表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/1014

37.水とお茶と思い出と

読みやすいように全体修正 内容変更なし

 ダークマターと邪竜事件の話の後も、あれこれと質問を受けた。

 トロルとの戦い方、山の歩き方とモンスターの傾向、持っていく道具の選定、武具屋の紹介、ダンジョン内部の進み方と出現モンスター等々。

 どうすれば強くなるかという質問には、実に困った。

 強い人に稽古をつけて貰って、反復練習。あとは段階的な戦闘経験。

 それしか、俺は知らないからだ。

 一足飛びで強くなれるなら、俺も知りたい。

 後は俺より強いAランク冒険者にでも聞いてくれ、としか言えない。

 そして町の色が変わり始めた時、さらに困った質問がキオから飛んできた。


「先輩。これから、お仕事どうするつもりっすか?」


 うん。どうする? どうする……。

 野良の魔術師として、やっていくか? 

 学派の知り合いに――知り合いレベルなら沢山いる。誰か一人にでも――推薦状を書いてもらって、学派に入れるか挑戦してみるか?

 この屋敷に引きこもって、資金が尽きるまで魔法研究でもするか?

 冒険者ギルドなんて知るか! 精神で、モンスター退治で生計を立てるか?

 いっそガル兄に頭を下げて、従業員として雇ってもらうか?

 リンダさんに頼み込んで、道具屋の売り子をやらせてもらえないだろうか?

