表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

351/1014

344.巨人とキオ

「≪魔力(まりょく)(やり)≫……≪魔力(まりょく)(やり)≫……≪魔力(まりょく)(やり)≫」


 モンスターの数も減ってきた。

 見えるモンスターも、厄介なのは、ポイズンスコーピオンぐらいだ。

 あれは大きいとは言え、横からだと当てにくい。

 地面スレスレに槍を生み出して、地を()うように放った方が当たる。

 生み出した二十の槍。それぞれ狙いを定め、放つ。

 飛翔する薄紫色の槍は、地を這うポイズンスコーピオンの正面に一本、そして(はさみ)の付け根を吹き飛ばした。

 残りの槍も、トロルやゴブリンの体に突き刺さり、緑の体を塵へと変えた。

 トロルは、槍で倒すとなると、しぶとくて困るな。

 狙える範囲のモンスターは、全て、魔力の槍で倒す。

 平面で、大量に現れるなら、対処法はこんな単調なものだ。


「ねぇ、お姉さま。どうしてマルクさんは、大きな魔法を使わないのですか?」

「大きな魔法を繰り返すと、極端に消耗するからね。持久戦には向かないのさ」

「細かく敵を処理して、対処する敵の総量を減らすと言う側面もあるのじゃ」


 へぇ、そうなんだ。アムとテラさんは流石に賢いな。

 俺は、これが楽だから、そうしているだけだ。

 モンスターが一列に並んでくれれば、一気に吹き飛ばせるのだけど……同場所で発生し、単一の群れでも来ない限りは、そんな都合よく並んでなどくれない。

 オーガ、オーガ、トロル、ゴブリン……メイジか。

 口を止めずに、槍を放つ。


「じゃが、普通の魔術師は、これほど口は回らんがのぅ」

「冒険者の方々でも、これが普通でない事は、重々承知ですが、更に疑問が一つ」

「何でも言ってごらん、パット」

「フフ、ありがとうございます。マルクさんがまとめて魔法を放たない理由です」

「ん? それは僕も知らないなぁ。テラさんは、知っていますか?」

「むう? わしも知らんのぅ」


 別に大した理由じゃないのだが。

 モンスターの数も少なくなってきたし、散発的に現れるモンスターは、皆に任せるとするか。

 展開した二十の槍を、ポイズンスコーピオンとレッド・イービルアイに突き刺し、俺は、一息入れる事にした。

 左手を大きく振り、休憩の意思を冒険者達に告げる。


「ふぅ。その方が狙い易いからですよ」

「多く放った方が、当たるだろう?」


 アムの目を見て答えたいが、モンスター達から目を話す事は出来ない。

 俺が魔法を唱える代わりに、防壁上から、次々と魔法がモンスターへと飛ぶ。

 山から来たであろうホークマンやハーピーにも、確実に命中させている。

 うん。良い命中精度だ。任せても大丈夫だろう。

 俺は振り返り、三人を見る。

 ふわりと広がる銀の髪の少女、に見える女性、テラさんを。

 短めに揃えた赤い髪をなびかせる美少年顔の少女、アムを。

 今日も前髪が真っ直ぐ涼やかな、青い髪の少女、パトリシアさんを。


「百の矢を百の標的に当てるより、二十の矢を二十の標的に当てる方が簡単だろ。敵は自由に動き回るし」

「あら? 聞けば、普通の事でしたのね」

「やってる事は、普通じゃないけど」


 アムがジトリとした目で俺を見て来るが、気にしたら負けだ。

 皆に退却を促す。


「ほら、一旦引こう。前衛の邪魔になる」

「うむ。お主は、休憩を入れるのじゃぞ」


 テラさんの声と共に、俺達四人は、町へと駆け出す。

 俺達と交代するように、町から冒険者と聖騎士が前衛へ躍り出た。


「マルク。助かった」

「グレッグさん。後はお願いします」

「任せろ」


 Bランク冒険者のグレッグさんと、そのパーティーが前へ出た。

 彼らの後ろには、射手の一団と数名の魔術師が。

 そして石壁の上には、魔力を温存した魔術師が。

 この場は、任せよう。

 俺達は、回復術士のいる門まで戻った。

