26.事後処理は任せたい
読みやすいように全体修正 内容変更なし
結局の所、第十二階層ではモンスターと遭遇すらしなかった。
静かなダンジョンが、逆に不気味ではあったが。
その後、ゴンさんとエンリックさんに上の処理をまかせ、現在俺一人で、第十三階層に異常が無いかの確認作業をしているところだ。
全身を硬い棘で覆われた猪、フルソーン・ボア。
短く、硬い棘が武器でもあり、鎧でもある。
剣で戦うとなると、棘を無視する力か、棘を縫う技量が必要となる。
動きは単純明快で、突進しかしてこない。
そして今、目の前から突進してくるフルソーン・ボア。
それを軽く横に回避し――「≪炎竜の吐息≫」――炎を放ち、燃やす。
全身を焼かれながら壁に衝突した猪が、そのまま倒れ、消えていく。
警戒しながら、周囲を見渡す。
「うーん。ここも問題ないよな」
以前、依頼で来た時と、特に変わった所はない。
魔石を拾い、もうゴンさん達の元へ戻ることにした。
長い階段を登り、第十二階層へ戻ってきた。
第十二階層は、やはりモンスターがいない。
ここも、時間が経てばモンスターが湧き始めるだろう。
道順は憶えているが、念には念を入れて、全部屋を回ってみた。
異常なし。
無駄を重ねることが、今すべきことだが……無駄骨は疲れる。
第十一階層に戻ると、ゴンさんが出迎えてくれた。
エンリックさんは、仕事に戻ったようだ。
「マル坊。どうだった?」
「十三階層異常なし。十二階層はなーんにもなし」
「ハハハ、お疲れさん。こっちも終わったぜ」
ゴンさんの言葉通り、魔石の回収作業は終わっていた。
よし、全部終わったな。俺は、伸びをして体をほぐす。
「さて、ゴンさん。お腹空いたし、帰ろう」
「おいおい、仕事がまだ残ってんぜ」
帰ろうとする俺の手を、ゴンさんがガシッと掴む。振りほどけない。
「モンスターは倒したし、問題解決。危険は去ってハイおしまい。でしょ?」
「冒険者を辞めた今、子供の理屈は通らねぇぜ……マル坊」
「その元冒険者から、朝食と、大事な幼馴染との憩いの時間を奪ったゴンさんが、それを言うんだね」
じっとゴンさんの目を見つめる。
俺の視線を避けるように、ゴンさんが首を回し、横を向いた。珍しい。
「無茶を押し付けちまった事は……俺の勝手な都合で、マル坊をいいように利用した事は、言わねぇんだな」
「そっちはどうでもいいよ。エンリックさんも危なかったみたいだし」
ゴンさんの横顔を見れば、彼にとってそれが不本意であった事ぐらい、俺にだって読み取れる。それでも俺を頼ってくれたのだ。
手を貸すのに、何の躊躇いがあろうものか。
「すまん」
「だからいいってば。それより、本当にお腹が空いたんだけど。もう昼だよ」
リザードマン討伐よりも、その後の調査の方に時間を取られた。
今日は情報屋に、昨日の話を直接伝えたかったのだが。
昼を回ると、彼が何処にいるのかが分からなくなる。
まぁ耳の良い人だし、昨日の事など、既に知っているかもしれないが。
もう昼だと強く意識してしまうと、余計に空腹感が増す。
俺の腹が鳴った。
朝一番で連れてこられたから、今の俺はバックパックすら持ってきていない。
第十三階層で拾った魔石は、ポケットにねじ込んでいる。
バックパックがあれば、乾燥肉で空腹をしのげるのに、残念である。
「よしわかった。上に美味い飯用意させっから。な!」
「いやだね。肉を齧りたい気分なんだ。雑に、豪快に」
「マル坊頼む。ぶっちゃけると、マル坊を逃がすなって命令が出てんだよ」
「あぁ……だから言いたくない事まで言ったんだね。で? 誰から?」
ゴンさんが、転移陣の方へ歩き始める。無言で、俺の手を掴んだまま。
確実に、俺にとって良くないことが待っている。
魔法を使えば逃げれるだろうが……世話になっているゴンさんには、そういう不義理はしたくない。
逃げれるものなら、逃げたいけど。
ゴンさんが、転移陣を起動させる。
淡い光が俺たちを照らす中、黙っていたゴンさんの口が開いた。
「エル様だよ」
「うん、知ってた」
陣の光が強くなり、俺たちは転移した。
第一階層の転移部屋の中、陣から光が失われていき、俺の視界も正常に戻――俺の胸元に、衝撃が走る。
この軽い感覚は憶えがある。
俺は倒れないように踏ん張りながら、衝突してきた少女を抱き留める。
目に入ったのは、真ん中で分けられ、横二つに分けられた金色の髪だった。
美しく櫛で梳かされた髪の毛一本一本を見て取れる。
少女の頭が後ろに動き、クリッとした淡褐色の瞳が、上目遣いで俺の目を覗き込んできた。
「ようやく捕まえましたわよ。マルク!」




