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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十二章

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544.朝一番は情報屋の元へ

 朝、剣を振り、シャーリーと共に朝食を作る。

 とは言え、ソーセージを焼くだけだ。

 起きて来たテラさんと共に、いつもの様に朝食を取る。

 至福の朝を過ごしたら、まずは別行動だ。

 俺には行きたい場所があった……今回もテラさんと共に行く訳にはいかない。

 朝一番で向かう先は、酒場『サイド・テイルズ』である。

 この時間は、少年が店番をしている。

 そして、客は、ほとんどいない。

 酒も食事も出ない店に留まるのは、物好きか、俺の探す情報屋ぐらいだ。

 店内に入ると、落ち着いた雰囲気よりは、(さび)れた印象を受ける。

 カウンター席に座り、目の前でグラスを拭く黒髪の少年に、俺は注文した。


「マスター。牛乳一つ」


 少年は無言でグラスに牛乳を注ぎ入れ、スッと差し出した。

 礼を言い、牛乳を一口。

 よく冷やされた牛乳は、甘味を感じ(にく)いものの、その分、喉の通りが良い。

 が、一気に飲んだら、待ち人が来る前に飲み干してしまう。

 ちびちびと、牛乳で口を潤しながら、情報屋を待つ。


「マスター、俺にも同じのを頼む」


 渋い声と共に、横の席に座る男が一人。

 店内でも中折れ帽を被る、年の頃三十程のこの男こそ、待ち人である情報屋だ。

 名は知らない。知ってはいけないし、知る必要もない。

 情報屋は、少年の差し出した牛乳を口に含み、喉を鳴らした。


「一気飲みはしないんだね」

「腹壊すからな……年を取ると、無理が利かなくなるんだ」


 あぁ、前に腹、壊したのか……今日は、牛乳による白髭もつけていない。

 それに牛乳一つで哀愁を漂わせる姿が、少々滑稽である。


「まぁ、健康第一だよ」

「俺の事は、どうでもいいだろ。 こんな状況で、俺に用なんかあるのか?」

「情報収集は、基本だよ。邪竜と周囲のモンスターの現状で、何かあれば」

「なる程な。だが、お前は動くなよ……無職のやる事じゃない」


 話が長くなるか、すぐ打ち切られるか分からない。

 だから俺は、牛乳を飲み干し、次の注文をすることにした。

 それは情報屋も同じらしい……お腹を壊さなければ良いが。


「「マスター。もう一杯」」


 少年が牛乳を用意する間に、話を進めておく。


「邪竜の動きによっては、動くよ」

「相変わらず、仕方の無い奴だな、お前……邪竜の前に、モンスターの話だ」

「うん。お願い」


 話を続けてくれる様だ。

 情報屋は、中折れ帽を片手で押さえながら、口を開いた。


「十年前と同じで、邪竜の魔力に呼応して活発化している。この町の周辺は問題無いが、今日も南へ、冒険者達が駆けていったぜ」

「皆で?」

「いや。少し多い程度だ。マルク、お前が気にする程じゃない」

「そっか」


 少年から提供された牛乳を一口。

 情報屋も、同じ動きをしていた。

 モンスターの活発化か……単純に数が増えているなら、面倒だな。

 だが、鉄骨龍で対処できる間なら、俺が動く必要は無い。

 鉄骨龍自体はともかく、冒険者の皆は、信頼できる。

 たとえ普段飲んだくれている冒険者であっても、動くときは、動いてくれると。

 なら、そっちは任せるべきだ。


「邪竜の方は、情報ってある?」

「正直無いな。だが、王国軍が王都南のサナ村で防衛の準備を進めている。国は、また王都に向かって邪竜が来ると予想しているらしい」

「十年前に焼かれた村々は?」

「安心していい、避難は騎士団主導の下、既に終わっている。邪竜がいつ飛んで来るか分からない時に火事場泥棒する(やから)も居ないさ」


 王都周辺の情報の(はず)なのに、相変わらず耳の良い情報屋だ。

 ミュール様に聞く方が、正確かもしれないが、情報屋からも聞いておきたい。


「討伐隊は結成されてる?」

「金獅子と騎士団を中心に、白蛇の魔術師と教会の回復術士を含めた感じだな。鉄骨龍は、今回動くつもりは無いらしい。代わりにフクロウの魔術師が少し討伐隊へ参加しているな」

「鉄骨龍は、まぁ、分かるよ」


 十年前に、優秀な冒険者達が一斉に死んでしまったのだ。積極的に動くつもりがないのも、理解できる。

 戦力としては、辛い所であるが、致し方あるまい。


「あぁ。セツナさん達も、その一人だからな……」


 情報屋が、中折れ帽を前に倒し、少しだけ顔を伏せた。

 それが、演技でない事は、知っている……だからこの情報屋は、信用出来る。


「ありがとう。でも、大丈夫だよ」

「なぁ、マルク。行くのか?」

「邪竜の動き次第だけど……国の予想通りなら、行くよ」

「お前が戦う必要は無いんだぜ?」

「うん、無いね。行きたいから、行くだけだよ」


 皆、そう言ってくれる。

 だからこそ、こんな人たちだからこそ、守りたくなるんだろうな。

 自分の口が、弧を描いてるのを感じた。

 隠すために、牛乳を飲む。

 その冷たさが、少しだけ気を引き締めてくれる。


「お前は、変わらないな」

「変わったと思うよ。昔より、カッコよくなったでしょ」

「そこも変わってないぞ」

「グッ」


 やっぱり変わって無いか……残念だ。

 情報屋が、クツクツと皮肉めいて笑っている。


「そんな、冗談言えるようになったんだな……確かに昔のお前は、冒険者を辞めた頃のマルクは、もっと危なっかしい感じだったな」

「そんなに?」

「ああ。見てて心配になるぐらいにな。でも、今のお前なら大丈夫だ」


 俺と情報屋は、同時に牛乳を呷り、グラスを空にした。

 話は、終わりだ。


「今日もありがとう。また情報仕入れておいてよ。マスター、ごちそうさま」


 俺は金貨二枚と、銀貨三十枚を置き、席を立った。

 情報量と、牛乳四杯の代金。そして少しの少年へのチップを。


「ああ。お前に必要な情報かは知らないけどな……無理する前に帰って来いよ」


 俺は返事をせずに、ただ小さく手を振った。

 それだけで、伝わる筈だ。

 俺は、小さく頭を下げる少年に背を向け、サイド・テイルズを後にした。

 会いに来ただけな気がするが、それが大切な事だと、今は知っている。

 また来よう。

 そう思える人が、場所がある事の幸せを、今は。

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