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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十一章

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501.物言わぬ石像

(よど)みの(つるぎ)の話に入る前に、お茶だ。皆も、是非飲んでくれ」


 レオニード王が、毒見もせずにカップへ口をつけた。

 それに合わせるように俺達も、カップを傾け、お茶を頂く。

 温かなお茶が、口に広がり、豊かな香りを鼻へと通す。

 少し渋みが舌に残るが、果実の如き甘い香りが、丁度良く中和してくれる。

 呼吸全てが、お茶の香りに変化したような錯覚。

 その錯覚に身を委ねてしまったら、ここが王城内で、王の前である事を忘れてしまいかねない。

 茶葉も良ければ、淹れた人の腕前もよいのだろうな……ふぅ、お茶が美味い。

 皆、一様にカップを卓へ置き、王を見た。

 威厳ある顔で俺達の視線を受け止めた王は、潤った口を開く。


「ミネルヴァ殿。淀みの剣を、ここに」

「畏まりました。≪()(たから)をこの()に≫」


 ミュール様が、呪文を唱え、何もない空間へ手を伸ばした。

 そしてミュール様が手を引くと、その手に握られた黒い剣が徐々に姿を現す。

 刃が曲線を描く、細身の剣。

 全体が黒一色で作り出されており、その黒は、光を吸い込むように蠢いている様に見える。やはり、見ていて気分の良いものでは無い。

 特に魔力的に。


「うっ。こ、これが、淀みの……」

「なるほど。これは厄介だな」


 ペンネールさんの顔が嫌悪で歪み、タキオンさんが興味の視線を露わにした。

 両者ともに視線は、卓の上に置かれた淀みの剣に吸い込まれている。

 切先は、王とタキオンさんの間を指していた。

 以前、炎帝竜の大剣の切先を王へ向けた俺が思うのも何だが、これは、危険すぎる。怪我でもすれば、大変な事になりかねない。

 だが、この場に座る六人の内、そんな心配をしているのは、俺だけの様だ。


禍々(まがまが)しき剣だな。モーリアン、対処は可能か?」

「王よ。今日、封印を行う事は出来ません。魔石を調達し、明日にでも封印致しましょう」


 王が(うなず)き、短く声を上げる。


「タキオン」

「ハッ! モーリアン様。魔石は、我ら宮廷魔術師が用意します。物の指定があれば、何なりとお申し付け下さい」

「王よ、助かります。ありがとう、タキオン」


 モーリアンさんの礼を聞いたタキオンさんは、嬉しそうな顔を抑えていた。

 その頬が、少しピクリと動いている。

 これは、見て見ぬふりをするべきだな。


「して、明日まで、何処(どこ)で保管する? ミネルヴァ殿、案はおありか?」

「残念ながら。私が保管しても良いですが、叶うならば、白蛇に封印までの保管をお願いしたいですね」

「そうか」


 そう言葉を返し、王は口を閉ざした。

 恐らく、安全と信頼を頭の中で計算しているのだろう。

 ペンネールさんは、口を出したくても出せぬ状況に、ワタワタしている。

 しかし、ミュール様が、淀みの剣の保管を双頭の白蛇に任せたがっているのは、なぜだろうか?

 責任の分散? 役割を与える? 意図は不明だ。

 ミュール様が保管する方が、絶対に安全である。

 だが、ミュール様が保管する場合だと、もう一度ミュール様自身が王都へ来なければならなくなる……魔力が勿体ないのかもしれないな。

 王が、思考から戻ったのは、すぐの事であった。


「ペンネール。淀みの剣の封印までの保管、双頭の白蛇に任せるとしよう」

「は、ハイ。お任せ下さい」

「うむ。ミネルヴァ殿、引き継ぎを頼めるか」

「はい、では、ペンネール学派長、後ほど」

「ミネルヴァ様、よろしくお願いします」


 (とどこお)りなく、物事が進んで行く。

 皆さんが真剣に話し合う中、俺は、完全に置物と化していた。

 物言わぬ石像へと。

 元より、話し合いに参加する理由もないので、別に問題は無い。

 少々、所在ないだけだ。

 俺は、独り構わずお茶を飲む。

 飲み干さぬように、少しずつ口を(うるお)わせていく。使わない口を。

 俺がお茶を楽しんでいると、タキオンさんが王へ向け言った。


「さて王よ、次が問題となります。封印後、この淀みの剣をどう扱うのか」

「わしの言葉の前に、ミネルヴァ殿に聞くべきだろう」

「ありがとうございます。では……我らフクロウの瞳の主張は単純です。発見、確保を行った我々の所有物として扱うのが、妥当だと考えています」


 ミュール様の言葉に、タキオンさんもペンネールさんも動かない。

 二人とも王の言葉を、待っている。

 恐らくだが、フクロウの主張通りには通らない。

 それが分かっていて、ミュール様は権利を主張しているのだろう。

 そもそも、ミュール様の意思は、独占ではなく協力である筈だ。

 独占したいだけならば、モーリアンさんと直接話をつけ、封印と管理に関わる人数を少なくすればいいだけだ。

 ミュール様の意を汲み取ってか、王が皆へ告げる。


「所有するのがフクロウであるのは、問題ない。運搬を考えれば、ピュテルの町から動かすのも難しいものだな。ミネルヴァ殿、研究を願い出る者がいた場合、受け入れる事は出来るかな?」

「白蛇、王宮、各二名。合計四名までならば」


 初めから、そのつもりと言わんばかりに、王もミュール様も言葉を(つむ)ぐ。

 予定通りと今現在の決断の差を、俺には読み解けない。


「よろしい。ペンネール、タキオン。屈託のない意見を」

「志望者を(つの)れば、二名では足りぬでしょう」

「白蛇としても、研究を望む人は、もっと多いと思いますので、申し訳ないのですが、もう少し人を受け入れて貰えないかと」

「残念だけど、フクロウとしては、外部の者を増やす訳にはいかないの。魔法を研究する者なら、理由は分かるでしょう」


 人が増えれば、秘密が漏れる可能性が生まれる。

 魔法とは、秘匿すべきものである。その術も、力も。

 俺の様な適当な奴が、魔術師として珍しいのだ。

 その後も、三人の押し問答が続いた。

 王とモーリアンさんと俺は、我、関せずとお茶を飲んでいた。

 お代わりも頂きながら……。

 結局、ミュール様が折れる事は無く、タキオンさんとペンネールさんが断念することで幕が下りた。

 その後も、細々とした取り決めが続く。

 やれ、研究の割り当てだの、持ち運びの制限など細かく、細かく……。

 果たして、俺が来る必要が本当にあったのだろうか……お茶を飲みながら、疑問がぐるぐると頭の中を駆けまわる。

 王はずっと三人のやり取りに耳を傾け、考え事をしている様子であった。

 モーリアンさんは、淀みの剣を見ながら、その力の把握に努めている。

 俺は、変わらずお茶を飲み続けるだけだ……。

 話し合いは、昼まで続き、ようやく解散の運びとなった。

 俺にとっては、こういう話し合いよりも、野を駆けている方が性に合ってるな。

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