4.二人のお出かけは
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この町、ピュテルの中央には小さな丘があり、その上には大きな聖堂がある。
町の名と同じピュテル大聖堂。そこが俺とアムのデート先だ。
まぁ、大聖堂自体に用があるわけではない。
その地下にある遺跡が俺たちの目的地だ。遺跡の名前は何だっただろうか? いつもダンジョンと呼んでいるので忘れてしまった。
この町の冒険者たちが受ける依頼の三割は、ダンジョンに潜ることになるため、俺にとっても馴染み深い場所である。
「どうしたんだい?」
「三日ぶりだと思っただけだ……いや、いつもはもっと短いか……」
「普通は、そんなに潜らないけどね」
アムが、呆れたようにぼそりと呟く。
依頼によっては一日に何度も訪れたこともあった。
俺が冒険者であったことを知らなければ、足しげく大聖堂へ向かう敬虔な信者か何かと思うだろう。そして、また来ている。
俺、冒険者辞めたはずなのにな……。
正面まで着いた俺たちを、大聖堂が迎える。
大聖堂の首が痛くなる程の高さとまばゆい白さに、俺は毎回のこと威圧感を覚える。大聖堂に来訪する人々にとっては、反対の事を感じるのだろうか?
正面には用がないので、裏手に回る。
そこには、大聖堂に比べるとこじんまりとした建物があり、その中が遺跡入口となっている。
「さっさと行こう」
「どうしたんだい?」
「ちょっと、会いたくない奴がいるんだよ」
大聖堂にいるあいつに捕まると、時間が取られる。
俺は、足早に遺跡入口へと逃げ込んだ。
ふぅ。今回も見つからずに済んだようで助かった。
「そんなに嫌いな相手なのかい?」
「苦手なだけだ」
「へぇー。気になるなぁ」
悪戯そうな笑みを浮かべる姿は、アムの美男子っぷりをより際立たせている。
こいつのファンが見たら、さぞ喜ぶ光景だろうな。
「どうでもいいだろ。さっさと――」
「おう、マル坊じゃねぇか。今日も精が出るな」
俺の声を遮り、男が大声を上げながら近付いてくる。
アムから音へと視線を向けると、そこには四十半ば程の筋骨隆々な男がいた。
胴、小手、具足に金属防具を付け、室内には不釣り合いな長い鉄槍を携えた、そのいかにも戦士然とした彼は、この遺跡入口の番兵である知人のゴンさんだ。
「こんちわ、ゴンさん。今日はタダ働きだよ」
そう言いながら俺がアムを指差すと、ゴンさんが一つ頷く。
「ああ、フクロウの所の嬢ちゃんか。いや、坊ちゃんだったか?」
「はいアムです。それと、どちらでも構いませんよ。これが許可証です」
「マル坊の連れなら必要ねぇけどな」
アムの差し出す許可証をしっかりと確認しながら、ゴンさんはガハハと笑う。
ゴンさんは、いい加減なことを言いながらも、仕事には真面目な人だ。
「いやいや、俺、もう冒険者辞めたから。顔パスじゃ駄目だって」
「知ってるぜ。ギルマスの目の前で、カード燃やしちまったんだってな。ハハハ。あんなクソギルド、縁切って正解だぜ」
「って、知ってて言ってるのか。てか、何で俺が冒険者辞めたの、みんな知ってるんだ?」
「何でってマル坊……」
ゴンさんとアムがお互いを見ながら「なぁ」「ねぇ」と意気投合している。
俺には、さっぱりわからない。
「まっ、気ぃ付けて行って来いよ」
遺跡に入る俺たちを見送るゴンさんの言葉に、軽く手を振り返す。
うん、やっぱりわからん。
「で? アム。何階層まで行くんだ?」
「五階層。マルクにとっては散歩みたいなものだろう」
「散歩ってお前なぁ……危険なのは変わらないんだぞ」
ここダンジョン第一階層は、大聖堂を管理している教会によって封印が施されており、安全である。危険な生物は生息していないしモンスターも出ない。
まぁ人間に襲われる可能性は、ゼロではないけど。
しかし第二階層より先は、当然のようにモンスターが現れる。
低階層で遭遇するモンスターは、油断しなければ新米冒険者でも死にはしないだろう。が、逆を言えば、油断すれば怪我ではすまない。
初めてダンジョンに潜った冒険者が帰路に油断をして、緑肌のゴブリンに不意打ちをくらうのは、通過儀礼のようなものだ。
「魔石採集に何度も潜っているから、大丈夫さ。僕も学派の一員だってマルクは知っているだろう」
魔法学派『フクロウの瞳』
彼らはこの町を拠点とし、魔法の学び舎の運営、魔術師の育成と魔法研究、魔道具の作成等を取り扱う団体である。
アムは、学び舎からそのまま魔法研究のため、フクロウの瞳に入り、特に羊皮紙に魔法を封じ込める、スクロールの研究を行っている。っだったかな?
俺もアムも子供の頃、母に魔法を叩き込まれていた。
その時から、アムの魔法の才は折り紙付きだから、本当に大丈夫なのだろう。
だが、モンスター相手に共に戦ったことは、未だ一度もない。
アムの実力は、直接見て確かめるしかないだろう。
「わかった。けど、油断だけはするなよ」
「フッ。君に無様な姿は見せないさ」
赤い髪を揺らしながら余裕を見せるアムに、俺は一抹の不安を覚えた。