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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

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28.真面目な司祭様

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし

「マルク様のおかげで、怪我人一人出ずに済みました。誠にありがとうございます。マルク様とゴンサーレスが懇意(こんい)間柄(あいだがら)でなければ、早朝の突然の依頼にも関わらず、快くマルク様に来ていただくことは、叶わなかったでしょう。そうでなかったらと考えると、肝が冷えます」

「いえいえ、緊急事態のようでしたので」


 (なか)ば連行された事は、ゴンさんの名誉の為に、黙っておこう。


「して、リザードマンの魔石を回収した者が数えた所、総数は千三百五(1305)個でした」

「結構いたんですね」


 皮張りのソファに四角い卓。応接室といった雰囲気の部屋の一角を、大きな道具袋に詰められた魔石が、占領していた。


「あの大量のリザードマン、何だったのでしょうか?」

「先日マルク様に処理して頂いたブラックスライム同様、原因は不明です。今後の調査次第でしょうか。今回、大量発生に遭遇した冒険者の方々に、被害が無かったのが幸いでした。他の遺跡内部の”処理”は、普段の通りといった所です」


 教会内の兵や聖騎士、依頼によって集められた冒険者達で、ダンジョン内のモンスターが増えすぎないように討伐する。定期的に行われる上、自身の実力にあった階層を担当できる為、この町の冒険者にとっては良い稼ぎになる。

 だが、たしか……。


「いつもより冒険者少なかったんですよね。他の階は、無事に済みそうですか?」

「ご安心ください。遺跡探索を主に受けて頂いている冒険者の方々にご協力頂けましたので。後は、報告待ちです」


 みな、慣れたものだろう。異常事態にでも発生しなければ、問題はない。

 もう一度ダンジョンに潜る事態は、避けられそうだ。


「さて、前回と今回の討伐に対する、報酬の話を致しましょう」

「報酬も何も、魔石だけで十分ですよ。それに、ブラックスライムについては、散歩のついでですから」

「マルク様が、それでよろしければ。リザードマンの魔石は持ち帰りますか?」

「出来れば教会側で売却して頂けると助かります。何分、冒険者を辞めたため、売却の伝手がありませんので」


 冒険者であった頃は、魔石は、ギルドを通して市場に流して貰っていたので、辞めた今、手に入れた魔石の売却先に困っているのが現状だ。

 その上、この大量の魔石を持って帰っても、どうしようもない。

 個人利用の為に取って置くにも、多すぎる。

 その答えを想定していたのか、司祭からは、直ぐに返事を貰えた。


「わかりました。では我々の取り分として、三割ほど頂きますが?」

「はい、よろしくお願いします」


 了承と同時に、頭を下げる。

 顔を上げると、そこには困惑したような呆れているような、どちらとも取れない司祭の顔があった。


頓着(とんちゃく)しないのか、大雑把なのか……マルク様。今のは断りを入れるか、横暴だと怒りを露わにせねばならぬ所ですよ」


 ん? 何を言っているのだろうか?

 大きく息を吐いた司祭が、生徒に教えるように淡々と喋り出した。


「いいですか、マルク様。事前に我々がマルク様から魔石を全て購入し、それを商業ギルド側に売却するのであれば、全体見込みの二割は頂くことになるでしょう。ですが今回、我々がマルク様の魔石を預かり、商業ギルドへマルク様の代理として売却するのは、単純に右から左に流すだけの行為なのです。一割でも多すぎるくらいです」

「冒険者だった時は、ギルドの取り分は一割でしたよ。それを、教会と冒険者ギルドの違いはあれ、加盟者でもない俺が利用するのであれば、多めに()くのは当然では?」

「冒険者ギルドの買取は、前者です。全体の二割を追加で取るなど、搾取(さくしゅ)以外のなにものでもないのですよ」

「は、はぁ」

「リザードマンの魔石なら、安値で売っても銀貨十二枚は堅いでしょう。それが千三百五(1305)個。銀貨で一万五千六百六十(15,660)枚。一割と三割では、金貨相当で三十一枚ほどの差になるのです。貴族ですら、端金扱いしません」


