25.ゴンサーレスの頼み
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落ち着かなくて、早く目が覚めてしまった。
シャーリーが来るとしても、まだまだ時間がある。
ベッドで伸びをし、鏡の前で――「≪癒しの水≫」――顔を洗う。
後はもう、庭で木剣を振って、振って、振りまくる。
頭が空っぽになるまで、木剣を振る。
遠くからの足音に気付いた。ガシャッ、ガシャッと。
金属音? 俺の頭に浮かぶのは一人。でも、なぜ俺の家に?
「マル坊! 居るか!」
想像通りゴンさんだった。
「おはよう。ゴンさん。いきなりどうしたの?」
真剣な顔で詰め寄ってきたゴンさんは、俺の手をガシッと掴むと、そのまま踵を返し、歩き出した。
俺は抵抗する暇もなく、ゴンさんに引っ張られていく。
「すまねぇ、マル坊。急ぎの用事なんだ」
「別に手を掴まなくても、ついて行くけどね」
屋敷の敷地を出る際に、シャーリーと出会うことができた。
「ごめん、今日は教会に行ってくる」
「がんばってね。お兄ちゃん」
手を振り、笑顔で見送ってくれるシャーリーに癒される。
が、装いが番兵のようなおっさんに、朝から連行されるている俺を見ても、普段通りなのは如何なものかと思うぞ。シャーリー。
「それでゴンさん。何をしろっての?」
ダンジョンの入り口まで来たので、ここならゴンさんも話せるだろう。
ゴンさんは歩みを止めることなく、俺に話してくれた。
「これから転移陣で第十一階層まで行く。直ぐに戦闘になっから、準備頼むぜ」
転移陣は、ダンジョン第一階層に複数存在している。
それぞれが特定階層にある転移陣と繋がっており、深い階層を目的地とする場合は、使用が必須となる。
第一階層からいちいち下りては、日も暮れるし、体力も魔力も持たない。
帰ることすら、ままならないだろう。
転移陣と古代魔法には、繋がりがあるとされており、それを専門で研究する学派員もいるくらいだ。
だが、今のゴンさんの言葉には、少し気になるところがあった。
転移陣がある部屋にはモンスターが出ないし、敵意を利用して無理に連れてこない限りは、入ってこないはずなのに。
「危険な状況?」
「相手は、ただのリザードマンなんだがなぁ……」
「リザードマンなら、教会だけで処理できるよね。あぁ、数か多いのか」
リザードマンは、大人ほどの大きさで、二足歩行の爬虫類のようなモンスターだ。トカゲ種、ワニ種、カメ種などで付ける名前が変わるが、単純にリザードマンといえばトカゲ種を指す。
三日月型の曲刀と、丸い盾を持っている事が多い。
単体の危険度なら、Eランク冒険者のパーティーでも何とかなる。
だが数が増えると、当然、危険度も増す。
「数は、二十か三十ぐらい?」
元Cランク冒険者一人の助っ人で済むなら、その程度だろう。
「マル坊……数は不明だ」
「不明?」
「出会っちまった冒険者の話だとよ、数えきれないほど、だそうな。俺が見た時は、大天使の守護に取りついて殴ってやがる四体と、その後ろにずらり。だ」
大天使の守護は、教会の回復術士が使う魔法だ。
一定の範囲に光の領域を作り出し、外からのモンスターの侵入と攻撃を防ぎ、中の術士等を守ることができる。
現場の状況が思い浮かんだ。
たしか、第十一階層の転移陣から第十二階層へ向かう道は、小さな道が一本だ。
その小道の入口か出口で大天使の守護を張り、リザードマンの群れを押さえつけているのだろう。
「ゴンさん。急がなくても大丈夫?」
「あぁ、アイツならまだまだ持つ。こっちが焦ってポカしちゃ意味ねぇからな」
そこから先は、無言だった。
未だに、がしりと握られた手が、ゴンさんの心配を表しているようだった。
一段高く敷かれた石畳の上に、円形の中に複数の線が入り乱れた、奇怪な模様が描かれていた。転移陣だ。
「じゃぁ跳ぶぜ」
「いつでも」
立てば十人ほどが乗れそうな転移陣の上に、今は俺とゴンさんだけだ。
転移陣から、淡い光が生まれる。
徐々に強くなったそれが、俺たちの視界を埋め尽くす。
光が収まり始めた時には、既に先程の景色とは違うものとなっていた。
何度も来たことがある、第十一階層の転移陣の部屋だ。
「十二階層からだよね」
「おう、行くぜマル坊」
迷うことなく、第十二階層へ続く小道へ向かう。
真っ直ぐな小道の先に、人影が見えた。
「エンリック。待たせた」
「ハハ、結構早かったねゴンさん」
ゴンさんに答えたのは四十ほどの男、エンリック。
エンリックさんの骨ばった顔からは、汗がだらりと流れている。彼の前では、小道を塞ぐように白く光る壁があり、リザードマンの侵入を防いでいた。
リザードマンの攻撃により、光の壁が揺らいでいる。
魔力消費が大きそうだ。
「マル坊連れてきたから、もう大丈夫だぜ」
「あの噂の子かい? なら、本当に大丈夫そうだね」
「え? 噂って何?」