 走りを緩め、体を休める様に歩く。

 この北側では、怪我人は出ていない。それでも、気を抜いている回復術士は一人たりとも居なかった。士気が高いのは良い事だ。


「お疲れ様です、マルクさん」

「お疲れ様です」


 声を掛けられるたびに、声を返して歩く。

 門に居ても、これは邪魔になるな……もう少し下がるか。


「して、お主らはどうするのじゃ?」

「北門の防衛に戻るとします」

「アム。なら、ここまで下がらなくても良かっただろ?」

「フフッ。お姉さまは、マルクさんの事が心配なんですよ」

「パット」

「あら? 御免なさい、お姉さま」


 仲が良さそうで、実に良い。

 しかし、アムは、中々に心配性だな。

 きっと、俺が休憩を取らずに、またどこかへ行くと思っているのだろう。


「心配は有難いが、俺も休憩を取らない程、子供じゃ――おっ!」

「またじゃな」「ミネルヴァ様」「これが噂の」


 突如、すっと頭に、白いフクロウの重みが掛かった。

 ほぅほぅと癒しの声が聞こえるが、フクロウに声を掛けている余裕は無い。


『ミュール様、どこの救援へ?』

「そこから、東にガルーダが接近中です」

『分かりました』


 俺の返事を聞くと、すぐにフクロウは飛び立った。

 空からの目は、実に有用だ。それに愛らしい。


「という訳で、ガルーダ撃ち落としてくるよ。休憩はその後、≪獣王(じゅうおう)跳躍(ちょうやく)≫」

「待つんだ、マルク!」


 アムの言葉を聞く前に、魔法で、東へ向け跳び上がる。

 地面へと放たれた魔力に反して、俺の体は、素早く、そして高く跳び上がる。

 町を空から見るのは、新鮮である。


「≪(かぜ)(はね)≫、≪魔力(まりょく)(かべ)≫」


 呪文を唱えた俺を、魔力の風が包み込んだ。

 風の羽は、空中での姿勢制御と落下速度を操る為の魔法だ。空中へ跳ぶ時の、必須魔法である。無ければ、落ちて死にかねない。

 そして、空中に足場を作り、着地する。

 はて、ガールダは……いた。一体。だが、まだ遠い。

 ピュテルから見て、北東の山から飛んできている。

 もう少し引き付けて、氷結の投擲槍で落とすか。

 その前に、東側へ近付いておこう。

 東門の援護にも回れるように。


「≪獣王(じゅうおう)跳躍(ちょうやく)≫」


 足元へと放たれた魔力が、足場である魔力の壁を破壊する。

 そして俺は、魔法の力で東へ跳んだ。町を見下ろす暇はない。

 周囲の状況を把握しながら。狙うガルーダを、この目で捉えながら。




 西門にて、一体のジャイアントが雄叫びを上げていた。

 北西よりふらりと現れた一体のジャイアントの姿を、キオは、視界に捉えた。

 キオは、初めて見たその巨体に、驚きと恐怖を感じていた。

 自身の三倍をも超える身の丈。太い腕。その先に持った一本の大棍棒。

 のっぺりとした顔に、薄桃色にも近い肌。

 草原に際立つその姿は、異質としかキオには思えなかった。

 キオは、ジャイアントから目を離し、接近するリザードマンを見据えた。

 丸盾を構え、リザードマンを待つ。

 リザードマンが接近と同時に、曲刀を振り下ろした。

 曲刀を、丸盾で弾いたキオは、踏み込み、リザードマンの腹を裂く。

 一度引いた剣を、怯むリザードマンの胸元へと刺し入れた。

 塵と変わるリザードマンから距離を取ったキオには、異質な巨体へ目を向ける。

 キオは、ジャイアントの動向が気になって仕方が無かった。

 魔術師達の攻撃範囲に入ったジャイアントに、魔法の矢と槍が次々と突き刺さる――が、怯みはすれど、その歩みは止まる事は無かった。

 むしろ、歩みが走りへと変わり、町へと急速に接近を始めた。

 走るジャイアントに幾十もの魔法が飛ぶ、が、真っ直ぐに町へと突撃するジャイアントは、止まらない。

 ジャイアントの前方、町の正面を守っていた冒険者が、跳ねる様に吹き飛ばされた。一人、二人と。


(っ!! このままじゃ不味いっす)


