32.キオ達の帰路
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「マルク先輩。進むの速いですよ」
マルクの横からワコが飛び出してきた。
キオ達は、さらに安堵した。
「ワコ。先輩を連れて来てくれたんだな」
「助かったっす」
「無事でよかった」
三人がワコの無事を喜び、その顔に笑みを浮かべた。
「お前ら、気を抜くなよ。外のは片付けたけど、まだ来るぞ」
「そうなんっすよ。何故かモンスターがわらわら来るっす」
「だろうな」
そう言ったマルクの目が、ザギーを睨みつけていた事を、キオは不思議に思う。
「先輩、ザギーさんと知り合いっすか?」
「知らないさ。ほら、そいつ連れてさっさと行くぞ」
「うっす。指示お願いするっす」
「アホか。お前がリーダーだろ。しっかりしろ」
(あの時も、同じこと怒られたの忘れてたっす)
キオは、自分の顔を二度引っ叩き、気合を入れる。
「よし! ワコは、敵の接近を警戒するっす。ゼノは、引き続きザギーさんを。グルドンは前めで、ゼノとザギーさんの護衛を優先っす。ムウは、大変っすけど全員の援護をお願いっすよ」
「おっしゃー! さっさと町に帰るぜ」
「ああ、もうひと踏ん張りだ」
「あっ。私、魔石拾わないといけないから」
キオの言葉に、パーティー全員が活気立つ。
キオは、マルクが微笑むのを見逃さなかった。
キオは、先程までの戦闘を思い出す。
キオ自身とグルドンが、コボルト五体と睨めっこしている間に、他全てのモンスターが魔石となっていた。
マルク先輩の仕業である。
ゼノがザギーを護衛するのは想定通りだが、ワコは、ただ魔石を拾うだけだし、ムウに至っては、仕事をせずにザギーの後ろを歩いていた。
二人でコボルトを倒している間に、マルク先輩は、周囲を掃除してくる始末である。自分たちの牛歩は何だったのかと思うほどに、楽々と、モンスターの群れを突破出来た。
「やっぱり、先輩が来ると緊張感がなくなるっす」
「へぇ……来ない方がよかったか?」
「キオ! 何言ってんのよ!」
ワコの拳が、キオの頭に叩き込まれ――「あがっ」――キオの奇声が、草原に響いた。
現在、キオ達を照らすのは、マルクの生み出した光であった。自分たちの上空で、周囲を照らし続けている球体は、マルクが動く度に追従する。
モンスターに襲われる今であれば、この光は、闇夜のデメリットにならない。
敵を発見しやすくなるだけ、メリットの方が多いと、キオは思う。
もう町へは、走れば数分でたどり着く距離まで戻ってきていた。
ワコに叩かれながらも、キオは周囲への警戒を怠らない。
そんな中、マルクが言葉を発する。
「ザギーさん、だったっけ? あなたは、これからどうするつもりなんです?」
「ハハハ。もうモンスターはこりごりだからね。しばらくは、ピュテルの町でゆっくりすることにするよ」
「町はいいとこっすよ。ゆっく――」
キオは反応できなかった。ザギーを襲う一撃に。
顔面を鷲掴みにされ、ザギーが宙に浮く。
ザギーの叫びと、うめき声が草原に響き渡る。
「殺されたくなければ抵抗するな」
「せ、先輩! 何してるんすか! やめるっす」
キオの目の前で、ザギーの顔を潰さんばかりの勢いのマルクを見て、キオは制止の言葉をかけた。
キオには、意味がわからない。
キオの制止の言葉に耳を貸さないマルクが、ザギーへと言葉を続ける。
「両腕までなら死なないように出来るからな、動くなよ」
「先輩!」
キオは、尚も声をかける。
ゼノリースとグルドンは、動くことも出来ない。
ワコは、ザギーを睨みつけていた。
ムウも静かにザギーを見ている。
ワコとムウの反応に、キオは戸惑う。
キオの戸惑いをよそに、マルクがザギーの懐を検め始めた。
そしてマルクは、一つの黒い石を、ザギーの懐から取り出した。
「やめろ! それは俺の――」
「宝とでも言いたいのか……クズが」
マルクが、ザギーを雑に放り投げる。情けない声で地面に倒れるザギー。
「先輩? それは」
「ダークマター」
ただ一言、答えたのはムウであった。
その言葉に、ゼノリースの顔が歪み、ザギーへ憎悪の視線を向けた。
キオにも少し事情が飲み込めてきた。
「先輩、それ、ヤバいもの……なんっすね」
「ああ、モンスターがお前らに集ってきた原因だよ。≪風の刃≫」
マルクが放った魔法が、逃げようとしていたザギーの足元を切り裂く。
地面が抉れ、ザギーは悲鳴を上げ転がる。
「次は首を落とす。グルドンも見張っていてくれ」
「わかりました」
グルドンの快諾の声に、リーダーとしての自分をキオは思い出す。
が、どうしていいか分からない。
混乱するキオの前で、マルクは深く息を吐くと、各々に指示を出し始めた。
「キオ。お前は、冒険者ギルドに行ってギルドマスターを連れてきてくれ。ゼノは教会を頼む。ムウは、フクロウの……パック先生を捕まえてきてくれ。俺の名前と『ダークマターを確保した』って言えばすぐだから。ワコとグルドンは、このクズの……というより俺の監視を頼む。辺りのモンスターは任せろ」
ゼノとムウがいち早く動く。キオも、二人を追って町へ走る。
事情は分かっても、キオには事態が全く読めなかった。
今はただ、マルクの頼みを聞くしかない。