「ハハハ。まぁいいじゃねぇか。で? どうするよ」
リザードマンとはいえ、突っ込むと、数の暴力で袋叩きに遭いそうだ。
大多数の敵に、小道ときたら……うん。
おびき寄せて、魔法で叩き続けるのが一番だろう。
「ゴンさん。えーと、初めましてエンリックさん。とりあえず、それの解除と同時に、転移陣の部屋まで退きましょう。そのあとは、俺がリザードマンを全部焼くまで、魔法で何とかしますから」
「ゴンさん。本当に、この子大丈夫かい?」
「心配性は体にわりぃぜ。大丈夫。マル坊を信じな」
俺の適当過ぎる作戦に、早速不満の声が出るが、ゴンさんの後押しが入った。
「よし、わかった。三、二、一、零で解除するから、みんなで全力で逃げよう」
深呼吸するエンリックさん。
別に俺とゴンさんは、先に逃げていても問題ないことは、黙っていよう。
「いくよ。三、二、一、零」
光の壁が消えると同時に、ゴンさんとエンリックさんは走り出した。
真っ直ぐリザードマンと追いかけっこしても、不毛なだけだ。
まずは、リザードマンの足を――「≪水の刃≫」――斬る。
伸びた水が一閃。
先頭に立つリザードマン四体の膝下が切断された。体勢の崩れるリザードマン。
その後ろもまた、こちらを狙うリザードマンだらけであった。
あぁ、これは数は不明だな。
先に行く二人を追いかけ、俺も走る。
小道は長くないので、数秒で転送陣の部屋へ到着する。
俺はそのまま振り返り、迫りくるリザードマン達へ魔法を放った。
「≪火精霊の球撃≫」
横並びに生み出した炎の球を、三発同時に放つ。
小道の途中にいたリザードマンに、吸い込まれるように命中し、それぞれが爆発を起こす。上半身を吹き飛ばされたリザードマン達は、塵となって消えていく。
うん、この程度の威力で大丈夫だ。
小道の幅は、リザードマンが”みつちり”で四体分といった狭さだ。
同時発射なら三発で補える。
「≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫」
放つごとに起こる爆発音が、小気味よい。
火魔法が使えるって快適だ。
さて、後は、火精霊の球撃を繰り返すだけで終わるだろう。
とりあえず、リザードマンの姿が見えなくなるまで続けよう。
「ゴンさん。マルクくんは本当に大丈夫なのかい?」
「魔力か? 大丈夫大丈夫、このぐらいで驚いてちゃきりがねぇぜ。それよりも、よく噛まねえで言い続けられるよな」
日頃の呪文が練習になっているからね。
あれからずっと、当然二人の会話中もずっと、火精霊の球撃を放ち続けている。
発見すれば即爆殺。
今の俺は、リザードマンだけを殺す魔道具と化している。稼働から三十分ほど経っただろうか。どれだけ倒しても出てくる、出てくる。
倒したリザードマンの魔石は、繰り返される爆発と共に奥へ飛んで行ってしまっているので、現在、何体倒したのか確認できない。
当然、吹き飛ばした数なぞ、数えてもいない。
「≪火精霊の球撃≫……≪火精霊の球撃≫……」
リザードマンが顔を出す頻度が、明らかに遅くなっている。
もうそろそろ打ち止めかもしれない。
「マルクくん。私が法力で食い止めることもできます。少し休憩を入れてはどうですか?」
「≪火精霊の球撃≫…………≪火精霊の球撃≫」
エンリックさんの提案に、俺は、前方を指差すことで返事とする。
一体だけ残っていたリザードマンに火球が当たり、爆発する。
呪文を唱えるのを止め、しばらくは様子見だ。
「≪水≫よ」
手から水を出し、そのままごくごく飲む。
行儀や作法には、目を瞑っていてもらおう。
「おっ! 終わったのか? マル坊、お疲れさん」
「ぷっはぁああぁ。ふぅ……ゴンさん、まだ分からないよ。終わるのは、十二階層を確認してから」
リザードマンの群れが、もう一セット追加で来る可能性だってある。
リザードマン生成装置的な、はた迷惑なものがダンジョンに置いてある可能性も考えると、増える前に進むというのも考慮しなければならないが。
「じゃぁ行くか! 二人とも」
ゴンさんはそう言うと、返事も聞かずに歩き出した。
「仕方ないですね。マルクくんは休んでいても大丈夫ですよ」
「俺も行きます。疲れてませんし」
「見ると聞くとは大違いですね……頼らせてもらいます」
俺たちも、ゴンさんの後ろに付いて行く。
警戒はしていたが、俺たちを驚かせたのは敵ではなかった。
小道を進めば自然とわかる。その先の部屋が、どうなっているのか。
その魔石の数に。奥の壁から部屋半分までの斜面が出来ていた。
全て、魔石の斜面が。
「こりゃ応援呼ばなきゃ無理だな。アハハハ」
「全て市場に流したら、価格破壊がおきますね。どうします、マルクくん」
「あー。とりあえずこれは忘れて、十二階層調べません?」
「おう。そうだな」
ゴンさんを先頭に、再び歩き出す。床に散らばる魔石を避けながら。
うん。とりあえずは見なかった事にしよう。




