49.スノーゴーレム
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警戒して入ったものの、小部屋にはモンスターはいなかった。
そのまま俺たちは、第二十七階層へと続く階段を下りていく。
「スノーゴーレムだったよね」
スノーゴーレムは材質が雪で出来た、機械人形を模したモンスターだ。
ゴーレムと呼ばれるモンスターの姿かたちの元となった機械人形は、施設の防衛用に昔の魔術師が作り上げたものだった。が、時が経つと、魔力より生まれしモンスターとなって現れ始めた。
姿がそっくりなだけで、元の制作者とは関係ないのだが。
当然モンスターなので、倒せば塵となって消え、魔石を残す。
スノーゴーレムは材質が雪であるため、炎に弱く、単純にゴーレムと呼ばれる土で出来た個体よりも、対処は楽である。
ただし、一つだけ厄介な特製がある。
辺り一面を雪景色に変えてしまうのだ。慣れていないと痛い目を見る。
そんなスノーゴーレムの魔石を、ガル兄が急ぎ入手せねばならなくなり、俺に白羽の矢が立った。という訳だ。
まぁ、ガル兄とカエデさんだけでダンジョンに潜ることになったら一大事だったので、一緒に行くことになって、良かったと思う。
が、出発前にガル兄に言われた、一つの注文が気になって仕方ない。
「ああ。それと繰り返しになるが、火魔法で倒すなよ。鮮度が落ちる」
そう、これだ。
俺には、これがよく分からない。魔石の鮮度ってなにさ?
第二十七階層は、寒いことが多い。
スノーゴーレムが、出現した部屋の床を雪が覆い、そこから階層全体に冷えが伝わっていく。
持ってきたマフラーを申し訳程度に巻く。
耳当て付きの毛皮帽子も被りたいのだが、音が聞き取り辛くなるのは良くない。
少し寒いだけなので、我慢だ。
ガル兄とカエデさんも、手袋にマフラー装備で、俺とあまり変わらない。
魔石を持ちかえることを考えると、荷物をそれほど持ち込めないので、仕方のない話だ。
寒さに耐えられなくなったときは……階層ごと火の海にしてやろう。
そして、第二十七階層に到着した。やはり寒い。
「お寒うございますね。ここは殿方の心意気を見せて『俺に任せて、カエデは安全な所で待っていてくれ』と言っていただければ、わたくしからの好感が、うなぎ登りですのに……勿体ない」
「いいから進め。俺たちがマルクを引っ張り出したのに、俺たちが行かなくてどうするんだよ」
「ええ。最後までマルク様を”利用”することを躊躇なさっていましたものね。己の信義と背の重圧。どちらを取るか? 結局、友より重圧の解消を選んだガランサ様。あぁ、お労しや、お労しや」
「ぐっ」
ガル兄は、そこで黙ってしまった。
そんなに気にすることか?
手助け無しにダンジョンに潜ることになるよりは、断然良い選択だよ。
「手ならいつでも貸すってば。急ぎじゃないなら、朝は待ってて欲しいけどね」
後ろの二人の反応は確認しない。警戒優先だ。
目的の部屋は、この階層にある大部屋二つ。
大部屋の中が白ければ当たり。石畳なら次へ。
二つともハズレなら……次の第二十八階層の大部屋行きだ。
第二十八階層の大部屋は一番奥にあるから、そうなると非常に面倒である。
俺たちは、歩みを止めずに進む。
何も出ない内は、楽でいい。
次の曲がり角で、大部屋の様子が分かる。
警戒しながら、進み、角を曲がる――
「白い。当たりだ」
後ろから歓声が上がる。ダンジョン内では、お静かにお願いしたいものだ。
さて、大部屋に着く前に考えなければならない事がある。
大部屋の中は、大抵、複数種のモンスターがいる。
この階層で遭遇する可能性があるのは、スノーゴーレム、ポイズンスコーピオン、赤目、ハイオーガ。後は、雪の部屋限定で出現する白いゴブリンだろうか。
白いゴブリンがいると、不自然に”盛り上がった場所”があるので直ぐにわかる。
雪が見えたので、スノーゴーレムは確定だ。
厄介なのは、ポイズンスコーピオンだ。
毒は勘弁願いたい。
その大きさから、奴から不意打ちをくらうことが無いのが、せめてもの救いだ。
念の為、全員に――「≪戦士の妙薬≫」――痺れ対策をしておく。
さて、ポイズンスコーピオンがいないのであれば、敵は二人に任せて、スノーゴーレムの討伐に専念しても良いかもしれない。
まぁ、状況次第か。
足元の雪が、少しずつ増えだしている。ザクッ、ザクッと足音が響く。
これは、動き辛そうだ。
大部屋の中を、見える範囲で調べてみる。
