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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十一章

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502.王城で昼食を

 どういう流れで、こうなってしまったのだろう?

 俺は、現在、先程と変わらぬ丸い卓に着きながら、昼食を取っている。

 丸卓に座るのは、四人の人物。

 普段着の俺。

 その正面には、食事中でも()を感じるレオニード王。

 俺の右側には、透き通る青い髪が美しい、ミュール様。

 俺の左側には、ハイディルム公爵家の御令嬢、メリィディーア様。

 メリィディーア様は、目の()く御方だ。

 輝きを見せる長い緑の髪は、それだけで(きら)びやかである。

 スゥと通る鼻筋、柔らかな口元、そして何より髪と同じ緑の瞳が、宝石の様に光り輝いて見え、煌びやかな印象が意識に強く残る。

 発色のよい黄色の服も鮮やかで、緑の髪をより映えさせていた。

 だが果たして、このメリィディーア様は、メリィディーア様なのだろうか……もしかして、影のノワールではないのだろうか?

 魔力的な異常は、見受けられないが……。


「マルク様、食事姿をそんなに見つめないで下さい」

「これは、失礼致しました」


 俺は頭を下げ、視線を自分の料理へと移した。

 王とミュール様の笑い声が耳に届くが、自分の失態だ。恥は受け入れよう。

 食事中の料理は、まだ、量はあった。

 眩しい白皿に盛り付けられているのは、薄く切られたテリーヌとリンゴのソース、そして周囲を飾る緑豊かな野菜達だ。

 隣の皿には薄切りにされたパン。

 その脇に小さな容器が一つ。紫色のジャムが入っている。

 ブルーベリーのジャムは、すっきりとした酸味で、実に良い。

 そして(くぼ)んだ皿に、温かな野菜スープ。

 王と食事と聞いた時は、一体どんな珍妙な物が出て来るのかと恐怖していたが、並べられた料理の数々は、極めて普通の食事であった。


『もっと豪勢かと思ったか?』

『いえ、普通で安心しました』


 王なら、食べる物一つ違うのかも、と思っていた俺が、馬鹿みたいである。

 まぁ、もう一通り口にしたので分かる。

 少し、違うと。

 料理は普通でも、食材そのものが美味い。

 綺麗に盛り付けられた葉物野菜を、フォークで一口。

 この野菜は、熱以外手を加えていない(はず)なのに、そのまま食べても味わい深い。

 熱を入れてもシャキッとしているレタスは、瑞々(みずみず)しく、風味も良い。

 他の野菜達も、皆、活き活きとしている。


「ミネルヴァ殿。マルクの様子はどうだ?」

「変わりなく。修行にモンスター討伐にと、忙しい日々を過ごしていますよ」


 目の前に俺本人が居るのに、俺には話が飛んでこない。

 まぁ、気にせず食事を続けよう。

 次は、テリーヌだ。

 四角く、そして薄切りにされたテリーヌは、豚を主とし野菜を混ぜ込んだものであった。

 王都だから魚のすり身を使ったテリーヌ、という訳ではないらしい。

 当然か。

 魚の流通が少ないピュテルに住んでいるから、そう思うだけで、王都の人々も魚だけ食べている訳じゃないからな。

 柔らかなテリーヌには、ナイフがスッと入る。

 一口大に切り、リンゴのソースをつけて、口へ。

 柔らかな食感を噛み切ると、豚の旨味と香草の香りが口に(あふ)れ出した。

 野菜の甘味と粒胡椒のピリリが、豚の味を強調してくれる。

 そして豚特有の臭みを緩和してくれるのが、リンゴのソースだ。

 爽やかな酸味と、スッと通る香りが(たま)らない、


『テリーヌって容器のことなんだってさ』


 サンディが話してくれた、どうでも良い話が頭に浮かぶ。

 なら、切り分けられたこいつは、何と呼べば良いのだろうか……サンディに聞いておけば良かった。まぁ、どうでもいいな。

 このテリーヌを作ってくれた人には悪いが、香辛料を強く利かせてある狼のまんぷく亭で食べたテリーヌの方が、俺の好みだ。

 こちらは、こちらで質良く、美味しい。


「ならば良い。わしの耳に届く(しら)せは、マルクでなければ疑いたくなるものばかりでな。心身に負担が来ているのではと思ったが……杞憂(きゆう)であった」


 王が俺を見て、そう言った。

 表情は真剣そのものだが、目に優しさを感じる。

 それは、きっと王の根の部分から出る、優しさなのだろうな。

 俺は、テリーヌを飲み込んだ。


「……私は、私なりに好きに生きていますので。ですが、ご心配頂ける心は、痛み入ります」


 優しさには、言葉を返さないと。

 それに、無用な心配を掛ける事は、あまり良い事ではない。

 心配する心が苦しいのは、少しだけ、知っている。


「フフッ。王の耳に届く事が全てでは、ありませんよ。クラーケン、グレーターデーモン、イービルリッチ、ミスリルゴーレム。他の力弱きモンスターも含めれば、数えるのも面倒な程に」

