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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第七章

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310.イービルリッチ

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 俺の嫌悪を知ってか知らずか、バルザックさんの言葉は軽いままであった。


「まぁ爺達(じじいたち)は、(じじい)の魔法が主だからな。イービルリッチは戦いたくねぇだろう」

「俺も嫌なんだけど」

「私も嫌よ」

「俺も御免だ」


 俺、サラスさん、シャラガムさんは、次々と拒絶の言葉を吐く。

 イービルリッチには、普通の魔法は効かない。

 余程強力な魔法で無いと、骨の体に傷一つ付けられないだろう。

 少なくとも前に戦った時は、槍も火球も効かなかった。

 そもそも、イービルリッチの張る障壁を破壊しないと、遠距離攻撃も防がれ、接近すら出来ないのだが。

 遠くから障壁を破壊し、その後、接近戦を仕掛けた……嫌な記憶が甦って来た。

 いや、今は過去を振り返る時ではない。

 バルザックさん達と話さねば。

 俺達魔術師の言葉を聞いたバルザックさんは、背を向けたまま笑う。


「ハハッ。だろうな。でもよぉ、魔術師がいねぇと倒せねぇだろ」

「まぁ、ね」


 サラスさんが同意する。俺も同意見だ。

 魔術師が居ないと、イービルリッチの放つ魔力の攻撃に対処出来ない。

 特にイービルリッチが空中に生み出すドクロは、早く破壊しないと、魔力の球体をこちらへ目掛け、放ち続ける危険なものだ。

 イービルリッチの魔力を、鋭敏に感じ取れる者が居ないと、奴の魔法じみた行動全てに対して、後手に回るしかなくなる。

 対処は、魔術師が最適という訳だ。

 が、本体は魔術師では倒せない……嫌な相手だ。


「簡易的にでも、作戦を立てましょう」


 俺は、そう提案した。

 バルザックパーティーならば、何も言わずとも、的確な行動を取るだろうが……イービルリッチ相手だから、先に指針を決めておきたい。

 特に、俺の立ち位置が分からない。

 前に出て本体を狙うのか、後ろから魔力に対処するのか、聞いておくべきだ。


「へぇ。珍しく慎重じゃねぇか」

「まぁね。それで、注文はある?」

「あぁ、マルクは、前に出てくれ」


 剣を抜いて前衛、本体へ突撃って事だな。ならば作戦は――


「サラスさんが、障壁破壊」

「そう」

「シャラガムさんが、攻撃への対処」

「ああ」

「ドムさんとテガーさんが、二人の守りとスケルトン処理」

「だな」「うむ」

「で、バルザックさんと俺が、突撃と。あってる?」

「ちょっと違うぜ」


 バルザックさんだけが、否定の言葉を上げた。

 背を向けているバルザックさんの表情は見えない。


「突撃じゃなくて?」

「違うのは、俺じゃねぇよ。マルクだ」

「なら俺の役割は?」

「全部だ」

「ん? バルザックさん?」


 はて? バルザックさんは、一体何を言っているのだろうか?

 障壁破壊と、魔力対処と、スケルトン掃除と、魔術師の防御と、本体への突撃。

 全部やれと?


