50.拾い物は届け出を
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ゴブリンを相手して、なんて言っておきながら、マルクの奴は、八体の白いゴブリンを突破していった。もののついでで、内二体を魔石に変えながら。
「援護は?」
「いらん」
それだけ返事をすると、俺は白いゴブリンに向かって接近する。
カエデに目を向けさせない為に。
白いゴブリンの十の瞳が、俺を睨みつけた。
残り一体は足を切断され、それどころではない様だ。
早速一体飛び込んできた。ぬるい。
一歩横に動き、白いゴブリンの剣を避ける。と同時に首に剣を通し、抜く。
噴き出た青い液体が、白いゴブリンと雪を青く変色させる。
気付けば既に二体の白いゴブリンの頭に、二本ずつナイフが突き刺さっていた。
仕事の早い奴だ。
間、髪入れず二体の白いゴブリンが、俺の懐を刺しに近付いてくる。
マルクとばかり稽古していたせいか、こいつらの動きが遅く感じる。
『未来の線を意識すれば、体は自然と動く』
師匠の教えを、ゆっくりと噛みしめる時間があった。
白いゴブリンの剣が描く線は、俺には届かない。もう、未来は見えている。
二体同時に両断する未来が。
自然と体は動いた。
真横に切り払った銀の線が、白いゴブリンの胴を通過した。
一体を除き、白いゴブリンは全て、消えてしまった。
さて、最後に、マルクに足を斬られた白いゴブリンでも倒そうか。と、思っていたが、既にカエデが動いていた。
カエデは、奴の真上からナイフを投げ、一撃で絶命させる。
その時、轟音が響いた。
見ればスノーゴーレムが倒れている。あれは、マルクが足を切断したのか。
だが、もう一体のスノーゴーレムが、マルクに襲い掛かる。
「カエデ。援護に行くぞ」
「その必要はございません」
カエデの言う通り、あっけなく方が付いた。
ガル兄達が、戦闘を終えているのを確認し、もう一体のスノーゴーレムを処理する。二人には、援護は必要なかったみたいだ。
「ガル兄。カエデさん。お疲れ様」
「倒すのが早いんだよお前」
「マルク様、流石にお見事な仕事ぶりです。普段のガランサ様にも、少しは見習って欲しいものですね。フフフ」
カエデさん。ガル兄をからかうのに俺を利用しないで下さいよ。
言葉を飲み込み、周囲を警戒する……うん、大丈夫だな。
カエデさんは、戦闘に使ったであろう投げナイフと、白ゴブリンの魔石を回収している。
ガル兄は、スノーゴーレムの魔石を回収しながら、その鮮度? を確認しているようだ。
さて俺もやることがある。たぶんアレがあるはずだ。
スノーゴーレムが鎮座していた場所の中間地点。そこの雪を掘り進める。
あぁ、手が冷たい。
「温かく、≪癒しの水≫で」
両手に癒しの水を張り付かせる。指先に血の巡りが戻ってくるのを感じた。
魔力を込め続ければ、温かさも維持可能だ。
そのまま、続きを掘り進める。
「何やってるんだ?」
「宝箱を探しているんだよ」
「独り占めなさる気ですか……マルク様」
カエデさん。突然、迫ってこないでくれますか。心臓に悪い。
おっ! あった。
周囲も丁寧に、そして慎重に、雪をかく。
そこには、横の長さが腕程の宝箱が置かれていた。
横長の四角形で、上部のふたが山型になっている。黒い縁取りが全体を強調していた。この箱だと、大きな武器は期待できないだろう。
「手は出さないでね、カエデさん」
「ウフフ。わたくしも、そこまで強欲ではありませんよ」
「罠の話だろ?」
ガル兄の言葉に頷き、俺は、周囲を見渡す。
箱の周囲を、天井を、左右の壁を、奥の壁を、その反対側を。
不自然な穴は無いか? 凹みは? 糸は? 魔力は? 臭いは?