 吹き飛ばされた先輩冒険者達の状態を確認する余裕は、キオには無かった。

 ジャイアントの動きは、緩慢になっている。だが、その正面を守る者が一人も居ない。そのまま進めば、魔術師が、町が危ない。

 キオの体は動いていた。

 ジャイアントへ向け、真っ直ぐに。

 キオは、走りながら剣と盾を打ち鳴らし、己の存在を主張した。


「こっちっすよ!」

 

 ジャイアントの顔が、キオへと向いた。

 足を止め、キオはジャイアントを睨み返す。

 Dランク冒険者の自分に何ができる?

 キオは、心の中で漠然と浮かぶ迷いを、再び剣と盾を打ち鳴らし、かき消した。

 突撃を止めたジャイアントは、一歩、二歩とキオへ足を踏み出した。

 魔法による援護が、ジャイアントに当たるも、意にも介さず歩みを進める。

 キオは、落ち着いて、動きを見極め、振り払われた大棍棒を、大袈裟なほど大きく後ろへ跳び、(かわ)した。

 受身を取りながら、キオは体勢を整える。

 キオの視線は、ジャイアントの大棍棒を捉えていた。

 そして、キオの想像は正しい結論を導いていた。

 大棍棒を打ち据えられ、死ぬ未来を。

 それでもキオは、ジャイアントを睨みつける。

 大棍棒を、一つ、二つと躱しながら。

 その度にキオの体は、地面を打ち、皮鎧に傷が入り、手足が擦れ、血が(にじ)んだ。

 絶えず飛ぶ魔法を無視し、ジャイアントは叫んだ。

 そして、ジャイアントが大きく踏み込む。

 その一歩は、人の一歩と違い、長い一歩だ。

 大壁が迫る感覚と、大棍棒の動きに気を取られていたキオは気が付かなかった。

 己を襲う、空の手に。

 キオが衝撃を感じた時には、もう遅かった。

 ジャイアントの手が、キオの胴を掴み、握りしめた。

 枝でも持ち上げるかのように、軽々とキオを持ち上げたジャイアントは、己が胸先で、キオの胴を締め上げる。


「がぁ、あぁぁ」


 吐き出される息、走る痛み、砕ける恐怖。

 耐えながら、キオは剣をジャイアントの手に突き刺した。

 力の入らぬ一撃は、無意味に終わる。

 その時、キオは、銀の閃光を目にした。

 キオを握るジャイアントの手が、腕ごと地へと落ちる。

 落下の衝撃に、キオの体に痛みが走るも、締め上げる苦しみからは、解放されていた。

 そしてキオは、霞む目で、一人の男を見上げた。

 男の持つ、身の丈を超えた鉄塊じみた大剣が、ジャイアントの腰を通り抜けた。

 横一閃――男の動きは、止まらない。


「うぉらぁぁ」


 そのままジャイアントの股へと進んだ男は、両手で振り上げた大剣を、踏み込む足と同時に、振り下ろした。

 銀の線が、股を通り、腹を裂き、胸を割った。

 ジャイアントは、そのまま後ろへと倒れ、地を揺らす。

 全身が塵と化していくジャイアントを見て、キオは安堵した。


(町は……無事っすね)


 視界の中で、振り返った男を見て、助けが誰なのかをキオは知った。


「バル……ザッ――」

「喋んな。ったく、マルクの野郎が『後輩』って言いやがる訳だ……よくやった」

「っす」


 キオは、薄れ、溶ける意識の中で、笑うバルザックの姿を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