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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十一章

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503.幕間~落ちる彼女~

誤字修正

「ん~。良い感じ」


 彼女は、王城を見下ろしながら、空に浮かぶ快感に酔いしれていた。

 彼女の眼下に広がるのは、王都の中央にある湖、その中に建つ王城であった。

 その周囲に広がる王都も、易々と見渡せる。

 空をふわり、ふわりと浮かぶ彼女の姿を、見上げる者は居ない。

 それは、王都の上空に居るからではない。

 彼女の体には、視認を阻害する隠匿魔法が掛かっているからだ。


「やっぱり四点が安定するわね」


 彼女は、自身の体に装着した四つの風の魔工石を見ながら、そう呟いた。

 ガルーダの魔石を加工した四つの小さな魔工石は、常に彼女から魔力を吸い上げ、風の力として放出しており、彼女を宙に浮かべる力となっている。

 魔工石は、彼女の操り通りに動き、ふわり、ふわりと彼女の体を運び続ける。


(これなら、空を自由に駆けるのも、もう夢じゃないわ!)


 実験の成功と、未来への展望が、彼女の心に喜びを生み出す。

 だが、喜びに水を差す言葉が、彼女の記憶の中から呼び起こされる。

 師である筆頭宮廷魔術師の声が。


『俺が居ない所で、絶対に実験は行うな』

(タキオンが居なくても、大丈夫ね)


 多忙のタキオンの目は、今は無い。

 自由に実験の出来る機会を、彼女が逃す訳が無かった。

 自由への喜びと、空への渇望が、彼女の気持ちを(はや)らせる。

 空へ。もっと高く、遠くへ。

 王城を離れ、王都を離れ、遠くへ行く事など出来ない事を、彼女は知っていた。

 だから、高く、高く。

 見えぬ彼女の体が、魔力の風を放ちながら、上昇していく。

 ただ、ひと時の自由を、彼女は満喫していた。

 その魔力が足りなくなる、その時までは。


「あ、しまっ――」


 魔力を蓄え、消費するように作られていない四つの魔工石は、放つ風の力を維持するだけの魔力を失い、その動きを止めた。

 魔工石により浮かんでいた彼女の体は、重力によって落下し始める。

 浮かぶ力が無くなれば、落ちる。当然の事だ。

 そして、彼女は、その当然に対処出来なかった。


「≪(かぜ)の――」


 続く言葉を言えない。

 そもそも、彼女は、自由落下を止める程の魔法を持ち合わせていなかった。

 小さな湖の中に(そび)え立つ城が、どんどんと大きくなっていく。

 それは、自身が地面に叩き付けられる未来が待ち受けている事を、彼女に教えていた。


(死にたくない……こんな終わり方……)


 彼女の目に、自分の落ちる場所が、目に入った。

 王城の門と城内を(つな)げる石畳の道。

 そこに、人の姿が。


(駄目!)


 せめて石畳に。

 頭から落下している彼女は、人影を避ける為、無理にでも魔工石を動かそうとするが、風の魔工石は動く気配すらみせなかった。

 そのまま彼女の体は、下へ、下へと落ちていく。

 その時、彼女は、落下地点に立つ人影が、自分を見上げながら睨みつけている事に気付いた。隠匿魔法を使っている自分を。

 何故(なぜ)? と思うよりも、風で揺れる金の髪が、彼女の目に焼き付く。

 男の鋭い瞳も、動く唇も。

 瞬間、彼女の体を、柔らかな風が包み込んだ。

 それが風の魔法であると、彼女が気付いた時には、既に命の危機は去っていた。

 魔法による緩やかな降下に、彼女は身を任せる。

 己を操るかの様に、姿勢を変える魔法の力にも、彼女は抗わない。

 頭を上に、足を下に。

 その当たり前が、彼女には奇跡に思えた。

 彼女の体は、既に王城の頂点よりも低くに落ち、石畳の道へ近づいている。

 先程まで落下地点にいた男が、手を伸ばす姿を、彼女は見た。

 隠匿魔法を消し、彼女は、そっとその手に手を重ねる。

 そのまま彼女は、羽根が地に落ちるように、音もなく着地した。


「助けてくれて、ありがとう」

「怪我は……無いね」


 男は、それだけ告げると、サッと手を離し、背を向けた。

 城内へ向け歩き出した男の背が、少しずつ遠ざかって行く。


「ちょっと、ま――」

「馬鹿か! お前はぁぁぁぁ!!」


 彼女の言葉を遮る男の声が、王城に響く。

 彼女は、その声の主の事を良く知っていた。

 自分の魔法の先生であり、筆頭宮廷魔術師であるタキオンの声であると。

 金の髪の男とすれ違うように、頭頂部に一房ある煉瓦色の髪を揺らしながら、タキオンが走って来るのを、彼女は目撃した。

 そして男とすれ違いざまに、笑みを浮かべる我が師の姿を。


(タキオンって、あんな顔もするんだ)


 だが、その笑みが幻想であったかのように、彼女の目は、目を見開き怒りの感情を隠さぬタキオンの顔を、捉えた。

 彼女は、出来うる限りの笑みを浮かべ、タキオンを待つ。


「やあ、タキオン。仕事はもういいの?」

(うるさ)い! この馬鹿姫! さっさとこっちに来い!」


 彼女の眼前に迫ったタキオンは、問答無用で手を掴み、そのまま城内へ続く扉へ向け歩き始めた。

 彼女は、引かれる手に抵抗せずに、タキオンの後ろを付いて歩く。


「ちょ、ちょっと少女を引っ張って何処に連れ込む気なの?」

「王の前だ! 説教で済むと思うなよ。ネメア!」

「ちょっと、名前は呼ばないでよ。今の私は、ただの魔術師の少女よ」


 彼女は、自身の変装した姿を、空いた手で指し示しながら言った。

 質素な赤のローブ。目元を隠す薄紫色の髪。暗く塗り替えた肌。

 その全てが、彼女の本来の姿とは別ものである。

 だが彼女の主張を、手を引っ張るタキオンは、一笑(いっしょう)()す。


「フンッ。少女なんて歳か。もう二十にもなっておきながら。それに王城で好き勝手魔法を使う『ただの魔術師の少女』なんて居てたまるか」

「ウッ。そうだけど……」

「死ぬ所だったと、本当に理解しているのか?」

「流石に、それは……分かってる。御免なさい」

「なら、素直に王の前で頭を下げろ。国の大事よりも、王の心労を先に心配せねばならんとはな……全く、この忙しい日に」


 怒りで怒りに油を注ぐタキオンの背を見ながら、彼女は思っていた。

 

(あの人は、誰なんだろう?)


 城内で見かけたことは、一度もない。

 その鋭く睨みつける目と、(なび)く金の髪を思い出しながら、彼女は、タキオンに連れられて、王の前へと差し出される事となった。

 彼女の見た王の顔は、苦虫を噛み潰したように歪んでいた。

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