38.一冊の本と緊急事態
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さて、母が指から直接お茶を出していたのは、思い出した
だが、方法は分かっても、中身が全く分からない。
その前に、先に一つ覚えねばならない魔法がある。
植物生成の魔法を習得しなければ、お茶を出すなんて不可能だろう。
今日は、母の部屋で、魔導書漁りの続きをすることにした。
調べる内容が昨日とは違う。
何か成果が上がればよいのだが……あった。すぐに見つかってしまった。
『ザザーランド伯爵による植物生成の始まりと世界樹へ至る道の考察』
でもこれ……魔導書なのか? 母がここに置いていた蔵書ということは、そうなのだろうが……とりあえず読んでみよう。
『全ては土に触れ、その命を感じ、土を食み、その質を感じ、土を嗅ぎ、』
一度、本を閉じてみた。なんだろうこれ?
ふぅー。もう一度、開く。
『その時を感じ、土を見て、その壮を感じ、土を聞き、その環を感じろ』
続きを読むべきかどうか……。
まぁ母さんも、冗談で置いている訳ではないだろうし。
今日一日は、これで潰すか。
最後の一文まで読み、俺は本を閉じた。頭の中で、内容を整理する。
始まりは農夫の物語であった。
が、それは伯爵そのもので、不作に悩む領民達を助けるための、一計であった。
不作を乗り越え、農地改革を進める伯爵が出会ったのが、森の民と呼ばれる部族? の一人である、美しき魔術師であった。
彼? から、一本の魔力を帯びた不思議な枝を貰い受け……。
「結局、何だったんだこれ?」
不思議な枝の力を使い農地改革に成功した伯爵が、後年、枝を研究し、そこから抽出された技術論が、植物生成の基礎となった。ということぐらいしか、俺には理解できなかった。
少なくとも魔導書ではない。伝記の類だ。
それに、世界樹なんて微塵も出てこないじゃないか。別に俺は、世界樹の事が知りたかったわけでもないので、まぁ良いと言えば、良いのだが。
「まぁ面白かったからいいか」
座りっぱなしだった体を伸ばす。
日の差す角度を見ても、まだ昼だ。
魔導書を読むとなると、こう速くは読み終わらない。
他の本を探すか? いや、昼食を取って、少しは体を動かそう。
この伝記を元の場所に戻す。こうしないと落ち着かない。
「またね」
誰も居ない部屋に、独り呟く。
そして俺は、しっかりと扉を閉めた。
ダークマター発見の知らせが入った夜。
その後、日が出るまでの間にダークマターの調査・捜索を行う調査隊が、ピュテルの町にて組まれた。
ピュテルの町に、ダークマターを持ち込もうとした人物。
その男への尋問により、判明した事実はこうだ。
隣国との境に近い、とある森の中。
大木の傍らに、不自然に落ちていた黒い石。大小合わせて八つ。
その怪しい外形に、それがダークマターであると直ぐに気付いた男は、小さな一つを持って、その場を去った。それですら富を得るには十分であったからだ。
大きければ恐ろしく、多ければなお恐ろしい。
不思議と、森にはモンスターの姿はなく、男が逃げ出す余裕はあったらしい。
その先の男の顛末は、調査に関係ない話となる。
調査に加わったのは、魔法学派から十名。護衛を兼ねたAランク冒険者パーティーが五名。計十五名で調査隊が組まれた。
町からの出立は昼を過ぎ、道中の村で一泊し、さらに彼らは先へ進む。
だが、休憩の為に立ち寄ったナッツ村にて、彼らは驚愕の事実を知った。
「テゴの村が、モンスターに襲われただって!」
テゴの村は、目的地の森に最も近い村であり、調査拠点に決めていた村である。
村から馬で逃げてきたと言う男は、大量のモンスターが、森の方から村に襲撃してきたと言う。そこから男は、次のユラの村に行き、モンスターの危険を知らせ、さらにこの村、ナッツ村に逃げ延びて来たそうだ。
ユラの村からは、男と共に馬で逃げてきた人々もいた。
男の話を信じなかった村人や移動手段を持たぬ村人が、どうなったかなど彼らには分からない。
調査隊には、男の話の真偽を確かめる余裕はなかった。
真実であれば、時間がないからだ。
急ぎ、この村の住人達も避難させねばならない。
ダークマターの影響か否か、大量のモンスターが出現した時点で、調査どころではない。
調査隊のリーダーである四十がらみの男、オルケインは提案する。
一人、早打ちの使者として一番元気な馬を使い、ピュテルの町に向かわせる。
魔術師である自分一人が、状況の確認を行うため、大量のモンスターへ偵察を行い、残り全員で、村人の護衛をしながら、この村に最も近い廃村へ向かう。
村人に余裕があれば、更に先の村へ。
敵の数も、村々の状況も、事の真偽も分からない以上、万が一の際、調査隊への被害は最小限にすべき。
それがリーダーの考えであった。
それに反発したのが冒険者パーティーのリーダーの男、バルザックであった。
彼の主張は、こうである。
村人が多くなるとはいえ、街道を通れば、強いモンスターと出会う可能性は低いこと。さらに学派員八名で村人達の護衛は十分であること。
故に、冒険者パーティーは、共に偵察に向かうべきである、と。
若いバルザックの勢いに押され、オルケインは彼の提案を飲んだ。
これから使うオルケインの魔法を、秘密にすることを条件に。




