39.オルケインの見たもの
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「オルケインさん。それ、何してんだ?」
「ああ、魔道具と魔道具を接続しているんです」
バルザックには、オルケインが、手に持った眼球大の球体を、己の右目に押し付けているように見えた。能力の高い魔術師が見れば、オルケインと球体の間に魔力の流れを感じただろう。
「もしかして、その右目……」
「ええ、魔道具です。普段はここに入ってるだけの、無用の長物ですけど」
「戦いか? 事故か?」
「生まれた時からです。空けておくのも何なので」
オルケインは、手に持った球体を右目に埋め込まれた魔道具から離し、手の平に移した。
バルザックは、何をするのか興味深々だ。
「これで、空から偵察するんですよ」
「便利なもん持ってるくせに使わなかったのは、秘密を知る人間は少ない方がいいってことかよ」
「はい。人の口に戸は立てられませんから。戦争利用されるのはごめんです。≪風はちどりの浮揚≫」
オルケインの唱えた魔法によって、手の平の上にポツンと置かれた球体から、一対の薄い羽根が生えた。
そして、目にもとまらぬ速さで羽ばたき始める。
羽根が、残像で四枚に見える。
手の平の上から、魔道具『鳥の目』が高く浮かび上がり、ユラの村の方向へ飛んでいった。
「バルザックさん。暫く護衛をお願いします。私は目が使えなくなりますので」
「よくそれで、一人で偵察しようとしたな。いいぜ、竜一匹通さねぇよ。ここじゃゴブリンも出ねぇけどな」
オルケインの視界には、鳥の目から見た景色が映し出されていた。
空から地上を見渡す。
広がる平野の先にあるユラの村は、霞んでいて見えない。もっと近付かねば。
鳥の目を先に進めると、村と村を繋ぐ街道に黒い点が、幾数か確認できた。
歩いて逃げている、村人だろうか?
高度を下げて確認する。老若男女合わせて三十人ほど。
ユラの村の人口から考えると少ない。
徒歩で逃げているのは、彼らだけなのだろう。
「ユラの村から避難している人が、三十ほど。全員徒歩です」
「敵の数次第では、こっちから助けに行くべきだな」
「はい。まずはモンスターを視認したい」
モンスターを確認するべく、オルケインは鳥の目を移動させる。
本人と鳥の目が離れれば離れるほど、魔力の消費が大きくなっていく。
ようやくユラの村を確認できるところまで来た。
そして、その光景にオルケインは後悔した。
村の中で、黒が蠢いている。村から逃げようとした村人に喰らい付くソレを見て、蠢く何かの正体が分かった。
「ダークハウンドです。ダークハウンドが村人を……」
「ダークハウンドの群れかよ。足が速いから守りながらじゃ――」
「群れなんかじゃありません。村が……覆い尽くされてます。あれでは生き残りは……」
一体が喰らい付くと、次も、次も、次も、次々と複数のダークハンドが我先にと肉へ喰らう。獲物の全身を食い散らしたダークハウンドが、次の獲物を探すように……ユラの村から飛び出してきた。
ナッツ村へ向かってきている。
「この村に、向かってきています」
「てことはもう……待て、モンスターはそいつらだけか?」
バルザックに問われた意味を理解し、ユラの村から更に奥、テゴの村に向かってオルケインは鳥の目を飛ばす。最大速度で。
「バルザック。避難中の村人は助けに行くのか?」
「無理だドム。ダークハウンドを倒すだけなら、俺たちだけでもイケっが、誰かを守りながらじゃ不可能だ。オルケインの反応を見るに、敵は、そんな数じゃすまねぇよ」
「……わかった。ここを出る準備をしよう」
バルザックパーティーの意思統一は、すぐに終わった。
鳥の目を先へ先へと進めるオルケインの視界には、不可解な光景が映っていた。
鳥の目の性能では、遠くまではっきりは見えない。
が、ぼんやりとなら確認できる。
遠くが、真っ黒だ。平原の緑が映えるはずが――
「一面が黒い……こ、これは何なのでしょう」
鳥の目を更に動かすことで、オルケインには、一面を埋め尽くす黒の正体がわかった。いや、モンスターだと分かってはいた。が、一つ一つがモンスターの形を取った黒い影であったとは、オルケインは考えてもいなかった。
「影です。モンスターの影。影が平原を覆っている」
「影? 何を言っている?」
空を飛ぶ鳥人間型モンスター、ホークマン、の姿をした影。
二足歩行する狼人間型モンスター、ウェアウルフ、の姿をした影。
オーガの姿をした影。オークの姿をした影……。
複数のモンスターの影。
その移動速度の違いにより、自然とモンスターの層が出来ていた。
そして一番奥には……。
「ジャイアント! ジャイアントの影もいます。一つ、二つ……十体!」
黒き大群の光景にオルケインは、ダークハウンドだと思われる影の大群が迫っていることを、忘れるところだった。
オルケインは、魔道具との接続を切り、魔法を中断する。視界が戻り、ナッツ村が、そして、目の前に立っていたバルザックの姿が見えた。
オルケインは頭を振り、意識のずれを直す。
「急いで、調査隊に合流しましょう」
オルケインは、調査隊との合流を急いだ。
ユラの村からの避難民を、救う余裕はない。
魔法を切った魔道具も地に落ち、モンスターの影に飲み込まれただろう。
貴重なものだが、仕方があるまい。
「ああ、準備は出来てる。何を見たかは、道すがら頼むぜ」
オルケインと、バルザックパーティー五人は馬に乗り、急ぎその場を離れた。
一刻も早く調査隊に知らせ、守りを敷かねば。
ピュテルの町に知らせ、援軍を呼ばねば。




