。

 地から芽が伸びる様に、双葉が育つ様に、テラさんの魔力を帯びた木に、生命が満ちていく。

 テラさんが魔力を通した木を見上げて思う。

 やはり、他の木よりも大きく育った木を選んで、奴は寄生しているのだな、と。


「≪()≫よ、≪(つち)≫よ……」


 テラさんの言葉に従い、暴れ、露出した根が地中へ潜り、俺を叩かんと無理に曲がっていた枝々が、自然な形へと戻っていった。

 そして、ひび割れ、へこみと盛り上がりが出来た地面が、平坦になるべく動く。

 (うごめ)きにも似た地面の動きは、そう時間を掛けずに、既に四度見た光景へと変わっていった。不自然に顔を出した根は一つもなく、平坦な地面である。

 毎回、これをテラさんに任せているが、本当に魔力は大丈夫だろうか?


「うむ。今回も問題なしじゃ」


 耳を弾ませながら、テラさんが俺に駆け寄ってきた。

 その嬉しさは、耳だけでなく、表情の柔らかさの中にも見て取れる。


「テラさん、お疲れ様。それで……次はどうしましょう?」

「そうじゃな……」


 俺もテラさんも、まだまだ余力は十分残してある。

 そのまま突撃しても問題ないのだが……。

 考えている事は同じらしく、俺もテラさんも、同じ方向を向いていた。

 同行する三人の方へ。

 そこそこの距離を素早く走り、戦い、短く休む。

 そしてまた走り、戦い、休む……五度繰り返した結果が、視線の先で疲れを(あら)わにしている彼らの姿である。

 特に、魔術師の少女の体力が心配だ。

 ふらつく体で魔法を行使して、暴発したら目も当てられない。


「休憩にしましょうか」

「その方が良いじゃろうな。幸い、わしらの歩みは、想定よりも早い」


 テラさんの同意が取れたので、俺は、炎帝竜の大剣を消した。

 流石に休憩中まで発動させたままでは、休憩にならない。

 足を三人の元へと進めるテラさんの隣を歩く。

 俺が、炎帝竜の大剣を消したからだろうか?