「前にでりゃ、後は好きにしろって事だよ」

「なんだ、いつも通りか」

「フフッ。そうそう、マルクはいつも通りで良いの」


 サラスさんが、笑いながら同意する。

 全く……バルザックさんも、初めからそう言ってくれれば、分かり易いのに。

 やる事が決まれば、まずは役割をこなす。その後は臨機応変に。




 第四十九階層。

 階段部屋に一番近い大部屋。

 俺達は、通路の奥からモンスターに気付かれない距離で、中を観察している。

 そこは、既に無数のスケルトンが、直立したまま、獲物を待ち構えていた。

 骨の背丈はバルザックさんより小さく、俺やシャラガムさんと同じ程度か。

 右手に直剣を持っている以外は、本当にただの人骨だ。

 そんなスケルトン達を生み出している親玉が、大部屋の中央に見える。

 スケルトンの倍ほどの大きさがあるので、非常に分かり易い。

 見た目は骨であるが、イービルリッチの前頭部には角が生えている。

 金の刺繍(ししゅう)の入った黒いローブを纏い、青く輝く宝石をあしらった杖を右手に持っていた。古い、魔術師の姿を思い出させる風体である。


(じじい)の話、通りだな」

「バルザックさん。近付く時は、気を付けて」

「ああ、死の愛撫(あいぶ)だろ……まさか、お前」

「うん。前にね」


 魔術師然とした恰好をしている癖に、イービルリッチは接近戦でも、中々に素早い動きを見せる。

 スケルトンを蹴散らし、障壁を破壊し、ようやく接近したと思えば『死の愛撫』である。

 触れただけで、生命と魔力を吸い取る、イービルリッチやヴァンパイアの得意技だ……前回は、世話になったが、今回は絶対に捕まらない。


「良く生きてんな」

「まぁ、何とか。タイミングは?」

「バルザックに任せる」


 サラスさんの言葉に、全員が(うなず)く。


「じゃあ、行くぜ。三、二、一、零」


 俺とバルザックさん、ドムさん、テガーさんが同時に駆けだした。

 走ると共に、俺は、炎に対する守りを全員へ付与する為、呪文を唱える。


「≪火精霊(ひせいれい)加護(かご)≫」「≪魔力(まりょく)()≫」「≪氷結晶(こおりけっしょう)加護(かご)≫」

 

 三つの声が重なり、通路に響いた。

 当然、呪文を唱え始めたのは、俺だけでは無い。

 俺やバルザックさんの頭上を、魔力の矢の束が通過した。

 そして、その薄紫色の矢の束は、大部屋に侵入した途端、弾ける様に、拡散する。跳ぶ方向を変えた矢は、次々とスケルトン達に命中した。

 一時的とはいえ、突入前に数が減るのは有難い。

 火への耐性。そして、凍結への耐性を得た俺達四人は、大部屋に侵入し、スケルトンの群れに飛び込んだ。

 まずは、自由に動ける空間を作り出す。

 俺は、剣を振り、目の前のスケルトンの腰を砕き、前進しながら呪文を唱えた。


「≪魔力(まりょく)一撃(いちげき)≫」


 向かって左側のスケルトンの群れへ、魔力の塊を叩き付ける。

 狙いを付ける必要は無い。大雑把に。

 魔力を叩き付けられ、次々とスケルトンが砕けて消えていく。

 そして開けた空間へ、駆けながら、スケルトンを一つ、二つと、剣で破壊した。

 スケルトンの剣を弾き、その背骨を斬りながら、周囲の状況を確認する。

 バルザックさんは、大丈夫だ。蚊でも払う様にスケルトンを蹴散らしている。

 ドムさんとテガーさんは、魔術師二人とイービルリッチの間を空けながら、スケルトンを押し返していた。

 俺は移動を続けながら、スケルトンを潰す。

 剣を弾き、腰へ蹴りを入れる。

 スケルトンは、身の支えとなる腰骨が砕け、上半身から崩れ、地に落ちた。

 次に襲い掛かって来た別のスケルトンへ、踏み込みながら、先に剣で胴を払う。

 塵と化すスケルトンを、見ている余裕はない。

 気が付けば、サラスさん達からイービルリッチの間に居たスケルトン達が、消えていた。今も、サラスさんが放っている、魔力の槍によるものだろう。

 だが、その魔力の槍は、イービルリッチには届かない。

 青く、薄い氷の如き障壁に阻まれ、魔力の槍は、砕けるように消えていた。

 あの障壁を破壊しない限り、接近する事も出来ない。

 障壁を通して見えるイービルリッチの異変に、俺は気付いた。

 魔力の流れを感じる。

 あぁ、嫌な物を見てしまった。

 イービルリッチの高まる魔力は、二種類の行動を示している。

 氷の槍と、ドクロの召喚。

 どっちか? 

 違う。これは、両方だ。

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