56.第十階層での戦い
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キオが通路から大部屋に飛び込んでいった。
「トカゲ、四。角、二。メイジ、三っす」
キオは、大部屋の中でスクロールを手にし、敵に向かって走る。
通路にいる俺からは、キオの姿は見えなくなる。
キオを追うように、ワコとムウが大部屋へ入った。
二人は既に準備済みのスクロールを開き、敵に向かって放つ。
炎の矢と、石のつぶてが跳んでいく。
「≪魔力の矢≫」
ムウの呪文に応え、四つの半透明の矢が空中に出現し、部屋の奥へと飛翔する。
「状況が見えん。俺たちも行こう」
「ああ」
俺とアムも、大部屋に入ることにした。
手は……必要になるまで貸さない。
部屋入ると、大部屋中央に炎の剣を手にしたキオが立っており、その周りには魔石が四つ落ちていた。キオの後方にワコ、そしてムウ。
モンスターの生き残りは、二本角が二体、ゴブリンメイジ三体であるから、あれは全てリザードマンの成れの果てだろう。
「俺が相手っすよ」
キオが、左手の盾と剣の柄を器用に合わせ、打ち鳴らす。大声も相まって、モンスター全ての敵意をキオ自身に向けることに、成功したようだ。
二本角二体が、そのしなやかな四肢を動かし、キオに襲い掛かる。
キオは、一つの爪を盾で防ぎ、一つの牙を身躱し、炎の剣を払う。
追撃を考えず、防御を重視して戦っているようだ。
中央で立ち回るキオに向かって、ゴブリンメイジ達が奇怪な声を上げながら魔力の矢を放つ。合計で六本。
だがムウも動いていた。スクロールを開き、使う。
掻き消える羊皮紙の代わりに、キオの前に、紫色をした魔力の壁が出現し、魔力の矢を尽く弾いた。
「キオ君にも渡していたけど、接近されると難しいね」
「まぁ無理だな」
話をしている間も、状況は動いている。
足音を完全に消しているワコが、ゴブリンメイジの背後に回り、その首を切り裂いていた。青い液体がゴブリンメイジの前方に大量に噴き出した。
キオもまた、防御に徹しているかと思いきや、二本角の喉元に炎の剣を突き刺し、その命を奪っていた。
ザギーを守りながら戦った経験が生きているのだろうか?
森でリリーと共に戦った時は二対一でも無茶をしていたのに、もう一対二をこなせるようになっている。
すくすく育って、実に良い成長速度だ。
だが、もう一体の二本角が、遠吠えを上げるように魔力を貯めている。
狙っているのはキオだ。
ムウは、ゴブリンメイジに向かって――「≪魔力の矢≫」――矢を放っている。
ワコは、次のゴブリンメイジに速度を上げ、接近している。
対処する者がいない。
だが、俺もアムも動かない。
キオが気付くが――二本角が、角に集めた魔力を口から吐き出すかのように、キオに向かって放った。
黒い魔力の塊が、キオを襲う。
反応の間に合ったキオが盾を前に出すも、無情にも、攻撃により脆くなっていた盾は木端微塵に吹き飛び、そのまま黒い魔力がキオを吹き飛ばす。
「キオ!」「≪魔力の矢≫」
ゴブリンメイジに止めを刺していた二人が気付いた時には、キオは地面に倒れていた。ムウが、急ぎ二本角に対して魔力の矢を放つ。
だが、二本角は大きく跳び、容易く回避した。
二本角が唸り声をあげ、ムウを見る。そして飛び掛かろうと――
「こっちっすよ」
大声に、二本角の注意が逸れた。
声の主であるキオは、炎の剣を握りしめながら、ゆっくりと立ち上がっている。
俺からでは、キオの顔は見えないが、闘志が消えていないのは見ずともわかる。
「≪魔力の矢≫」「はっ!」
ムウの放つ魔力の矢と、ワコの投げたナイフが二本角に向かう。
一つ、二つと跳躍し、矢もナイフも回避する二本角であったが、二本角の目の前には、突撃しているキオの姿が。
雄叫びを上げながら、キオが炎の剣を振り抜く。
赤くたぎる剣は、二本角の体を燃やしながら、その体を二つに裂いた。
二本角は燃え、塵と消え、魔石となった。
同時にキオが膝を落とし、ワコが心配そうに駆け寄る。
「キオ。大丈夫」
「はぁ、はぁ。ワコは警戒を続けるっすよ」
「アムがやってるから大丈夫だ」
俺もキオに近付きながら、言う。
「へへ。先輩、ちょっと失敗したっす」
「前より良くなってるだろ。強くなってるよお前は。あと怪我見せろ」
だらりと座ったキオの姿を調べる。
全体に損傷は? 目は? 頭は? 首は? 手は? 足は?
とりあえず大きなダメージは無さそうだ。
魔力の塊をぶつけられて、体全体が少し弱っているだけだろう。
「≪癒しの水≫。これは応急処置だから、治療は戻ってゼノに頼め」
「先輩。大丈夫っすよ」
「今は大人しくしてろ」
温かい癒しの水で、キオの首から下を覆うように包む。
魔力を少し多めに込めてやれば、大丈夫だろう。
「うぉ! なんすかこれ? 温かいっす。風呂っすか!」
「元気なのはいいが、ダンジョンでは少し静かにな」
「マルク水」
だからムウよ、何なんだその『マルク水』って。
服、引っ張っても今日はやらんぞ。
安心したのか、ワコは魔石を拾って回っている。
アムを見ると、何が面白いのか知らないが、笑いをこらえているように見えた。
アムの提案で、地上へ戻ることになった。
第十一階層の転移陣に戻るまでも、リザードマンと遭遇したが、キオの動きは精彩を欠いていた。
依頼主であるアムの判断は、実験の依頼としては満点ではないが、人として正しいのだろう。冒険者が傷つこうと構いもしない輩ばかりを見てきたので、ある意味新鮮である。
「んー。やっぱり風景が急に変わるのは、変な感じ」
「ワコもそうっすか」
「慣れるよ。ダンジョン通いしてるとさ」
転移陣の光が収まり、第一階層に戻って来た。
「マルク。今日も付き合ってくれてありがとう」
「まぁ俺は、居ても居なくても良かった感はあるけどな」
「君が居なくても良い時なんてないさ。僕やシャーリーにとってはね」
いつも通りの美男子顔で、そういう嬉しい事を言う。
そういう冗談を素で言えるから、こいつは格好良いんだろうな。
「まぁ、散歩に必要も何も無いか」
「君、普通にわかっていないよね。全く……いいか。楽しい散歩だったから許してあげよう」
「散歩なら、いつでも付き合うさ」
アムが何処まで下に潜るかは、状況次第だが、一緒にいれば出来ることもある。
「君の暇な時だけでいいさ。ただ、君が暇なときは僕に付き合って貰うよ」
「安心しろ。俺の予定は真っ白だからな」
「アハハ。それが冗談でないなら嬉しいんだけどね」
冗談じゃなくて、予定なんて何もないのだがな。
笑うアムを見ていると、否定の言葉は野暮な気がして、俺は言葉を飲み込んだ。
まぁ、楽しそうなアムは良い。特に今のような笑顔のアムは。




