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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十章

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468.黒い炎帝竜

 駆ける俺を、炎が追う。

 空から吐き出された炎は、地面を焼き、広がる。

 燃え上がっていた建造物は、まるで溶けるかの様に、その形を失い続けていた。

 やはり、ただの炎では無い。


「≪魔力(まりょく)(やり)≫」


 俺は足を動かしながら、薄紫色の二十の槍を、空中に展開した。

 回避を続けながら、空の黒い竜へ狙いを定め、放つ。

 上方へ向け飛翔する槍の多くは、炎に飲まれ、消えてしまう。

 だが、四本の槍が、羽ばたきを続ける黒い竜へと命中した。

 二本の槍は、蝙蝠型の翼を貫くも、胴と足に命中した槍は、浅く、傷つけたに過ぎない。表面の黒い鱗が、硬すぎるのだろう。

 そして、胴と足に(わず)かに刺さった槍が、炎に包まれて消えた。

 青い魔力の塊たる液体を、地に向け垂らしていた傷口が、瞬時に塞がる。

 単純な槍を放っても、効果は低そうだ。

 今の様に、黒い竜が、羽ばたきながら滞空し続けるのならば、槍を放ち続けるだけでもいいだろう。だが、相手は当然動く。

 そして、俺以外を標的にさせる訳にはいかない。

 それに、現状、目的は討伐ではない。

 しかし、空に居る相手に、どう対処する?

 獣王の跳躍で、飛び込めない高さではない。

 だが、空中で戦おうにも、足場を焼かれ、落下するのが必定。

 魔力の壁をぶつけて叩き落す? 効く想像が浮かばない。

 体を動かしながら、アレコレ考えるも、策は思い浮かばない。

 だが、考える時間は、そこまでだった。

 羽ばたき、滞空していた黒い竜が、急降下する。

 俺を目掛け。

 俺を圧し潰すかの如き速度で降下した黒い竜が、視界を埋め尽くす。

 が、風を地に叩き付けながら、黒い竜は空中で止まる。

 黒い竜の行動を理解するよりも早く、俺の体は動いていた。

 地を全力で蹴りつけ、その身を地面へ飛び込む。

 宙に浮いた俺の体が、地面に触れるよりも前に、俺の後方で、弾ける音がした。

 地を転がり、黒い竜を見て、俺は、事を理解する。

 羽ばたく翼、(むち)の如くしなる尾、一直線に抉れた地面。

 尾の一撃だ。

 黒い竜の開いた口が、赤く染まっている。

 

「≪獣王(じゅおう)跳躍(ちょうやく)≫」


 咄嗟(とっさ)に呪文を唱えていた。

 言葉の最中も、黒い竜の口から吐かれた炎が、地面に広がり、俺の体を包む。

 呪文を唱え終え、俺の魔力が魔法へと変わり、地を弾いた。

 跳び上がる力は、瞬時に俺の体を空中へと運ぶ。

 炎を脱し、黒い竜よりも上昇した俺は、黒い竜を見下ろす。


「≪(かぜ)(はね)≫」


 落下を始めた俺の体を、魔法の風が包み込み、落下の速度を落とす。

 風の羽は、空中での落下速度調整と姿勢制御を行う為の魔法だ。

 俺は、緩やかに落下しながら、黒い竜と睨み合う。

 炎の中でも、息は出来た。魔力が焼けても、身は焼かなかった。

 これは、炎帝竜の加護のお陰だ。

 炎への守りは、十分か……。

 