 視界の先で、魔術師の少女が安堵(あんど)の表情を浮かべていた……少々、無理に突き合わせてしまったのかもしれない。

 無理の基準を自分に合わせては、駄目だな。


「今、全部で七体でしたよね」

「わしらが五、ケルンらとヤムらが一つずつじゃな」


 俺達以外の笛の音は、二度聞こえた。

 俺にはどちらも、高く響く音としか感じなかったが、テラさん達には、それがどちらの部隊が吹いた笛の音なのか、分かるらしい。

 何やら簡単な伝言にもなっているらしいが……俺には、分からない。

 まぁ、どちらの隊も問題なく事が進んでいるのならば、喜ばしい事だ。


「このままなら、予定の十体を超えて動く事になりますね」

「ケルンらが、それぞれ五体燃やすよりも、わしらが動く方が早いからのぅ」


 ケルンさん達がパラサイトを駆除するのに時間が掛かるのは、仕方のない事だ。

 まず、周辺のパラサイトの種を倒し、パラサイトの寄生する木の周囲に生える木を伐採する。そして魔法で障壁を作り、寄生された木ごと燃やすのだ。

 燃えるのにも時間が掛かる。

 燃えた後も、パラサイトが根などに残っていないか、火の粉一つ残っていないか徹底的に調べ上げ、ようやく一体の処理が終わる。

 聞き、想像するだけでも、時間の掛かる処理方法だ。

 炎帝竜の大剣を使った討伐方法が成功しなかったら、俺達も同じ方法を選ぶしかなかっただろう。

 そうなれば、時間も掛かるし、木も焼かねばならない。

 俺は、隣を歩くテラさんを見た。

 作戦中ゆえに、ご機嫌とまではいかないが、テラさんの機嫌は良い。

 もし木を焼くとしたら……テラさんはやるだろう。森の為に。

 その胸中に、悲しみが(あふ)れようとも。

 良し。可能な限り、俺が処理しよう。

 だけど、テラさんにも、少々無理をさせてしまうかもしれないな。

 テラさんの状態にも気を配りながら、進退を考えないと。

 取り合えず、意思はハッキリと伝えておこう。


「テラさん。出来るだけ俺達で倒しましょう」

「カカッ、良い気迫じゃ。しかし頑張っても、お主の(えき)には、ならんのじゃぞ」

「俺がその方が良いと思った。それだけで十分な利益だよ、テラさん」


 俺は、そうテラさんへ言いながら、パラサイト駆除作戦に出る前に聞いた言葉を思い出していた。

 弓の貸し出しへの感謝を伝えた時に返ってきた、ユーディアナ様の言葉を。


『恩には恩を、敵意には敵意を。当たり前の事をしたまでですよ、マルク様』


 そう。俺も、俺の『当たり前』をするだけだ。


「相変わらずじゃな。本に、お主は、変わっておるのぅ」

「好きに生きてるだけですって」

「良い良い。さて……お主ら! (しば)し歩みを止め、休憩するぞい」

「ふぅ、ようやくか」

「はい」

「良かったぁ……」


 息を吐きながら弛緩(しかん)する姿と、背筋を伸ばし返事をする姿は対照的であった。

 二人の間に立つ魔術師の少女の膝が、落ちる様に地につく。

 地面に腰を下ろした少女。その勝気そうな顔が、戦いの疲れと休息の喜びで、(とろ)けていた……本当に、体力の限界だったんだな。

 これは、この先、大丈夫だろうか……無理はさせないように気を付けよう。


「お主ら。休憩とはいえ、ここはまだ危険な場所じゃ。気を抜き過ぎるでないぞ」

「「はい」」「はぁい」


 テラさんの忠告に、青年二人は力のある声を出した。

 魔術師の少女は……ゆっくり休んでおくれ。


「見張りは俺がしますので、テラさんも休憩を」

「うむ。後で交代じゃ」

「では、いってきます」


 見送りの声を聞きながら皆から離れ、俺は、周囲の偵察と警戒へと向かった。

 俺達だけ予定よりも進んでいるという事は、位置的に突出(とっしゅつ)してしまっている。

 進みながら丁寧にパラサイトの種を倒して来たので、問題は無いだろうが、警戒するに越した事はない。

 歩きながら耳を(そばだ)て、目を凝らし、そして自分を(おとり)にする。

 誰かを守るよりも、自分を守る方が、楽だ。

 襲い掛かるなら、まず俺に来い。

 そう思いながら、静かな森を歩く。

 テラさん達の元へ、すぐに駆け付けられる距離を保ちながら。

 パラサイトの影響なのか、小動物すら、辺りには居ない。

 鳥の声すら聞こえない。

 ぶらり、ぶらりと、森の中を進む。

 モンスターにもパラサイトの種にも出会う事なく、俺の警戒は無駄に終わった。

 それは、喜ばしい事だ。

 モンスターなど出ずに、ゆっくり休めるなら、その方が良い。

 皆の元へ戻った俺は、木に背を預け、座るテラさんと手を重ねる。

 弾き合う手と手が、乾いた音を立てた。

 それを交代の合図とし、テラさんが立ち上がる。

 別に事前に決めた合図ではないが、自然と伝わるものだ。


「では、行ってくるのじゃ」

「気をつけて」

「お主は特に、ゆっーくりと休むのじゃぞ」

「あはは。はい」


 俺はテラさんに(なら)い、腰を下ろし、木の(みき)に背を預けた。

 少しの間、休憩するとしよう。

 力を抜いて、森の魔力を感じていると、少しだけ、森に包まれた気分になる。

 温かいのに、どこかひんやり冷たい。

 そしてその中に混じる、小さな、小さな違和感。

 (よど)んだ魔力の感覚。

 ケルンさんは、邪竜の目覚めに呼応したパラサイト達に()るものと言っていた。

 ならば、パラサイトを倒し切れば、この違和感もなくなるだろう。

 おっと。また戦いの事を考えていた。

 休憩、休憩。

 ゆっくりと、大きく息を吸い……細く、長く、息を吐きだす…………。

 心を落ち着かせれば、自然と体も休まる。

 昔ならば、独りで片づける為、突撃していたかもしれないな……。

 成長でも退化でも、どっちでもいい。

 今の俺は、この一時(ひととき)の休息とて、大切な時間だと知っているのだから。

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