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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

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579.パラサイト

誤字修正 文章修正 誤字報告感謝

 緑色に()える森を駆ける。

 両手で握るのは、身の丈程に伸びた炎の剣である、炎帝竜の大剣。

 熱く(たぎ)る炎は、森も空気も焼く事なく、俺の狙う獲物を焼き尽くさんと、燃え上がっていた。

 獲物は、二種。

 今も視界の中で、獣の様に跳躍しながら急速に距離を縮めてくる、腰の高さ程の木製人形、パラサイトの種。

 そして、その奥に見える木に寄生したパラサイトだ。

 パラサイトに寄生された木の区別は、テラさん達の話を聞いたお陰で、一目で分かった。目標の木の太い(みき)、その地面近くに、小さな(こぶ)があった。

 木の一部に擬態している為に、情報無しでは、ただの木にしか見えない。

 小さな(こぶ)から木のあちこちへ細い(くだ)を伸ばし、木の生命を吸い取り、操っているとのことだ。接近の際の注意事項も頭に入れてある。

 そのまま真っ直ぐにパラサイト目掛け、突き進む。

 しかし、本命はパラサイトの駆除であっても、まず行うべきは、種の排除だ。

 正面に見える数は、五体。

 奴らは、パラサイトに突撃する俺だけに狙いを定めている。

 ケルンさんが(ひょう)する通り『自らを守る兵士』であるらしい。

 俺は正面からくる五体を迎撃するために、一度足を止めた。

 そして、地面を滑るように止まりながら、右肩の横で炎帝竜の大剣を構える。

 剣は水平。()(さき)は後方へ。

 飛び跳ね続けるパラサイトの種の動きを見極める。

 前に三。その後ろに二。

 一つ跳ね、二つ跳ね――来る。

 左右正面、前三方から跳び込んできた三体。

 鋭く(とが)る腕を引き付け――構えた体を開放し、剣を振る。

 右から左へ走る剣の軌跡が、赤く、目に残る。

 高さを合わせた横薙ぎは、狙い通りに三体全ての体を上下に分けた。

 斬撃によりパラサイトの種に残った炎が、木製に見える体を上下に喰らい、瞬時にその全てを塵へと変えた。

 左へ流した炎の剣をそのままに、(わず)かに上体を前に倒しながら、俺は再び大地を蹴った。地を後ろへ蹴る足が、体を前へと急加速させる。

 更に迫る二体は、意識下に(とど)めながら、構わず前へ走る。

 両腕を持ち上げながら、右前から飛び掛かってくるパラサイトの種。

 だが、迎撃せずに、前へ進む。

 後方から風切り音が届くと共に、奴の造形の無い顔と胴に、矢が突き刺さった。

 森の民の戦士二人の援護射撃だ。

 突き刺さった二本の矢により、宙を跳ぶパラサイトの種は、乾いた音を残し、地面へと落ちる。

 そして、もう一体も、同様に俺へ向かう跳躍を、矢により阻害されていた。

 素早い射撃。

 この弓の腕前は、安心して背を任せられる。

 俺は、通り過ぎたパラサイトの種を狙わず、前へ進む。

 後方から、少女の高く響く声が耳に届いた。


「≪(かずら)束縛(そくばく)≫」


 同行している魔術師の少女の声だ。

 地面に転がるパラサイトの種が緑の(つる)にて拘束される様が、安易に想像出来た。

 そちらは任せ、俺は独り、目標の木へ近づく。

 駆ける足が、大地の震動を感じた。

 地震ではない。

 俺は横へ一足跳びながら、前へと進む速度は落とさない。

 震動と共に地面が盛り上がり、木の根が地中より跳ね上がった。

 太い(みき)に比べれば細い根だが、その殴打は侮れない。

 パラサイトの影響で長くなった根が、(むち)のようにしなり、俺を狙う。

 だが振りは単調であった。

 振り下ろしを横へ(かわ)し、そのまま前へ駆け二撃目を(かわ)す。

 足を狙った地を()う払いを飛び越え、前へと突き進む。

 動きは単調。

 無数の根が地面から出てきたが、一度に操れる数も三本まで。

 だが近づけば、上方の枝にも注意を向けねばならない。

 それでも俺は、ただ進めばいいだけだ。

 テラさんが、小声で精霊樹(せいれいじゅ)牢獄(ろうごく)を唱えたのが、地面を通る魔力で分かる。

 駆け抜けるテラさんの魔力が、俺を追い抜く。

 魔力が魔法へと変わり、視界の先で、地面から無数の木々が生まれる。

 その魔法の木々は、露出した根を抑え、パラサイトの巣食(すく)う木に(から)みついた。

 魔法の木が寄生された木を押さえつけ、(きし)む音が辺りに響く。

 安全になった進路を駆け抜け、俺は目標の木の根本へ辿り着いた。

 炎帝竜の大剣を左手で持ち、右手で太い(みき)に触れる。

 そして俺は、木全体へ魔力を流した。

 この森での魔力感知が上手く出来なくても、この距離ならば、そして自分自身の魔力の流れならば、読み解くのは容易だ。

 木の(みき)から枝葉、根、その隅々まで行き渡らせた魔力を、パラサイトは貪欲(どんよく)に吸収しようとしていた。

 だがその行為が、細く伸びたパラサイトの姿形(すがたかたち)を、俺へ明確な形として伝えてくれる。パラサイトは、木の中を網目状に細く伸びており、当然、根や枝にも入り込んでいた。

