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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

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44/1014

43.テーベ平原の戦い~始まり~

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし

「みなさん、ホークマンが来ます。我らフクロウは、砦の上から魔法で攻め立て、一匹たりとも抜かせぬつもりで」

「はい」

「ドム、テガー、俺たちは弓だ。シャラガム、サラス、二人はまとめてぶっ殺してやれ。学派の連中に負けんじゃねーぞ」

「「「おう」」」「了解よ」


 元テーベ村に作られた砦の中で、オルケインとバルザックの指示が飛ぶ。

 計十五人の調査隊の内、戦力になるのは、彼ら二人を合わせても十人。

 一人は、早打ちの使者として。

 もう一人は、その後を追うようにピュテルの町へ向かった。援軍を呼ぶために。

 魔術師二人は、砦を作るのに魔力を使い果たした。

 一人の魔術師は、ダークハウンドの姿をした黒い影、その群れを殲滅するために、魔力を空にした。

 ダークハウンドの襲撃は、夜の闇に紛れて行われた。

 バルザックは思う。砦が無ければ、魔術師の作る光が無ければ、波のように次々襲い掛かってくる黒い影に、そのまま数の暴力でやられていただろう。あぁ、守るものがある戦いは苦手だ。と。

 今、彼らはそれぞれ配置につき、ホークマンが射程に入るのを待っている。

 その時、彼らは、不思議なものをみた。

 遠く、さらに遠く。平原の真ん中に人が――




「≪(かぜ)(はね)≫」


 俺は落下しながら、自分とアムに魔法を掛けた。

 風が俺たちを包むように流れ、俺たちの落下速度が緩やかになる。

 ミュール様は、優雅に浮いていらっしゃった。魔法を使った様子もない。

 何でもありか? あの人。


「古代魔法をポンポンと!」

「アム、周りを見ろ」


 空中から見ているからか、よく状況が読み取れた。

 西には、確かに『黒く異様』であり”影のように黒い”モンスター達が、平原一面に広がっていた。

 奴らの動きが、黒い波のように見える、

 東には黒いホークマンの群れが見え、もう少し遅ければ、砦は戦いの最中であっただろう。

 村の跡には、急造したとは思えない程の立派な砦があった。土の魔法で作られたであろう砦は、ホークマンでも、上から攻めるのは難しいだろう。


「アムは、砦の守りを頼む」

「ホークマンの群れを突っ切れと言うんだね。相も変わらず手厳しい。で? マルクはどうするんだい?」

「とりあえず、蹴散らしてくる」


 つま先から、そっと地面に足をつける。

 低い位置からだと、黒い壁が迫ってきているような錯覚に陥る。


「危なくなったら砦に逃げておいで。僕が君を守ろう」

「ハハハ。その時は、頼む」


 俺は西へ、アムは東へ駆ける。

 アムなら大丈夫だろう。少し心配ではあるが、大いに信頼している。

 能力ではなく、その人の在り方を。

 もし、アムが危険に陥るならば、全てを捨てて担いで逃げるとしよう。

 ウェアウルフの黒い壁は、まだまだ遠いが……相手の距離で戦うなんて、やってられない。

 大群相手で敵の射程距離で戦うということは、敵の数の乗数分の攻撃が、こちらに飛んでくるということだ。

 いくら鍛えた人間でも、死は免れないだろう。

 鍛えれば死に(がた)くなるだけで、死なないわけじゃない。


「ここは、平原。火の魔法も使い放題。ならば」


 まずは、盛大にやろう。

 イメージするのは風、平原全てに吹き抜けるような風。

 草を薙ぎ、木々を揺らす、そこに立つ者を押しのける風。

 そして風に与えるは炎の力。火精霊の加護、一面の炎。

 何一つ残さない。広がれ、広がれ。

 込められるだけの魔力を魔法に込める。制御には失敗しない。


「汝に触れるものに、炎の制裁を――」


 イメージを強固にするために、言葉を放つ。

 周囲にはもう俺の魔力が張り詰めていた。解き放て、解き放て、と。


「さぁ、吹き荒らせ。≪火精霊(ひせいれい)(あらし)≫」


 俺の背を押すように、風が吹いた。

 解き放った魔法が、周囲の色を書き換える。

 魔法の風に触れた草が、木が、石が燃えて消えていく。

 それは、迫りくるウェアウルフの黒い影も同様であった。

 緑が赤に、茶が赤に、白が赤に、そして黒も赤に染まっていく。

 燃える、燃える、燃える。景色全てが赤く燃える。

 悶えるように、ウェアウルフ達が暴れ、倒れていく。

 ただ俺は、立ったまま結果を見ているだけだ。己の魔法の生み出す結果を。


「マルク。人のいる時に使っては駄目よ」

「わかっています」 


 ミュール様の忠告は(もっと)もだ。

 そう、無差別攻撃魔法なんて人のいる場所では使えない。

 だが、大群相手ならば、目に見える全てを焼き払って良いのなら……。

 助っ人以外の依頼は、独りでこなしていたのだ。

 群対策の魔法一つ覚えていないのなら、もっと苦しかっただろう。

 敵が個としてタフな存在であれば、この魔法は役に立たないだろうが、相手がウェアウルフならば、これで十分だ。

 ウェアウルフは、狼のような人型のモンスターだ。

 体躯は人のそれであるが、全身の灰色の体毛と獣じみた手足、狼そのもの顔。

