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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

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41.状況確認とマルクの意思

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝

「こんな朝早くにお呼び立てしたのは、一昨昨日(さきおととい)の事件が少々厄介な事になってしまったので、マルクには、お知らせしておこうと思いまして」

「伝言では、済まない事だったのですか?」

「はい。多くの者に知らせておらぬ情報が、多々含まれますので」

「なるほど。ありがとうございます、ミュール様」


 お互いに笑みを浮かべる。アムの顔は、未だに固まっていた。

 ミュール様が、タルトを手づかみで食べ始めた。

 あぁ、ボウルはそういうことなのか。

 自分で水を出して洗えって事なんだな。

 ならばと俺も、手づかみでタルトを口に運んだ。

 多種類の果実が嫌味なく混ざり合い、酸味と甘みが、口の中で絡まっていく。

 もう少しこの味を楽しんでから、お茶を飲もう。


「喜んでもらって嬉しいです。朝食替わりですので、私の話は、食べながらでもお聞きください」


 今の状態で口を開けると宜しくないので、頭と首で肯定する。


「まず初めに、昨日、王都近隣の村にて、ダークマターが破壊されました」

「なっ! それで!」


 ミュール様の言葉の途中で、飲み込んでいて正解だった。

 口に何か入っていたら、噴き出すところだった。

 ああ、今は、それより話を聞こう。


「安心してマルク。今回ことに当たったのは騎士団で、邪竜やそれに相当する邪なるものの復活も、認められていないの。だから、彼ら騎士団を非難する者はいないわ。あなたの両親への扱いと同じ間違いを犯す愚か者は、もう居ないはずよ」


 問題はそのことではない、と言いたかったが、あの当時の父と母の……依頼後の後悔の表情が脳裏に浮かび、俺は言葉を吐けなかった。

 落ち着くために、お茶をあおる。少し苦い。


「ミネルヴァ様。それはマルクに話すべき事ですか?」


 アムの目が鋭くミュール様を見ている。

 大丈夫、俺は落ち着いているはずだ。


「アム。大丈夫だって。話の途中だよ」


 アムの歯を食いしばるような顔は、久しぶりに見た。

 俺の両親の話は、当時一緒に魔法を習っていたアムは全て知っている。

 父と母は、パーティーを組んでいた仲間達と一緒に、ある魔術師を追っていた。

 そして、その魔術師がダークマターを使い、邪竜を復活させた。

 その非難は、止められなかった冒険者へと向かった。

 事件についての誤情報と意図的な嘘も、それに拍車をかけた。

 特に有名であった父と母の二人は、国を滅亡の危機にさらしたとして、咎人(とがびと)のごとき扱いを受けた。

 それでも父と母は――ハハッ。話を聞こうと言った本人が、考え事をしてどうするんだか。

 俺が考えを止めるのを待っていたかのように、ミュール様が続きを口にした。


「いいえ、余計な話でした。本題に戻りましょう。王都で破壊されたダークマターにより、王都近辺でモンスターの増加が確認されました。現在、ピュテルの冒険者の多くが、王都の事件の処理に動いています」


 ミュール様がお茶を飲み、一呼吸入れた。

 俺は、タルトを食べる気はもうしない。


「そちらは、放っておいても良いので問題は無いのです。学派が抱えている問題はこの先です。一昨昨日(さきおととい)にマルクが捕まえた愚か者の話を裏付ける為に、学派員が調査へ向かったのは、アムから聞いていると思います。そして昨日の夜、彼らから早馬で知らせがきました。テゴの村がモンスターに襲われた、と。そして今日の深夜に、もう一度」

「その知らせとは?」

「『モンスターの群れは、平原を埋め尽くすほどであり、その姿も黒く異様である。現在、バルド男爵領の廃村にて簡易砦を築き、防衛準備を進めており、至急、増援を求む』だそうです」


 ミュール様を見るアムの目が、怒りに満ちている。その感情を吐き出すかのように、アムが立ち上がり、ミュール様に食って掛かった。


「ミネルヴァ様! それは、あまりに卑怯な行いです!」

「あら、アム。私は何一つ、彼に望みも願いもしていないわよ」


 アムが、なぜ怒ってくれたのかも分かる。

 ミュール様が、俺に何をさせたいのかも分かる。

 要するに『最前線に行って、出来るだけモンスターを倒してきてね。あなたの命は知らないけど』『そりゃ酷い話だ』ってことだろう。

 だからアムの言葉が嬉しかった。けど――


「アム、ありがとう。でも今は先を聞こう。ミュール様、先を」


 アムが、普段見せないような乱雑さで椅子に座った。

 やはり、なにか精神に作用する魔法を掛けられているのだろう。

 話が終わったら、解いてもらわないと。

 だが、普段と違うアムのおかげで、少し冷静でいられる。

 ミュール様が穏やかに笑みを浮かべる。この顔が偽りでないと信じたいものだ。


「ええ。彼らは、逃げ伸びた村人たちと共に、テーベ村にて交戦中です」

「テーベって、レッサーデーモンに」

「はい。既に、人は一人もおりません」


 最後の依頼で行った村か……。


「影の大群は、形どるモンスターの速度の違いにより、種類ごとに分断しているそうです。ダークハウンドと(おぼ)しき群れとは、既に戦い終えた後でしょう。敵の後続が、村に築かれた砦に、いつ着くかは不明です」

