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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十二章

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552.四日目の朝

 邪竜の目覚めを感じてから迎える三度目の朝。

 当日も含めると、もう四日目なのか。

 シャーリーとテラさん。

 淹れた茶を二人と飲んでいると、そんな事を忘れそうになってしまう。

 クリっとした目が、先程から俺をじぃーと見つめている。


「シャーリー。どうかしたか?」

「うん。お兄ちゃんって、いつ町を出発するの?」


 一瞬、さっさと出て行けと催促されているのかと思ってしまった。

 シャーリーの事だ。普通に質問しているだけなのだろう。

 そして思い出した。

 シャーリーに、邪竜討伐へ行く事を、まだ話していない事を。


「その前に、シャーリー。話がある」

「なーに?」


 改めて言葉にするのは、緊張する。

 他の人達には、軽く言えるのに困ったものだ。

 ゆっくり呼吸をし、落ち着こう……良し。


「シャーリー。俺、邪竜討伐に行ってくるよ」

「うん。知ってるよ、お兄ちゃん。頑張ってね」

「ああ」


 あら? あっさりな反応である。

 まぁ、慌てられるよりは、いいか。

 柔らかに笑うシャーリーからは、不安や不満を感じない。

 おっと。自分の言いたい事を伝えたのだ。

 今度は、シャーリーの質問に答えないとな。


「それと、出発は明日の朝になるよ」

「急だね」

「事が事じゃ。シャーリーや。許してやれい」


 カップを置いたテラさんが、とりなしてくれた。

 別段シャーリーが怒っている訳では無いが、助かる。

 テラさんには、昨夜、出発の日時と今後の予定を伝えてある。

 アムやパック先生にも伝えてあるが、困ったような顔をしていたな。

 急な話だから、困惑顔にもなるか……。


「明日の朝ごはんは、どうしよう? 食べてから行く?」

「シャーリーの朝食を食べないと、元気が出ない」

「わしもじゃ」

「えへへ。じゃあ、いつも通り来るね。帰りは?」

「そればかりは、邪竜と王様次第かな? 少し遅くなるかもしれない」


 邪竜が、いつ動くか分からない。

 それまでは、討伐隊と一緒に待機となるだろう。

 それと、邪竜を討伐した後の面倒もある……あまり考えたくないな。

 レオニード王に会えるのは嬉しい事だが、公式な場で会うのは正直面倒である。

 それに会うのが王だけで終わるとは限らない……。

 気が付けば、テラさんが笑っていた。


「カッカッカ。討伐後の面倒を考えておるのじゃな」

「なぜ俺の考えを……」

「フフッ、お兄ちゃん。眉間が凄い事になってるよ」


 そんなに? (ほぐ)しておかないと。

 目を閉じ指で眉間を(ほぐ)す俺の耳に、シャーリーの声が届く。


「大変そうだね。王様ってそんなに怖いの?」

「いや、良い人だよ。まだ数回しか話したこと無いけど」

「マルクや。普通に生きておる者は、王と話す事もかなわぬのじゃぞ」

「うん。お目にかかれる機会も無いし、それに、私だと緊張して何にも話せなくなっちゃうよ」

「俺だって緊張するって」


 と言ったものの、そんなに緊張した覚えはない。

 不敬で首が飛ぶ心配はしていたが……これは、シャーリーには言えないな。


「へぇー。お兄ちゃんもそうなんだ」

「当然だろ?」


 ん? テラさんの目が細まり、俺の顔へジトリとした視線が飛んできた。

 変な事は、言っていないが……何だろう?


「これは、嘘を吐いておるのぅ」

「だよねー」

「うむ」


 顔を見合わせながら笑う二人から、俺は、そっと視線を逸らした。

 なぜ二人に気付かれた? 

 答えは分かっている。顔、いや、表情だろうな……。


「王に太陽伯に大司教。お主も中々の大物じゃのぅ」

「知り合いってだけで、仲良くしている訳じゃないですから……残念ながら、俺は小物のままですよ、テラさん」

「大物のお兄ちゃん……似合わないね」

「そうじゃな。貴族の世界を渡り歩くマルクなぞ、想像も出来ぬのぅ」

「貴族の相手なんて、俺も御免ですよ」


 貴族は、アムだけで十分だ。

 まぁ、アムは貴族というよりも、魔術師だけれど。


「貴族を好かんのは知っておるが、それにしては、お主、エルに優しいのぅ」

「いえ。権力を笠に着ている時のエル様は、今でも苦手で、好きじゃないですよ」

「エルちゃん、あんなに良い子なのに?」

「エルはまだ子供じゃからな。無理もあるまい。この前も孤児院でじゃな……」


 テラさんは、孤児院に慰問に来たエルの話をする。

 何やら聖騎士の皆々を引っ張ってきて、子供達に劇を見せたそうな……劇を演じた聖騎士達の苦労が(しの)ばれる。

 まぁ、恐らく本人達は『エル様の頼みでしたら』と二つ返事で了承したのだろうから、俺が心を痛める必要などないのだろうけど。

 あぁ、そうだ。

 討伐隊と合流する前に、エルの所にも顔を出しておかないと。

 結局、俺のやる事は、挨拶回りなんだな。

 いや、俺が会いたい人達なのだから、当然か。




 朝食後のこの時間に訪ねるのは、迷惑ではないだろうか?

 そんな疑念を抱きながら、俺はテラさんと共に、エルの屋敷へ訪れた。

 シャーリーもエルに会いたがっていたが、残念ながら店番である。

 今、道具屋は、かなり忙しいそうな。

 昨日一日、時間を作ってくれた事に、感謝しないと。

 エルの屋敷の敷地内から、監視の目が光っているのが分かる。

 気にせず中へ入り、扉を叩き訪問を告げる。

 来訪者が俺であることは、既に中に伝わっている(はず)だ。

 (しばら)く待つと、扉が開き、使用人の女性ルールーさんが出迎えてくれた。


「朝早くにすみません。エル様に会いに来ました」

「遊びに来たのじゃ」


 俺達の言葉に深く頭を下げた彼女は、大きく首を横に振った。

 なるほど。エルは今、不在であると言う事か。


「そうですか。エル様は今、どちらへ」


 ルールーさんは、再び首を横に振る……お答えできません、か。

 彼女も、使用人として、エルの予定をべらべらと喋る訳にもいかないのだろう。


「会えないのは残念ですが、また今度、お邪魔させて頂きます。それではルールーさん、失礼します」

「ルールーや。では、またのぅ」


 折り目正しく腰を折るルールーさんに手を振り、俺達はエルの屋敷を後にした。

 俺とテラさんは、次の目的地であるダンジョン入口へ向かう。


「しかし、本に、残念じゃのぅ」

「忙しいんですかね?」

「あの歳で、あれこれやっておるらしいからのぅ。子供はもっと遊ぶべきと思うのじゃが、本人が好きでやっておるのなら、わしには何も言えぬ」

「皆、それぞれやる事があるんでしょうね……」


 今から会いに行くゴンさんも、番兵として仕事中であると考え、俺達はダンジョン入口へと向かっているのだ。

 ゴンさんにはゴンさんのやる事が、エルにはエルのやる事がある。

 それは邪竜どうこう言っている時でも、同じなのだろう。

 そんな事を考えていたら、ダンジョン入口へと続く建物の前に辿り着いた。

 扉を開き、中へと入る。

 その時、ダンジョンへ続く階段の前にいた一人の少女と目が合った。

 儀式服を着た、エルの淡褐色の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめ……柔らかに弧を描いた。

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