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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

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25.ゴンサーレスの頼み

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝

 落ち着かなくて、早く目が覚めてしまった。

 シャーリーが来るとしても、まだまだ時間がある。

 ベッドで伸びをし、鏡の前で――「≪(いや)しの(みず)≫」――顔を洗う。

 後はもう、庭で木剣を振って、振って、振りまくる。

 頭が空っぽになるまで、木剣を振る。

 遠くからの足音に気付いた。ガシャッ、ガシャッと。

 金属音? 俺の頭に浮かぶのは一人。でも、なぜ俺の家に?


「マル坊! ()るか!」


 想像通りゴンさんだった。


「おはよう。ゴンさん。いきなりどうしたの?」


 真剣な顔で詰め寄ってきたゴンさんは、俺の手をガシッと掴むと、そのまま(きびす)を返し、歩き出した。

 俺は抵抗する暇もなく、ゴンさんに引っ張られていく。


「すまねぇ、マル坊。急ぎの用事なんだ」

「別に手を掴まなくても、ついて行くけどね」


 屋敷の敷地を出る際に、シャーリーと出会うことができた。


「ごめん、今日は教会に行ってくる」

「がんばってね。お兄ちゃん」


 手を振り、笑顔で見送ってくれるシャーリーに癒される。

 が、装いが番兵のようなおっさんに、朝から連行されるている俺を見ても、普段通りなのは如何(いかが)なものかと思うぞ。シャーリー。




「それでゴンさん。何をしろっての?」


 ダンジョンの入り口まで来たので、ここならゴンさんも話せるだろう。

 ゴンさんは歩みを止めることなく、俺に話してくれた。


「これから転移陣で第十一階層まで行く。直ぐに戦闘になっから、準備頼むぜ」


 転移陣は、ダンジョン第一階層に複数存在している。

 それぞれが特定階層にある転移陣と繋がっており、深い階層を目的地とする場合は、使用が必須となる。

 第一階層からいちいち下りては、日も暮れるし、体力も魔力も持たない。

 帰ることすら、ままならないだろう。

 転移陣と古代魔法には、繋がりがあるとされており、それを専門で研究する学派員もいるくらいだ。

 だが、今のゴンさんの言葉には、少し気になるところがあった。

 転移陣がある部屋にはモンスターが出ないし、敵意を利用して無理に連れてこない限りは、入ってこないはずなのに。


「危険な状況?」

「相手は、ただのリザードマンなんだがなぁ……」

「リザードマンなら、教会だけで処理できるよね。あぁ、数か多いのか」


 リザードマンは、大人ほどの大きさで、二足歩行の爬虫類のようなモンスターだ。トカゲ種、ワニ種、カメ種などで付ける名前が変わるが、単純にリザードマンといえばトカゲ種を指す。

 三日月型の曲刀と、丸い盾を持っている事が多い。

 単体の危険度なら、Eランク冒険者のパーティーでも何とかなる。

 だが数が増えると、当然、危険度も増す。


「数は、二十か三十ぐらい?」


 元Cランク冒険者一人の助っ人で済むなら、その程度だろう。


「マル坊……数は不明だ」

「不明?」

「出会っちまった冒険者の話だとよ、数えきれないほど、だそうな。俺が見た時は、大天使(だいてんし)守護(しゅご)に取りついて殴ってやがる四体と、その後ろにずらり。だ」


 大天使の守護は、教会の回復術士が使う魔法だ。

 一定の範囲に光の領域を作り出し、外からのモンスターの侵入と攻撃を防ぎ、中の術士等を守ることができる。

 現場の状況が思い浮かんだ。

 たしか、第十一階層の転移陣から第十二階層へ向かう道は、小さな道が一本だ。

 その小道の入口か出口で大天使の守護を張り、リザードマンの群れを押さえつけているのだろう。


「ゴンさん。急がなくても大丈夫?」

「あぁ、アイツならまだまだ持つ。こっちが焦ってポカしちゃ意味ねぇからな」


 そこから先は、無言だった。

 (いま)だに、がしりと握られた手が、ゴンさんの心配を表しているようだった。




 一段高く敷かれた石畳の上に、円形の中に複数の線が入り乱れた、奇怪な模様が描かれていた。転移陣だ。


「じゃぁ跳ぶぜ」

「いつでも」


 立てば十人ほどが乗れそうな転移陣の上に、今は俺とゴンさんだけだ。

 転移陣から、淡い光が生まれる。

 徐々に強くなったそれが、俺たちの視界を埋め尽くす。

 光が収まり始めた時には、既に先程の景色とは違うものとなっていた。

 何度も来たことがある、第十一階層の転移陣の部屋だ。


「十二階層からだよね」

「おう、行くぜマル坊」


 迷うことなく、第十二階層へ続く小道へ向かう。

 真っ直ぐな小道の先に、人影が見えた。


「エンリック。待たせた」

「ハハ、結構早かったねゴンさん」


 ゴンさんに答えたのは四十ほどの男、エンリック。

 エンリックさんの骨ばった顔からは、汗がだらりと流れている。彼の前では、小道を塞ぐように白く光る壁があり、リザードマンの侵入を防いでいた。

 リザードマンの攻撃により、光の壁が揺らいでいる。

 魔力消費が大きそうだ。


「マル坊連れてきたから、もう大丈夫だぜ」

「あの噂の子かい? なら、本当に大丈夫そうだね」

「え? 噂って何?」

「ハハハ。まぁいいじゃねぇか。で? どうするよ」


 リザードマンとはいえ、突っ込むと、数の暴力で袋叩きに遭いそうだ。

 大多数の敵に、小道ときたら……うん。

 おびき寄せて、魔法で叩き続けるのが一番だろう。


「ゴンさん。えーと、初めましてエンリックさん。とりあえず、それの解除と同時に、転移陣の部屋まで退きましょう。そのあとは、俺がリザードマンを全部焼くまで、魔法で何とかしますから」