 これならば、木を守りながらパラサイトだけを焼けるのが、ユーディアナ様だけというのも納得だ。

 俺は炎帝竜の大剣を、根の近くにある(こぶ)へ近づける。

 魔力の操作を、より精密に。

 燃やすのは、パラサイトだけだ。

 一つ呼吸をすれば、覚悟も決まる。

 俺は静かに、炎帝竜の大剣を小さな(こぶ)へ突き刺した。

 そこから浸食の炎が生まれ、パラサイトを喰らい始める。

 赤い炎が、木の幹の中を駆け、全身を巡る。

 炎は、パラサイトの一片(いっぺん)すら(のが)しはしない。

 木の中を瞬時に駆けた炎は、役目を終え、そのまま木の中で姿を消した。

 木は……燃えていない。

 パラサイトは……蓄えた魔力ごと、焼き尽くした。

 ふぅ、成功だ。

 テラさんもパラサイトの駆除に気付いたのか、精霊樹の牢獄を解除した。

 魔法の木が砕けながら地へ落ち、大地へ溶け込む様に消えていく。

 木から離れながら振り返ると、パラサイトの種に斧を振り下ろす青年二人の姿と、それを見守るテラさん、魔術師の少女の姿が視界に入った。

 既に幾度も振り下ろされていたらしく、木製人形の体はバラバラに砕け散っている。存在を保てなくなったパラサイトの種は、塵となり、そのまま消滅した。

 これで一本目が終わりだ。

 俺は、終了の区切りの為に、声を掛けながら、四人と合流した。


「まず一本目。テラさん、念の為に調べて貰っても?」

「うむ。露出した根も戻さんといかんしのぅ。お主ら、(しば)し休んでおれ」

「「「はい」」」


 テラ隊長の休息指示に、青年達の声が重なる。

 元気よく返事をする彼らの内、二人は知っている人物だ。

 名は知らぬが、初めてこの森に訪れた時、バイコーンと共に戦った二人である。

 見た目は俺と同い年くらいに見える短髪の彼らは、弓と矢筒を背負い、右腰に斧を携えている。身軽に動く為か、鎧などは特に着てはいない。

 もう一人の少女は、先ほど(かずら)の束縛を放った魔術師だ。

 彼女は、長い木の杖を持ち、亜麻(あま)色の長いローブを身に(まと)っている。

 見た目が、魔術師魔術師している少女だ……。

 波打つ銀の髪はユーディアナ様のそれを思わせるが、彼女の髪型はユーディアナ様と違い、肩に届かぬ程度に短く(そろ)えてあった。

 その勝気そうに見える顔にも、若干、緊張の色が見える。

 彼女は、戦闘経験が少ないらしいので、多少の緊張は当然の事だ。

 息を吐く彼らを眺めていても仕方がないので、テラさんと共に木へ向かう。

 テラさんの作業中は、俺が警戒をすべきだ。

 露出した根を可能な限り避けながら、再び(みき)(そば)へと行く。

 テラさんは(みき)に手を当て、俺は周囲の警戒を……何もいないな。

 テラさんの温かな魔力が、木を包み込むのを感じる。

 この生命が(あふ)れる様な感覚は、きっと木々の喜びなのだろう。


「うむ。駆除は完璧じゃ。マルクや、良い仕事じゃ」

「どういたしまして」


 一瞬口元に笑みを作ったテラさんは、目を閉じ、表情に真剣味を浮かべた。

 そして、テラさんの魔力が、木だけでなく地面にも広がっていく。


「≪()≫よ、≪(つち)≫よ、あるべき姿へと」


 集中するテラさんの声に従い、露出した無数の木の根が地面の中へ戻っていく。

 周囲に盛り上がった土もまた、痕跡を隠す様に平面に戻っていった。

 流石に生える草までは、元には戻らない。


「今は、こんなもんじゃな。後は時間に任せようぞ」

「テラさん、魔力は大丈夫ですか?」


 柔らかな眼差しで木を見上げていたテラさんが、俺に視線を動かし、笑った。