 司祭の鼻息が荒くなっている。

 何というか……いい人なのだろう。


「今回は、遺跡由来の魔石ですので、お受けしますが、今後の事を考えて、商業ギルドの中に信頼できるパートナーを探すことを、強くお勧めします」

「あの……何かすみませんでした。勉強になります」


 司祭様が杯をあおり、喉を鳴らす。

 落ち着きを取り戻した司祭様が、穏やかな笑顔を見せ、言った。


「このような年寄りでも、マルク様のような未来ある若人(わこうど)に、一房でも知恵をお渡し出来たのなら、幸いです」

「ありがとうございます」


 俺はもう一度、頭を下げる。司祭様への感謝を込めて。




 エルの屋敷に植えられた木を背もたれにし、ゆっくりと空を眺める。

 白く伸びた雲の流れは緩やかで、心穏やかになる。

 雲が手羽先に見えようが、豚そのものを(かたち)どろうが、問題ない。

 先程、ゴンさんが持ってきてくれた鶏串を、三本食べた後だからだ。

 その前に雲が、俺を嘲笑(あざわら)っていたならば、魔法で雲の形を変えることも、辞さなかっただろう。

 手元に残った木串を――「≪(ほのお)≫よ」――魔法で燃やす。

 木串全体を高温の炎で包み、灰一つ残さない。

 自分の生み出した魔法ゆえ、握る手に炎が当たっても、少し熱い程度で済む。

 実際、結構熱かった。

 周囲に火の粉一つ飛ばさないのには、地味な技術と高い構築を必要とする。

 初歩的な魔法でなければ、ここまで制御できない。

 失敗して、エルの家を燃やしてしまったら、それにより人の命が失われずとも、(とが)は、俺の首が飛ぶだけでは済まないだろう。

 木串三本の為に命を賭けてしまった事を、今は後悔している。

 穏やかな空に、心を委ねる。

 少し離れた場所から魔力の発生を感じる。

 肌に突き刺さる感覚に従い――「≪(かぜ)(かべ)≫」――簡単な、防御壁を作り出す。

 正面から一本の魔力の矢が迫り、眼前の空気の壁に阻まれ、突き刺さるように止まった。魔力の矢が消える。


「エル様の授業が終わったってことかな?」


 魔力の矢を放ったのが、エルの従者であることは知っている。

 今も場所を移し、こちらの監視を継続中である。

 だが、この異常な伝達手段の解答には……自信がない。

 屋敷の玄関へ向かうと、扉が開き、そこに使用人の女性が俺を待っていた。


「おじゃまします」


 返事は言葉ではなく、小さなお辞儀にて返された。

 彼女は扉を閉めると、音を立てずに先を歩き始める。

 案内なのだろう。しばらく歩き、彼女は、ある部屋の前で三度扉をたたいた。


「入りなさい」


 エルの声に、扉を開いた彼女が、俺を中へ促す。


「ありがとう」


 彼女からは、小さなお辞儀を受け取った。

 念のため入室前に「失礼します」と一言付ける。

 部屋の中では、エルが瀟洒(しょうしゃ)なソファに座りながら、カップを(たしな)んでいた。


「マルク。さぁお座りなさい」


 彼女の正面に置かれた木製椅子に座ろうとすると、エルは自身の隣をポンポンと叩き、俺の座る位置を示しす。

 ふんわりしたソファの感触が臀部を包む。

 や、柔らかい。

 俺の前にも、赤褐色をしたお茶が出された。

 使用人の少女に目と首で返礼し、お茶に口を付ける。

 液体を飲んだはずなのに、茶葉が、口の中で踊っていた。


「はぁー。落ち着く」

「お腹を空かせていたのでしょう? クッキーもありましてよ」

「いただきます」


 もう空腹は解消された、などという失礼は言わない。

 厚意が、純粋に嬉しい。

 皿の上にに綺麗に並べられたクッキーを、一枚いただく。

 サクッという音と共に甘味が口に広がる。うん。お茶によく合う。


「美味い……」


 エルと目が合うと、彼女は、微笑ましいモノでも見るような笑顔を浮かべた。

 その顔に釣られて、もう一枚クッキーを(かじ)った。


「ねぇ、マルク。あなたの口から、あなたの話を聞かせて下さらない」

「俺の話ですか? 別に面白くもないですよ」

「構わないわ。噂ではないマルクを知りたいの」

「んー。まぁいいですよ」


 俺は、自分の話をすることにした。ただつまらない俺自身の話を。

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