「ゴンさん。本当に、この子大丈夫かい?」

「心配性は体にわりぃぜ。大丈夫。マル坊を信じな」


 俺の適当過ぎる作戦に、早速不満の声が出るが、ゴンさんの後押しが入った。


「よし、わかった。三、二、一、零で解除するから、みんなで全力で逃げよう」


 深呼吸するエンリックさん。

 別に俺とゴンさんは、先に逃げていても問題ないことは、黙っていよう。


「いくよ。三、二、一、零」


 光の壁が消えると同時に、ゴンさんとエンリックさんは走り出した。

 真っ直ぐリザードマンと追いかけっこしても、不毛なだけだ。

 まずは、リザードマンの足を――「≪(みず)(やいば)≫」――斬る。

 伸びた水が一閃。

 先頭に立つリザードマン四体の膝下が切断された。体勢の崩れるリザードマン。

 その後ろもまた、こちらを狙うリザードマンだらけであった。

 あぁ、これは数は不明だな。

 先に行く二人を追いかけ、俺も走る。

 小道は長くないので、数秒で転送陣の部屋へ到着する。

 俺はそのまま振り返り、迫りくるリザードマン達へ魔法を放った。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」


 横並びに生み出した炎の球を、三発同時に放つ。

 小道の途中にいたリザードマンに、吸い込まれるように命中し、それぞれが爆発を起こす。上半身を吹き飛ばされたリザードマン達は、塵となって消えていく。

 うん、この程度の威力で大丈夫だ。

 小道の幅は、リザードマンが”みつちり”で四体分といった狭さだ。

 同時発射なら三発で補える。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫。≪火精霊の球撃≫」


 放つごとに起こる爆発音が、小気味よい。

 火魔法が使えるって快適だ。

 さて、後は、火精霊の球撃を繰り返すだけで終わるだろう。

 とりあえず、リザードマンの姿が見えなくなるまで続けよう。




「ゴンさん。マルクくんは本当に大丈夫なのかい?」

「魔力か? 大丈夫大丈夫、このぐらいで驚いてちゃきりがねぇぜ。それよりも、よく噛まねえで言い続けられるよな」


 日頃の呪文が練習になっているからね。

 あれからずっと、当然二人の会話中もずっと、火精霊の球撃を放ち続けている。

 発見すれば即爆殺。

 今の俺は、リザードマンだけを殺す魔道具と化している。稼働から三十分ほど経っただろうか。どれだけ倒しても出てくる、出てくる。

 倒したリザードマンの魔石は、繰り返される爆発と共に奥へ飛んで行ってしまっているので、現在、何体倒したのか確認できない。

 当然、吹き飛ばした数なぞ、数えてもいない。


「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫……≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫……」


 リザードマンが顔を出す頻度が、明らかに遅くなっている。

 もうそろそろ打ち止めかもしれない。


「マルクくん。私が法力で食い止めることもできます。少し休憩を入れてはどうですか?」

「≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫…………≪火精霊(ひせいれい)球撃(きゅうげき)≫」


 エンリックさんの提案に、俺は、前方を指差すことで返事とする。

 一体だけ残っていたリザードマンに火球が当たり、爆発する。

 呪文を唱えるのを止め、しばらくは様子見だ。


「≪(みず)≫よ」


 手から水を出し、そのままごくごく飲む。

 行儀や作法には、目を(つむ)っていてもらおう。


「おっ! 終わったのか? マル坊、お疲れさん」

「ぷっはぁああぁ。ふぅ……ゴンさん、まだ分からないよ。終わるのは、十二階層を確認してから」


 リザードマンの群れが、もう一セット追加で来る可能性だってある。

 リザードマン生成装置的な、はた迷惑なものがダンジョンに置いてある可能性も考えると、増える前に進むというのも考慮しなければならないが。


「じゃぁ行くか! 二人とも」


 ゴンさんはそう言うと、返事も聞かずに歩き出した。


「仕方ないですね。マルクくんは休んでいても大丈夫ですよ」

「俺も行きます。疲れてませんし」

「見ると聞くとは大違いですね……頼らせてもらいます」


 俺たちも、ゴンさんの後ろに付いて行く。

 警戒はしていたが、俺たちを驚かせたのは敵ではなかった。

 小道を進めば自然とわかる。その先の部屋が、どうなっているのか。

 その魔石の数に。奥の壁から部屋半分までの斜面が出来ていた。

 全て、魔石の斜面が。


「こりゃ応援呼ばなきゃ無理だな。アハハハ」

「全て市場に流したら、価格破壊がおきますね。どうします、マルクくん」

「あー。とりあえずこれは忘れて、十二階層調べません?」

「おう。そうだな」


 ゴンさんを先頭に、再び歩き出す。床に散らばる魔石を避けながら。

 うん。とりあえずは見なかった事にしよう。

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