3.嵐は勝手に向こうから
呼び方修正と読みやすいように全体修正 内容変更なし
「で? 何か用があったんじゃないのか?」
口にカブを放り込む。形がほどけ甘味が中に広がっていく。
「無職になった友人を、励ましに来たらいけないのかい?」
「美味いなこれ」
「えへへ。そうでしょー」
「自分から聞いておいて無視って……まぁこれ美味しいけど。あぁ、美味しいと言えばね――」
アムとシャーリーが楽しそうに話をしている。近場に出来た美味しい店の話から始まり、王都の店の話まで話題を伸ばしている。
大衆食堂か、干し肉かじってるかのどちらかという生活の俺には、縁遠い話だ。
大衆食堂の食事も美味いが、シャーリーの料理はさらに良い。焼き色しっかり燻製肉を薄切りニンニクと共に頬張る。噛めば肉が口を支配し、噛めば香りが鼻を刺激する。うん、パンが欲しくなる……小麦の甘味を堪能する。
ああ、次はスープだ。
「ねぇ? お兄ちゃんもそう思うよね?」
突然の振りに、何の話かと戸惑う。たしか食事処の話だったよな?
「よくわからんが、シャーリーの料理の方が美味いと思うぞ」
二人が、ジト目で見つめてくる。
「ごめん、聞いてなかった」
「もう、ここに飾る花の話なのに。もういい。勝手に決める」
「マルク。女の子の話は、しっかり聞いていないと駄目だよ」
「うん、すまん」
何時の間に、そんな話に飛んでいたのだろうか?
聞いてなかった俺が悪いのだが。
食後もシャーリーは、俺に指をビシッと向け「お兄ちゃんは座ってて!」とぷりぷりしながら片付けに行ってしまった。
「ここ俺の家なんだから、片付けぐらいさせてくれよ」
「マルクの世話ができて嬉しいのさ。自由にさせてあげるといい」
くすくす笑いながらアムが言う。一体何が面白いのやら。
俺の視線に返事がくる。
「シャーリーと君を見ていると、楽しくってね」
「何も言ってねー。アム、笑ってないで早く用事を言え」
「心配で様子を見に来たのは、本当さ。マルクが冒険者を辞めた、なんて聞いたらね。個人的には、君があのギルドに居続けるのは反対だったから、嬉しい知らせでもあったけど」
「そういえば前から言ってたな」
「”おにいちゃん”は、聞いてもくれなかったけどね」
「冒険者を――いや、町を出たくなかっただけさ。てか”おにいちゃん”言うな」
たとえアムとシャーリーが同い年で、俺の二個下であっても、こいつから呼ばれる”おにいちゃん”は、何かが違う。
「やっぱり僕には厳しいんだ……へこんじゃうね」
「だー、もう茶番はいいから本題に入れ、本題に」
「照れてるのかな? せっかちさんかな? フフフ……まぁいいか。本題と言っても、ちょっとした依頼を一つ頼みたかっただけなんだ」
「昨日、冒険者辞めたばかりで、もう仕事の話かよ」
「そう。二人っきりのデートのお誘いさ」