「援軍は?」

「我々からは百名ほど。何分、馬が足りないもので、移動に時間が掛かります」

「冒険者は……王都か」

「町も放置はできませんので」

「王国軍や領兵は?」

「知らせは出しましたが、時間的に一兵すら期待は出来ないでしょう」


 その調査隊とやらは、フクロウの瞳による援軍到着まで持ちこたえられるのだろうか? あの村までなら、愛馬を無理させれば三時間と掛からないだろう。

 今すぐ行くか?


「短気はやめるんだマルク」

「ええ。馬を飛ばしても、どうにかなる問題ではありませんよ」

「うぐっ」


 何も言っていないのに、二人に釘を刺された。


「お茶のおかわりは、如何(いかが)?」

「いただきます」


 即答し、カップを差し出す。

 するとミュール様が――「≪自然(しぜん)息吹(いぶき)≫よ」――俺とミュール様自身のカップに、お茶を注ぎ入れてくれた。

 カップを受け取り、湯気を潜り、一口。体は冷えるが、心は落ち着く。

 よし。決断は、ミュール様の話を聞き終わってからにしよう。


「ええ、()いても仕方ありません。それに、調査隊はダークマターの破壊を考慮して組みましたので、軽々と倒れるものは一人もいませんよ。Aランク冒険者のバルザック氏もついていますし」


 既に簡易とはいえ、村を砦化しているようだし、実戦派を調査に送ったのは本当のようだ。ダークマター破壊を見据えての編成となると、継続戦闘能力も考慮して組んだのだろう。

 バルザックさんも、モンスター討伐に()けた冒険者だ。

『この大剣で叩き切れねぇ敵はいない』と、本人に直接聞いたこともある。

 彼らは、戦士、戦士、戦士、魔術師、魔術師と片寄った編成なれど、それは一人一人が強者だからできるパーティーだ。

 バルザックパーティー。

 彼らなら、簡単にはやられはしない。

 落ち着いたら、一つの疑問が浮かび上がる。


「テーベ村で迎撃の最中だという話ですが、そもそも、モンスターは何処(どこ)から現れたのですか?」


 ダークマターが関与している事は分かっているが、俺にはそれが何処(どこ)なのか、知らない。


「テゴの村近くの森だと考えられます」

「ならばテーべまでの村々は……」

「一部の民は無事です。ナッツ村は、調査隊が保護しました」


 また村が消えたのか。

 そこでモンスターに襲われ、亡くなった人達は……。

 門外漢が考えても意味がないことは、何度も経験して知っている。はずだ。

 生きている人がいるだけ、良かったと思うしかない。

 頭に地図が浮かぶ。テゴの村から、たしかユラの村か、そしてナッツ村、テーベ村、更に進行方向を伸ばしていくと……村々があり、そして……。

 あぁ、この町も飲み込まれるのか。

 そして、その先の村も。

 王都でのダークマターの話を考えるに、モンスター達の目標は王都なのだろうが、道中のついでで襲われる人々にとっては、(たま)ったものではない。

 もし調査隊の砦が抜かれたら、どうなるのだろう。

 王国兵が出た時には、さらなる惨事が起きた後だろう。

 それまでに、どれだけの人が死ぬ?

 もう、やるべき事は決まった。


「他には何か……特に、モンスターについての情報はありませんか?」

「君が行く必要はないよ、マルク。これは、国の問題だ。領主の問題だ。冒険者の問題だ。学派の問題だ。君が背負うものは何一つない」


 アムから制止の言葉が入った。

 でも、そんなことは重々わかっているんだ。


「だからって行かない理由にも出来ないさ」

「君が行けば、千や万の民が助かるだろうさ。それでも僕は、君を止めるよ」


 アムが心配してくれているのは、大きすぎるほど伝わってくる。


「ありがとう、アム。でも、俺には『行かない』なんて選択肢はないんだ」


 アムが立ち上がろうとした、その時、ミュール様が口を開いた。


「マルク。私も聞きたいことがあるのです」

「ミネルヴァ様、今は――」

「アム。少し黙りなさい」


 アムの口が、パクパクしている。が、声が全く出ていない。

 ミュール様は、そんなアムを見もせずに、こちらを真っ直ぐと見つめ、言った。


「マルク。その想いは、本当にあなたのものなのですか?」

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