「フフン、この程度ならば朝飯前じゃ。お主こそ、炎を出しっぱなしで(つら)かろう」

「出したり引っ込めたりするよりは、楽ですよ」


 炎帝竜の大剣が俺の魔力を消費し続けているのは事実だが、この先を進めば、またパラサイトとの戦闘圏内に入るだろう。

 ならば使用したままの方が良い。


「ふぅむ。少し急ぐかのぅ。お主ら! 休憩終了じゃ。次へ行くぞ」

「もうですか?」「「はい」」


 テラ隊長の言葉に、気さくな方の青年が不満そうな顔で答えた。

 それとは対照的に、もう一人の青年と魔術師の少女は、背を伸ばし、覇気のある声で返事をする。

 短い休息に不満気な青年も、自分の行うべき事を忘れてはいない。

 彼は、親指程に短い木の筒を口に当て、それを吹き鳴らした。

 その小さな笛から、高く、響く音が、森に広がる。

 これは、一つ処理を終え、次へ向かう合図だ。

 ケルンさん達と、もう一組、俺達も含めて三組同時にパラサイトの処理に動いている。(ゆえ)に、連絡は重要だ。


「では、出発じゃ」

「「「「はい」」」」


 テラ隊長の号令に答えると共に、皆で一斉に走り出す。

 おっと、そうだ。テラさんに伝えておくべき事があったのだった。


「テラさん。やっぱり近づかないと魔力は感知出来ませんでした」

「まだ森に慣れぬのじゃな……うむ。索敵は、わしに任せい」

「お願いします」


 次に向かうパラサイトの位置は、事前情報にて把握済みだ。

 だが、周囲に異変が無いか、調べながら進まねばならない。

 パラサイトの種一体でも残せば、また森での増殖を許す事になってしまう。

 そうなれば、このパラサイト駆除作戦が無駄に終わるだろう。

 何よりも、彼らの守りたい森が傷つく。

 俺自身は、あまりアルケーの森に関心はないが……いや、やっぱり嫌だな。

 魔力による索敵が出来ぬとはいえ、目も、耳も、感覚も生きている。

 周囲に注意を向けながら進もう。

 (しばら)く進むと、テラさんから声が掛かった。


「よし次じゃ。さぁ、お主は好きに()()めい」

「はい」


 俺は更に速度を上げ、木々の合間から顔を出したパラサイトの種へ肉薄した。

 (かわ)す隙など与えない。

 交差する瞬間、炎の剣で、素早く、軽く首を切り裂き、次の標的を見定める。

 居た。

 己の炎が、置き去りにしたパラサイトの種を焼き尽くしたのを感じ取りながら、俺は既に、次のパラサイトの種へと接近していた。

 前傾姿勢のまま低く跳ぶ木製人形の姿は、奇怪で素早い。

 だが、単調な直線の跳躍など、こちらの的だ。

 奴の鋭い手よりも、当然、俺が握る炎帝竜の大剣の方が、長い。

 ただ、奴の進む先に剣を置いておくだけで……奴は炎へと変わる。

 俺に飛び込んできた木製人形は、空中で炎に飲まれ、塵へと変わった。

 その炎すら、俺へ届く事は無い。


「上じゃ」


 テラさんの声に従い、炎の剣を頭上へと振り上げる。

 そのまま、飛び込んでくる敵を見定め、大上段から剣を振り下ろす。

 炎の剣の軌跡が、木製人形の頭から股まで一直線に、赤い線を引いた。

 さぁ、次だ。

 燃える敵を見つめる趣味は無い。

 駆ける俺の目が、パラサイトに寄生された木と、小さな(こぶ)を捉えた。

 やる事は、一つ目と同じだ。

 周囲に目を配りながら、俺は、真っ直ぐにパラサイトへ向け、突撃する。

 何度でも同じ事を繰り返す。

 全ての敵を討伐し終えるまで。

 モンスター狩りは、いつだってそうである。

 繰り返し、繰り返し。何度でも、何度でも……。

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