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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十一章

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518.幕間~騒動は知らぬ所で・四~

南門から王都アルギエバへと入ったバルザック達は、そのまま正面の王城へと馬を進めた。大通りを進む馬車たちに(まぎ)れ、王都の中央へと。


「話は聞いております」

「助かるぜ」


 王城を守護する番兵の声に、馬上より答えたバルザックは、馬の歩みを止める事無く城の防壁の内側に入り、王城の広間にて馬を止めた。

 そこには二十名の鎧甲冑を着込んだ騎士達が並んでいた。

 その中に一人、一際輝きを放つ精霊銀の鎧を、頭部の兜以外、全身に身に(まと)った男が一人。

 精霊銀の甲冑(かっちゅう)を纏う事を許された彼は、ハイディルム家護衛騎士隊、隊長クラウスである。


「おいおい、ナイト・クラウスじゃねーか。何でこんな所に」

「何でって、王の城なんだから可笑(おか)しくないでしょ」


 立ち並ぶ騎士達の前で、バルザック達六人は、馬から降りる。

 そしてバルザックは、馬をドムに預け、オルケインと共に騎士隊の前へ出た。

 それに合わせ、クラウスも独り、前へ。


「オルケイン殿。そしてバルザックパーティーの皆さま。良くぞ御無事で。物資の受け渡しは中にて。皆さまには休息の為の部屋をご用意してあります」

「おぅ、助かるぜ。クラウスさん」

「ふぅ。これでようやく肩の荷が下ります」


 軽薄さすら感じる軽さを持ったバルザック。

 胸に手を当て、息を吐くオルケイン。

 渋味の効いた顔で静かに見守る、クラウス。

 三者共に知っている。受け渡す物資など存在していない事を。

 そして、囮となる架空の物資を王の下に預ける意味を。

 追手のモルスの使徒が他にもいたら、この王城が戦場と化すという事を。


「さぁ、皆さま中へ。馬を北へ回せ。他の者は共に」


「ハッ!」と覇気のある声を出した十九名の騎士達が、一斉に動き出した。

 六名は、手綱(たづな)を受け取り、馬を動かす。

 残りの十三名とクラウスは、バルザック達を護衛する様に城の中へと進んだ。


「これは、酒は当分無理そうね」

「ハハッ。後の楽しみに取っとこうぜ」

「まずは休息だ」


 (なげ)くサラス、笑うバルザック、諌めるドム。

 騎士達に囲まれ、その様子を眺め、口元に笑みを浮かべるテガーとシャラガム。

 バルザックパーティーは、王の住まう城へ訪れようとも、変わらぬ姿であった。




 大講堂にて浮かぶ(よど)みの(つるぎ)は、既に透明な結晶にて覆われていた。

 結晶に閉じ込められた淀みの剣の黒は、封じられて(なお)(うごめ)いて見える。

 浮かぶ結晶体の前では、モーリアンが額に汗を流しながら、封印魔法の制御と共に、魔力を注ぎ込み続けていた。

 周囲に浮かび、モーリアンへ魔力を与えていた最後の魔石が、光を失い、ポトリと床へ落ちる。魔力を供給する物は、もう無い。

 それでもモーリアンは、魔力を注ぎ続ける。

 少しずつ結晶の形に変化が起き、楕円を描く丸みを帯びた形へと変わった。

 そして結晶は、空中で横へと向きを変え、そのまま床へ、ゆっくりと落下する。

 結晶が床に静かに横たわると同時に、モーリアンは、深く息を吐いた。


「お見事です。モーリアン様」

「お、お疲れ様です」


 室内での警護をしていたタキオンと、封印を唯々(ただただ)見守っていたペンネールが、モーリアンの元へと歩み寄った。


「予定よりも時間が掛かった。腕が落ちたよ」

「いえ。この短時間での高度なる封印。モーリアン様にしか出来ぬ技でしょう」

「ありがとう、タキオン」


 自信に満ちた表情で断言するタキオンに対し、(わず)かながら口角を上げたモーリアンが礼を返した。

 近付いたペンネールは、ハンカチを(もっ)て、モーリアンの汗を拭っている。


「さて、後は任せるとしよう。ペンネール学派長」

「は! はい。お任せ下さい」


 汗を拭く手を引っ込め、背をビシッと伸ばすペンネールの三つ編みが揺れた。

 