 人よりは、狼に近い印象を持つ。

 鋭い爪と牙は狼同様に恐ろしいものだが、毛は守りにならず、打たれ弱いモンスターである。

 ダンジョンでは、低層の十五階層辺りで目撃されることが多かったか。

 視界には、既にウェアウルフは一体も残っていなかった。

 草も木も燃え、地面が剝き出しになっている。

 ここが緑、萌える草原であれば、炎上はもっと酷いことになっていただろう。

 だが、燃やせるものが無くなったのなら、炎はそこで止まる。

 踏み消されても、止まる。

 遠くで燃える草を踏み消しながら、オーガの影がこちらに迫っている。

 黒い壁のごときモンスターの群れは、当然消えたわけではない。

 オーガは、高い耐久性を持っている。

 火精霊の嵐では、致命には程遠い。

 ヘヴィオーガと違い、オーガの間合いに入っても死にはしないが、今回は群れが相手だ。一度組み付かれると、死が見える。

 ならば結局の所、俺がやれる事は一つだけ。

 遠距離から焼いて、焼いて、焼いて、下がりながら焼くだけだ。


「魔石は私が回収しておくから、心配しないで」

「ありがとうございます」


 そんな心配はしていないのだが、礼は言わねば。

 気が付けば、倒したウェアウルフの魔石が一つも落ちていない。

 ミュール様は、変わらず浮いているだけなのに。謎な人だ。




「≪魔力(まりょく)()≫。行け」


 高き女性の声が響く。冒険者サラスの声だ。

 彼女の言葉に従い、生まれた百ほどの魔力の矢が、斜め上へと飛んでいく。

 ホークマンの頭上を過ぎようとしたその時、全ての矢が降下し始めた。

 黒いホークマンに、次々と魔力の矢が突き刺さる。

 一本では致命とならずとも、複数本もその身に受ければ、ホークマンは塵となって消えるしかない。

 地に落ちたもの、消えて魔石になったもの様々だ。


「これでも五体。きっつ」


 サラスは、褐色の肌に浮かぶ汗を手で拭った。


「まだまだ、≪魔力(まりょく)()≫」


 再び、魔力の矢による雨が降り、ホークマンが次々と消えていく。


「何だ? 単純な魔法ばっかで、もうへばったのかサラス」


 砦に近付くホークマンを、矢で射貫きながら、バルザックが言った。


「長期戦だと、そんな大技撃ってられないのよ。それにマルクが来たんだから、へばってられないでしょ。≪魔力(まりょく)()≫」

「だな! 学派の連中も張り切ってるぜ。倒れるんじゃないかってぐらいにな」


 バルザックは笑う。

 砦で戦う全員の目からは、戦う意思が(あふ)れている。

 (わず)か前に起こった出来事を、砦で戦う者、その全員が目撃した。

 一瞬のうちに平野が燃え、ウェアウルフが燃え上がる瞬間を。

 そして、塵となる様を。

 ホークマンの次に砦へと襲撃してくるはずだった脅威が、消えてしまった。

 たった一つの魔法で。

 遠くにいる人間が誰なのか見て取れずとも、ピュテルの町の人間ならば分かってしまう。あれをやったのは、マルクだと。

 そして今、砦から見える彼は、敵の群れへ炎の球を大量に放ちながら、少しずつこちらに戻ってきている。

 オーガの数を減らしながら。

 バルザックは思う。さっさとホークマンの群れを片付けちまおう。早くあそこに行きてぇ、この背の大剣を思う存分振り回してぇ。と。

 バルザックはうずうずしながら、次の矢を放つ。

 強弓から放たれた矢に射貫かれたホークマンは、落ちながら消えていった。

 砦に迫るホークマンは、一体たりとも近付けてはいない。

 全て魔法と矢により叩き落されるか、死んでいる。

 だが、倒しても倒しても終わりが来ない。

 砦にいる者から見れば、黒の密度が減っているので、数が減っているのは理解できるのだが。


「きりがねぇなこれ」

「同感ね」


 バルザックの耳は、遠くから聞こえる小さな声を捉えた。


「さぁ僕の可愛いシルフ。ほんの少しだけ、僕に力を貸しておくれ」

 

 サラスは、流れる魔力を感じ、砦の外に何者かがいることを知った。


「なんだ?」「外?」

「≪風精霊(かぜせいれい)竜巻(たつまき)≫よ」


 呪文は形となり、結果を生む。

 砦の外側。ホークマンの群れの中央に、二つの竜巻が生まれた。

 竜巻は徐々に大きくなり、ホークマンを飲み込み始めた。


「さぁ行くんだ」


 声に従うように、二つの竜巻が右と左に分かれて動き出す。

 横に大きく広がっていたホークマン達を、魔法の竜巻が次々と巻き込んでいく。


「あれ、ただの竜巻じゃない」

「ああ。鳥野郎が切り刻まれてっぜ」


 サラスとバルザックの目の前で、ホークマン達が、次々と吸い込まれるように二つの竜巻に消えていく。

 そして、文字通り消えるのだ。

 そして二つの暴力的な竜巻が、最後の一匹を飲み込み、役目を終えた竜巻が突如として消える。始めから何もなかったかのように。

 竜巻が、その存在した証拠を残したかのように、空から恵みが降り注ぐ。

 ホークマンを倒した証。

 その小さな魔石が、辺りに降り注いでいる。


「僕の助けは、要らなかったかな? 冒険者の皆々様」


 砦の上部にいる二人に向け、飛び切りの笑顔で手を振る者が一人。


「あら。カッコいい」

「助かったぜ坊主」


 バルザックの言葉を否定もせずに、彼女は言った。


「走ってきて疲れていてね。すまないが、誰か門を開けてくれないかい」

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