「う、む。その、なんだ……マルクは、本当に問題無いのか?」

「王よ、ご安心下さい。私が冒険者であった頃に比べれば、モンスターと戦う数は減っていますので」


 別に、世の中が平和になった訳ではない。

 モンスターは、依然あちらこちらで生まれ、人の脅威となっている。

 俺が戦っていた分を、他の冒険者達が戦っているだけの話だ。

 そのおかげで、俺は日々を穏やかに過ごせている訳である……今でも、少し申し訳なく思ってしまうな。

 

「そうか……ミネルヴァ殿よ。マルクの事、よろしく頼むぞ」


 あれ? 王がこれ以上心配しない様に、言葉を選んだつもりなのだが……余計、王の顔に(しわ)が増えてしまったような気が……。


「王のご期待には、沿えぬでしょう。相手が、このマルクですから」

「うむ。そうだな」


 王は、得心が行ったという顔をしながら、テリーヌを楽しみ始める。

 ミュール様も、それ以上の言葉は要らぬとばかりに、スープを口へ運んでいた。

 ()に落ちないのは、俺だけらしい。


「ミネルヴァ様。マルク様は、それ程までに御厄介な方なのですか?」


 メリィディーア様が、柔らかな表情で、そんな事を言い出した。

 彼女の正面に座るミュール様が、小さく喉を動かし、口を開く。


「……ええ。私では制御しきれません」

「ミュール様。俺は、そこまで暴れん坊では有りませんよ」

「そう思っておるのは、マルクだけかも知れぬぞ」

「あはは。御冗談を」


 王も面白い冗談を言う御方だ……王の目は、その言葉が本心だと語っている。

 ミュール様は、柔らかな微笑みと共に、俺を見ていた。

 王の言葉の、否定か同意か……その微笑みの意味が、俺には分からない。

 メリィディーア様も、俺を見て笑っている。


「フフフ。ですが、そうして、マルク様の英雄譚が紡がれていくのですね」

「メリィディーア様、私の行いが英雄譚だなんて、大袈裟な事です。そう言う話は、劇と噂だけで十分ですから」

「少し残念ですわ。わたくしもトーマス様も、マルク様の活躍を楽しみにしていますのに」

「英雄譚などではなく、モンスター討伐の話でしたら、また今度にでも。トーマス様にも、宜しくとお伝え頂ければ幸いです」

「ええ。今度はわたくしも、ご一緒に」

「はい。喜んで」


 メリィディーア様の緑の瞳には、勝てなかった。

 真っ直ぐ見据えられると、素直に(うなず)きたくなる力を感じる。

 ミュール様の銀の瞳といい、太陽伯の青い瞳といい、恐ろしいものだ。

 気を紛らわすために、野菜スープを一口飲もう。

 右手を匙に持ち替え、(すく)い、頂く。

 口に運ぶ前から、野菜の溶け込んだ香りが、鼻をくすぐる。

 口に含むと、ギュッと濃縮された野菜と鶏肉の味が溢れ出し、舌を幸せにしてくれる。そして、体に染み込む温かさ。

 入っている具材は、玉葱と鶏肉だけなのだが、スープに溶け込んだ味は複雑で、どれ程の野菜が使われているか、知る事は叶わない。

 もう一口、行こう。


「劇と言えばだ、マルクよ、ネメアを妻に(めと)る気はないか?」

「グッ…………ふぅ。いきなりなお話ですが、全くありません。そもそも、会った事もないですので」


 危ない危ない。スープを口から吹き出す所だった。

 全く、王も突然なにを言い出すのやら。


「うむ、そうだろうな。本人も『良い虫よけが出来た』と喜んでおったからな」

「……今後も、出会わぬ事を祈っておきます」


 バルザックさん(いわ)く『どえらい美女』らしいが……知らぬ人を『虫よけ』扱いする人とは、あまり会いたくないな。

 直接会わねば、人柄は分からないが、積極的に会う必要も無いだろう。

 今も、そしてこれからも。

 絶世の美女なら、もう十二分に見ている。

 今も、クスクスと笑う二人の美女の姿を眺めながら、そう思った。

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