「≪魔力(まりょく)(かべ)≫」


 空中に生み出した薄紫色の壁へ着地し、そのまま蹴り、再び空中へと跳ぶ。

 向かうは、黒い竜の真上。

 空中を跳びながら、俺の口は呪文を紡ぐ。


「≪氷結(ひょうけつ)の――」


 俺が跳躍に使った魔力の壁を、炎が貫く。

 俺は風の羽の力を絞り、ほぼ自由落下の状態で、黒い竜の背へ向け、落ちた。


「――投擲槍(とうてきやり)≫」


 俺は、落下しながら右手に氷結晶を生み出した。

 それは、瞬時に長く、穂先の鋭い一本の青白い槍へと変化する。

 生み出した青白い槍を両手で持ち、俺は落下しながら、空中を薙いだ。

 もちろん狙ったのは、空中ではない。

 俺を狙い、動いていた尾を切り裂く感覚が、両手に伝わって来る。

 弾ける様に、軌道を変えた尾が、凍り付いていた。

 俺は、尾の行方を追わず、氷の槍を、真下へ向けた。

 落下に身を任せ、黒い竜の背に氷の槍を突き立てる。

 氷の槍が、黒い鱗を貫き、黒い竜に侵入していく。

 同時に、その表面が凍り付き始めた。

 このまま、深くまで――駄目だ。

 俺は直感に従い、槍を抜き、竜の背を蹴り飛ばす。

 再び空中に躍り出た俺の体が、赤く燃え上がった。

 俺は呪文を唱えながら、氷の槍が溶け切る前に、右の翼へと投擲した。


「≪魔力(まりょく)一撃(いちげき)≫」


 生み出した魔力の塊を、黒い竜の背を真上から叩き付ける。

 凍る尾と、背。そして右の翼。

 背を叩く魔力。

 ()しもの黒い竜も、地へ向かって、落下を始めた。

 俺の体を包む炎は消え、黒い竜からの攻撃も、この瞬間は無い。

 だが、そのまま地に落ちる黒い竜を、(ほう)けながら眺める余裕などない。

 風の羽で姿勢制御しながら、落ちる黒い竜へと向き直りながら、口を動かす。


「≪(こおり)(やり)≫」


 地と衝突し、轟音を立てる黒い竜。

 その凍っていない左の翼へ向け、二十の簡素な槍を降らせる。

 降り注ぐ氷の槍は、翼を穴だらけにし、凍り付いた翼を地に縫い付けた。

 だが、所詮(しょせん)一時的な物でしかない。


「≪魔力(まりょく)(かべ)≫」


 俺は、空中に足場を作り、黒い竜の前方へ向け、走った。

 走りながら、この身の内に、魔力を高める。

 決定打となる氷結の槍を、準備する為に。

 ムウの放つ魔法を今一度、思い起こし、自らの槍と、想像を重ねる。

 炎の竜すら凍らせる、一撃を。


「≪氷結(ひょうけつ)投擲槍(とうてきやり)≫」


 俺は、足場から飛び降りながら、黒い竜の真上に、氷結晶を生み出す。

 落下する俺よりも早く、氷の槍へと変化した魔法は、閃光となって、黒い竜の翼の間を貫いた。

 風の羽で姿勢制御だけ行い、地に落ちた黒い竜と対峙する。

 凍り付く体と、長い首の先で俺を睨みつける縦長の黒目。

 黒い竜の翼は、既に炎を(まと)い、氷結の束縛から逃れていた。

 俺は、黒い竜の首元へ向け、真っ直ぐに走る。

 討伐なら、魔法を放ち続けるだけで良かった。

 だが、目的は、首元の黒い剣を抜く事だ。


「≪魔力(まりょく)≫よ」


 右手に魔力を(まと)わせながら走る俺へ向け、黒い竜の大口が動き出した――瞬間、地面から生まれた木々が、黒い竜の首を捕え、地面に縛り付けた。

 ありがとう、テラさん。

 俺から遠ざけるように、長い首を絞め付けていた木々が、燃える。

 その横を走り抜け、俺は、黒い竜の首元の剣へ右手を伸ばし、剣の(つか)を掴んだ。

 俺の全身が、赤く燃え上がり、俺の魔力を削り始める。

 が、そんな物に構っている暇はない。

 黒い竜へ衝突する様に止まり、黒い剣を引き抜く為に、力を入れた。

 黒い竜が、咆哮を上げる。

 痛みか、怒りか、俺には分からない。

 構わず俺は、黒い剣を竜の身から離すべく、動く。

 黒い剣が、竜の体に喰らい付くかのように、抵抗する。

 それを、俺は右手の魔力に全力を込め、強引に動かした。

 徐々に黒い剣が、竜の体から姿を見せ始める。

 俺は、歯を喰いしばり、背に、腕に、足に力を込め、失う魔力の虚脱感に抗う。

 魔力を焼かれようとも、剣を抜く力は、緩めない。

 曲線を描く細い剣身が半分程抜けると、抵抗を止めたかの様に、スッと抜けた。

 黒い刃が、全て露わになった。

 俺の右手の中で、(うごめ)きを感じる。

 だが、今は、足を動かすべきだ。

 (きびす)を返し、全力で駆ける。

 既に、テラさんの魔法、精霊樹の牢獄は燃え、消えてしまっているのだから。

 走り、離れる俺を、その大口は襲わなかった。

 距離を取った俺は、黒い竜へ向き直る。

 やはり、炎帝竜さんは、表情豊かだ。

 その黒い姿は、そのままであるが、少し細めた目から、その優しさが伝わる。

 これは、先程まで破壊の限りを尽くしていた、竜の表情ではない。

 炎帝竜さんの、顔だ。


「炎帝竜さん、意識は?」

「ある。マルクよ。迷惑を掛けたな」

「いえ。御無事で何よりです」


 頭の中に響く渋い声に、言葉を返す。

 無事で……良かった。

 黒い剣を抜いたとしても、どうなるかなんて分からなかった。

 こんなの、ただの賭けだ。

 それでも、その声を聞けば、命を懸けた事なんて、どうでも良くなる。

 お互い、無事であったのなら。


「心よりの感謝を。これで我は、炎帝竜として死ぬことが出来る」

「え? 何を?」


 炎帝竜さんの言葉に、その黒い体を見る。

 魔力は、まだ満ち満ちているし、死ぬ気配など微塵もない。

 それなのに……何故(なぜ)

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