 どうする……どうする……。


「先輩! マルク先輩! 大丈夫、きっとなんとかなりますよ」


 ワコが、励ましの言葉をかけてくれる。

 気が付くと、キオが頭を抱えて、机に突っ伏していた。

 キオの事は、気にしないでいいか。


「ありがとう、ワコ……うん、なんとかしてみせるさ」


 グルドンとゼノリースも、必死に首を縦に振っていた。

 そして、キオパーティーとの座談会は、日の落ちる中、お開きとなった。




「ごちそうさま」


 ジョッキを空にして、ひと息つく。今日の晩御飯も美味しかった。

 クスクスなる小さな粒は、初めて食べた。何やら小麦粉から作られるらしいが、店長は、何処(どこ)から料理を学んでいるんだろう。

 焼いた挽肉に、蒸したクスクス。

 周囲を彩る野菜の上から、豪快にスープをかける。

 野菜の味がしみ出したスープとクスクスの相性が、実に良かった。


「サンディ。今日も美味しかったよ」

「お父さんに伝えておくね」

「そうだ、サンディ。もう一つ、空のジョッキ持って来てもらっていい?」

「ん? どしたの?」

「いや、俺の水を美味しそうに飲む子がいてな。サンディに味見して欲しいんだ」

「そのジョッキでいいよ。実は私も、マルクの魔法の水、飲んでみたかったんだ」

「≪(みず)≫よ。はい、どうぞ。これ、俺としては普通の水だと思うんだけどね」


 ムウに出したものと同じ魔力たっぷりな水を魔法で出し、ジョッキを満たす。

 受け取ったサンディは「いただきます」とジョッキに口を付け、喉を鳴らした。


「ぷはぁぁ。冷たくて美味しい」

「そうなの?」

「個人的には、すっきりし過ぎでちょっと味気ないかな? 魔工石の水より美味しいけど、自然の水は、もっと美味しいよ」

「まぁ魔法で作った水だから、自然の物には勝てないよ」


 やはり魔工石の水とは違うのか。俺の味覚の自惚(うぬぼ)れでは無かったらしい。

 ジョッキを卓に置いたサンディが、手を開け閉めしている。


「その子って魔術師? なら、そのせいかな」

「ん? 魔術師だと、味覚か何かが変わるのか?」

「違うよ。私も魔法ちょっとだけ使えるから分かるけど……その……体の中に、マルクの魔力が染み込んでいく感じがするんだ」


 むずかゆそうにサンディは、体をくねくねする。

 体の中に他者の魔力……赤色ポーションの不味さと異物感を思い出してしまった。


「あーすまん、他人の魔力って気持ち悪いよな」

「ううん。変な感じだけど、気持ち悪くはないよ。ちょっと温かいし」


 もっと美味い不味いの評価が出ると思っていた。

 はにかむサンディを見て思う。

 うん。客人に、魔力たっぷり水を出すのは、もうやめておこう。




 今日も、あとは寝るだけだ。が、寝るにはまだ早い。

 探したい魔法が有ったので、今日も母の部屋に向かう。

 今日、キオ達に邪竜の話をしたせいで、当時の意識が頭に残ってしまっている。

 あの事件の時に被害なく済んだのは、母の部屋だけだった。

 図らずも”部屋”から”侵入者”を守る罠のおかげで、母の部屋は荒らされなかった。

 無理にこじ開けようとして罠に掛かった盗人は、腕一本駄目になったらしいが、腕程度ですんで助かったと思って欲しいものだ。

 この家の……それ以外の物は、俺が冒険者として稼いだお金で、コツコツと買い足したものばかりで、昔の面影なんてものは、一つも残っていない。

 あぁ、探し物があったんだった。早く母の部屋に入ろう。

 俺の魔力に反応して、扉は開くようになる。

 他の誰かだと、扉が開かない。

 さてと、気を取り直して、魔導書(あさ)りを始めますか。

 と、意気込んでみたものの、いくら探しても望みの物は見つからなかった。

 魔導書に残すほどの魔法では無かったのだろうか?

 俺が子供の頃にも、家に茶葉があった記憶がない。が、家ではお茶が出ていた。

 結局、自分で作り上げるしかないのだろうか……お茶を出す魔法を。




 朝食後、シャーリーの淹れてくれたお茶を、口に含む。

 渋みの中に、若い香りがはしゃいでいる。ふぅ……落ち着く。


「なぁ、シャーリー。母さんの出してたお茶って憶えてるか?」

「うん。マリアおばさんがクッキーと一緒に淹れてくれたから。美味しかったよねー。どこのお茶っ葉なんだろうね?」

「それがさ、昔っからこの家には、茶葉がないんだよ」

「それってマリアおばさんの魔法だったってこと? お茶っ葉を出す魔法なんてあるんだね」


 あぁ、俺は、指の先――正確には指の先端のさらに先だが――から水を出しているから、お茶もそのまま出すイメージだったが、茶葉そのものを作り出す方法もあるのか。

 植物を作り出す魔法は存在する。

 それ専門に研究している人もいるぐらいだ。ならば、茶葉を作り出すことも可能なはずだ。が、俺には、圧倒的に知識というものが足りていない。


「あったとしても、俺には難しいかもな……大人しく茶葉を買ってきて、淹れ方を勉強するか」

「だったら私と一緒にお茶を淹れてみない? ねぇ、お兄ちゃん」

「難しくないのか?」


 大真面目に聞いたのだが、シャーリーに笑われてしまった。


「家で飲むのに、そんな難しい事はしないよ。ほら、しよう」


 シャーリーと共に、台所へ向かう。

 彼女の指示に従い、一つ一つやろう。

 多めに水を――「≪(みず)≫よ」――鍋に入れる。

 火の魔工石を使って、火を持続させる。

 こっちも自分でやってもいいが……少し面倒だ。

 ゆったり待っていると、鍋の中の水から気泡がポコリと出る。


「シャーリー。もう――」「もうちょっと」


 黙って待つと、お湯の中で、次々と気泡が現れては消えていく。

 ティーポットに茶葉を入れる。一杯に一匙でいいらしい。


「本当は、ポットもカップも先に温めた方がいいんだけど……別にいいよね」

「お店じゃないしな」


 魔工石を止め、鍋からティーポットへ普通にお湯を移す。

 ティーポットから――「五分ぐらい待ってね」――コップに移そうとした所を、シャーリーに止められた。

 大人しく待とう……。

 茶葉により、お湯がお茶に変わろうとしているのだろう。

 (こぼ)れる香りが、鼻をくすぐる。


『マルク。台所に入ってきちゃ駄目よ。危ないでしょう』


 母は、驚いた様子もなく、いつものように陽だまりの様な笑みを浮かべている。

 母は膝を曲げ、楽しそうに俺の頭をくしゃくしゃと撫でまわしていた。

 日差しに反射した金の髪が、少し眩しい。

 台の上にはトレイが一つ。その上に四つのカップが置いてある。

 カップから湯気が立ち昇り、鼻をくすぐった。

 母は『危ない』と言っているが、火の魔工石も動いていないし、ティーポットも鍋もそこにはなかった。


「お兄ちゃん。もういいよ」


 シャーリーの声で、俺は、幻想から現実に引き戻された。

 ティーポットを慎重に傾け、お茶を二つのカップに注いでいく。

 もうこの時点で、俺の鼻は幸せだ。

 隣のシャーリーも嬉しそうだ。


「よし、一緒にまったりしようか」

「うん。お兄ちゃん」


 あぁ、それとシャーリー。

 母さんは、指からお茶を出してたよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