問題無いようなので、箱を同様に観察する……異常なし。
二人に下がってもらい、ふたを開ける……何も出てこない。
中には、指輪が入っていた。一つだけ、ちょこんと。
念には念を入れ、箱の内部も罠が無いか調べる……うん、罠は無いな。
癒しの水を解除し、俺は、指輪を取り出した。
箱は、すっーと溶けるように消えていった。
ダンジョンで発見される宝箱は、何故か中身を取ると消えてしまう。
理屈は不明だ。
そもそも、何故こんなものが出現するのかも分かっていない。
ある者は罠だと言い、ある者は褒美だと言う。
実際の所は不明だ。
考えても仕方がないし、今は、指輪を見よう。
それは、材質は銀だと思われ、青い宝石をあしらったシンプルな指輪であった。
内径が大きいのは、これが魔道具であるからだろう。
この手の魔道具は、初めにはめた指に合うように、小さくなるものだ。
内側に何か彫られているが、内容はわからない。魔力を通してみたくなるが、それは俺の仕事ではないだろう。専門家に任せよう。
振り返ると、カエデさんが左手を差し出して、何か催促をしている。
カエデさん……。
「呪いの指輪でも知りませんよ」
俺が手を取ろうした瞬間、カエデさんは、雪上を滑るように後ろに下がって行った。相変わらず器用な人だ。
「プロポーズの練習は、まだマルク様には早かったですわね。ウフフ」
「アイツの戯言は、聞かんでいいからな」
「俺は、面白くて好きだよ」
ガル兄や。俺を、珍妙なモノを発見したような目で見ないでおくれ。
転移陣の光が消えていく。
無事、第一階層に戻ってきて一安心だ。
帰り道は、赤目の集団に出くわしただけで、特に危険もない道中であった。
落ち着いた場所に戻ってきたので、ようやく聞ける。
「ガル兄。一つ聞きたいんだけど」
「ん? 何だ?」
「魔石の鮮度ってなにさ?」
ガル兄が『ん? 何言ってんだマルク?』と言いたげな、困惑した顔をしている。
朝から困惑してたのは、俺なんだけどね。
「見て分からないのか?」
「全然。同じじゃないの?」
スノーゴーレムを討伐した後、魔石の確認はした。普段と同じだったと思う。
「いやいや、全然違うだろうが。この内に残る生命力の若々しさも、込める魔力の浸透性も、表面の艶も……全然違うだろう」
「ごめん。まったくわからん」
ガル兄は、愕然としている。
ガル兄がそう言うなら、そうなのだろうが……うん、俺にはわからない。
隣では、カエデさんが静かに首を横に振っていた。
「礼はまた今度」
「それでは失礼いたします」
そう言ってガル兄とカエデさんは帰っていった。
急ぎで必要だったと言っていたし、忙しいのだな。
現在、遺跡入口。ゴンさんと、名を知らぬ番兵の前である。
「よう。マル坊。今日は工房の兄ちゃんか?」
「ちょっと二十七まで。あっ、ゴンさん。今日ってクライス爺ちゃん来てる?」
「ん? 事務所にいるぜ。何か拾ったのかよ」
魔石以外の、ダンジョンで拾ったものは、教会に届け出なければならない。
遺跡は、教会の管轄下であるからだ。
教会に必要でない物であれば、そのまま手に入れた人の物になる。が、教会が欲するものであれば、金で解決されて、それまでだ。
それを嫌って、手に入れたことを隠す冒険者も多い。
俺は、教会自体はあまり好きではないが、仲良くしたい相手が幾人かいるので、届け出は守っている。
だが、他人のあれこれまで口出すつもりはない。
クライス爺ちゃんは、その拾い物の鑑定士である。
「指輪を一つ」
「いつも通り申請書も頼む」
「当然。ありがとう、ゴンさん。それと、お疲れ様です」
二人に別れを告げ、遺跡管理事務所に向かう。といっても歩いてすぐだ。
中に入ると、カウンターの奥から受付の職員が顔を出した。
緑髪の眼鏡な女性だ。
「あらマルクさん。遺跡の調査ですか? 魔石の調達ですか? 拾得物の鑑定ですか? 入信ですか?」
「拾得物です」
「では、こちらの申請書にご記入をお願いします」
彼女は初めから持っていた紙を、俺に手渡す。確かに拾得物の申請書だ。
気にしても仕方がない事か。まぁ、いつものように書いてしまおう。
えっと……名前に、性別に、年齢と。
いつもの情報を書き進める。そして俺の羽ペンが止まった。職業の欄で。
記入しないと駄目か…………震える手で……書く。
『名前:マルク・バンディウス 性別:男 年齢:18 職業:無職』
気にせず続きを書こう……発見階層に、状況に、日時に……。