「あぁ、あったよポッコリ」
「ん? どうした?」
ガル兄に、一面の雪の中で一部盛り上がった部分を指し、それが何か教える。
「部屋に入ると、白いゴブリンが襲ってくるから注意してね」
さて、そろそろ大部屋に入ろう。数は六でいいかな。
敵をイメージし、大部屋に足を踏み入れる。
「≪風の――」
白いゴブリンが跳び付くように俺目掛けて襲い掛かる。
数は五。
ならば一体だけ二本にして――「――刃≫」――放つ。
不可視の刃が、白ゴブリンを襲う。
青い液体をまき散らしながら、白ゴブリンは、雪の上に落ちた。
雪が青く染まっていく。
まずは、状況確認だ。
北南に縦長の大部屋で、俺たちは南西から入ってきた所だ。
出口はまっすぐ。今は関係ない。
北側、部屋の一番奥に、スノーゴーレムが二体。
緩慢な動きではあるが、既に動き始めている。目測だと通常より大きい。ジャイアントと同じで、成人男性三人分といった所だろう。
中央に、不自然が八つ。
そして、今、風の刃をぶつけた白ゴブリンで生きているのが四体。
魔力の流れ無し、目視での敵も他にはいない。ならば。
「一人一体、お願い」
二人の返事を待たずに、中央寄りの一体に剣を突き立てる。
起き上がることも出来ずにいた白ゴブリンの腹部を貫いた。
白くても醜悪な顔は変わらない。
絶命の際に、さらに歪む顔も。
俺は雪に刺さった剣を抜き、近くの一体に駆け寄り、胴を横薙ぎにした。
白ゴブリンは、青の液体をばらまきながら、雪の上に倒れ込む。
ギギギと断末魔が聞こえた。二体とも消えるのを確認する。
ガル兄と、カエデさんも、問題なく倒せたようだ。
中央にいる八体の白ゴブリンは、俺たちへの奇襲をあきらめ、己の被る雪を拭いながら、のそりと姿を現した。
「カエデさん。ガル兄。ゴブリンを相手して」
「スノーゴーレムぐらい、やれるぜ」
「カエデさんの援護優先。それと周囲確認お願い」
俺は、真っ直ぐ部屋の奥へ走る。
八体のゴブリンは、八の字に布陣している。中央突破で行こう。
「≪風の刃≫」
俺は走りながら、真ん中寄りの四体に対し、一体一刃、魔力を込めた刃を放つ。
小剣で弾き、大きく体勢を崩すゴブリン。足を裂かれ動けなくなるゴブリン。大きく跳び、回避するゴブリン。首が飛ぶゴブリン。様々であった。
白ゴブリンを抜けるのが目的なので、これで構わない。
全速力で走れば、背を突かれる心配もない。
行きがけの駄賃に、体勢を崩した白ゴブリンの首を裂き、スノーゴーレムへ進む。まずは、右のスノーゴーレムの動きを止める。
魔力を込め、狙うは左足。
「≪風の刃≫」
放った一刃を、鈍重なスノーゴーレムが避けられるはずもなく、狙い通り左足の脛に直撃する。が、わずかに二割ほど削っただけに終わった。
だが、俺は、走る足を止めない。
緩慢な動きのスノーゴーレムが、その太い腕を振り上げる。
俺は姿勢を低くし、スノーゴーレムの股を滑るように潜り、相手の背後を取る。
そして、風の刃を当てた同じ高さを、その左足を、剣で切り払った。
しかし、剣はスノーゴーレムの足の途中で止まってしまった。
魔法で斬るか? いや、このまま剣で。
俺は、剣をスノーゴーレムから引き抜く。その力を利用して、その場で一回転、そして逆側から渾身の力で、切り払う。
剣が、先の斬撃が進むべきだった線を逆から描き、目の前の左足を通過していく。
左足を失ったスノーゴーレムは、そのまま前方へと倒れていった。
轟音と共に、周囲に雪が舞う。
倒れたスノーゴーレムは後回しだ。もう一体を。
幸い、もう一体のスノーゴーレムも俺に敵意があるようで、こちらに向かってきている。ガル兄達の方へ行かれたら面倒だった。
雪を踏みしめ、スノーゴーレムへ駆ける。
スノーゴーレムは、その剛腕で俺を殴りつけようと、大きく振りかぶった。
モンスターによるが、ゴーレム系は動きが単調なことが多い。こいつもそうだ。
腕の振り下ろされる位置の手前で、足を止める。
振り下ろされた太腕が、雪面に突き刺さった。
弾ける雪が、俺の体に掛かる。
「≪水精霊の斬撃≫」
右手の指に生み出した水の糸で、目の前の腕を切り裂く。
スノーゴーレムがもう一方の手で、反撃せんと動くが、もう遅い。
俺は既に、スノーゴーレムの目の前に立っている。
致命の距離だ。
下から上へ、右手を振り上げる。発動したままの水精霊の斬撃の軌跡が、スノーゴーレムの正中線を通過していく。
あとは、真っ二つに切断されたスノーゴーレムの末路を、ただ見届けるだけだ。