「持てば守りに動けんな……ペンネール学派長代理、外まで運べ」

「え? タキオンさん、持ってくだ――了解しました」

「それでいい。行くぞ。モーリアン様、正式な礼は後日にでも、本日は有難う御座いました」

「これも仕事だ。大切な、な」

「では、これにて」

「お疲れ様でした」

「ああ、おつかれ」


 丁寧に腰を折るタキオンと、巨大な魚でも持つかのように両手で結晶を抱えるペンネール。二人は、そのまま大講堂の外へと歩き出した。

 残るモーリアンは、再び長い息を吐き、疲れ果てた己の意識を保っていた。

 そしてモーリアンは、ゆっくりと振り返り、何もない空間へ向け、呟く。


「君達も、引き続き頼んだよ」

「お任せ下さい。モーリアン様」

「任せて」


 何もない空間から、若く、高い声が返ってくる。

 それは、淀みの剣の警護をしていた魔術師の声であった。


「ヌーン。ちゃんとしなさい」

「フッ、構わないよ。私は、君達と同じ普通の学派員だ」

「申し訳御座いません。では、私達は」

「これにて」

「ああ。よろしく頼む」


 モーリアンは、不可視の二人の動きを目で追いながら、彼女達を見送る。


「さぁ、お姉さまと合流しましょう」

「ニュー。張り切り過ぎ」

「いいでしょ。ほら」

「うん」


 自然と大講堂の扉が開き、そして閉じた。

 それは、警護兼護衛の彼女達が、この場から立ち去った証でもあった。


「だが彼女達が、フクロウの派遣した『信頼の置ける護衛』とはね……ミネルヴァも可笑(おか)しな事をする」


 そう独り呟いたモーリアンは、周囲に落ちた魔石を見て、見なかった事にした。

 片付けはタキオンに任せよう。そう考え、モーリアンも大講堂の外へと向かう。

 疲れた体を引きずりながら、ゆっくりと休める己の店を目指し、モーリアンは日の差し込む王都の町並みへと戻って行った。




 地の底、深く、深い洞窟の中。

 黒いフードを被った者達が、一体の巨大な石像を囲んでいた。

 洞窟の中は、赤々とした炎に照らされ、明るく、熱い。

 その炎、消えぬ魔法の炎が、十年の時を経て(なお)、石像を包み込んでいた。

 炎に包まれ燃え続ける石像の姿は、巨大な竜、そのものである。


「おぉ……胎動が聞こえる! 目覚める! 我らが代行者が!」

「我らも、トレニア様とザルバザード様のように、時を進めましょうぞ」


 一人の男が、懐から手の平大の黒い石を取り出し、己が胸の前に掲げた。

 黒い石の境界は曖昧で、不自然に揺らめいていた。

 それは、ダークマター。

 魔力を吸いこみ、モンスターを呼び寄せる力を持つ、不可思議な石。

 男は、掲げたダークマターへ、魔力を流し始めた。

 己の持つ全ての魔力を。


「我ら皆、モルスの元へと」


 言葉と共に、男の足元が黒に染まる。

 その黒は、底なし沼の様に男を引きずり込む。

 抵抗一つせず黒の中に消えた男は、その命すら黒に溶けて行った。

 黒いフードの者達は、男に続く様に、同様の姿を見せた。


「我ら皆、モルスの元へと」


 同じ言葉が、幾十にも重なり、響く。

 地に広がる黒は、辺り一面を覆い、全ての人の飲み込んだ。

 (うごめ)く黒は、地面を伝い、燃える石像へと進む。

 そして赤々と燃える炎ごと、竜の石像を包み込んだ。

 消えぬ炎が消え、黒一色に包み込まれた竜の石像が、脈動した。

 竜の鼓動が、世界に響く。

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