表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/1014

22.大衆食堂にて

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし

 大衆食堂『狼のまんぷく亭』


 この場所には、朝でも昼でも人が多い。腹を空かせた迷い人が集まる店だ。

 特に宵の口から日が変わるまでは、酒飲みも増え、一層騒がしくなる。

 日が変われば、そこでおしまい。

 叩き出された飲兵衛(のんべえ)達は、魔工石灯る夜の街へ去っていく。

 まぁ俺にとっては、夜遅くまで開いている美味い店だ。非常にありがたい。

 冒険者の頃は、ここで夕食をとっていた。

 店内に入ると、いつものように賑わっている。活気を示す喧騒が心地いい。

 いつもの給仕の女性、サンディと目が合う。

 短く明るい茶の髪に、褐色の肌。

 肩だしの給仕服から見える撫で肩と、強調された胸元。

 あれに触れて、引っ叩かれる野郎は後を絶たない。

 まぁわかる。手は出さないが。


「マルク! 五日ぶりじゃない。冒険者辞めたって聞いて、もう来ないんじゃないかって心配してたんだから」

「俺は、ここより美味い飯屋を知らないよ」

「本当に知らないだけでしょ」


 笑顔で迎えてくれたサンディは、俺の肩をべしべし叩いてきた。

 お姉さん的な容姿から繰り出される気安い態度は、破壊力抜群だ。

 もう慣れてしまったけど。

 サンディが給仕の仕事を始めてからの付き合いだから、もう八年になる。

 とはいえ、食事の時に接客してもらうだけだ。

 長話なんかも、特にしない。


「まぁいいや。さぁ座って座って。マルクごあんなーい」

「何で毎回”一名様”じゃないんだ」


 ぼそりと出た俺の言葉に、サンディは、笑い声で返事をした。

 毎回一名様って、悲しいよな。

 ハハハ。今日は、単純作業で疲れたのかもしれない。きっとそうだ。

 俺は席に座り、ゆっくり待つ。

 注文はしない。

 この店は、勝手に店長のおすすめが出てくるからだ。

 別の料理を注文しても、何故(なぜ)か店長のおすすめが出てくる。

 もう、ここは、そういう店だと理解している。

 ぼぉー、と店内を眺めていると、一つの事に気付いた。

 酒飲みたちは騒いでいるが、見知った顔の冒険者達が、酷くグッタリしている。

 普段ならば、依頼終了で懐が暖かくなった彼らは、どんちゃん騒ぎをしている時間だ。

 酒だ! つまみだ! もっと持ってこい! と。


「ハイおまち。甘辛豚串と野菜もりもりだよ」


 サンディが、テキパキとトレイから食事を配膳する。

 焼き色光る一口大の豚肉が、一串に四つ。それが四本。

 スライスしてバターで焼いたであろう赤大根や人参、玉葱などが、もりもりの名の通り山盛りされている。

 そして申し訳程度に、ひよこ豆のスープが脇に置いてある。

 野菜は好きだが、量が多い……が、全て食べねば帰れぬ。

 その前に、サンディに聞くことがあった。


「ねぇサンディ。冒険者みんな何故(なぜ)か疲れているけど、何かあったの?」

「あー。仕事が大変なんだってさ。自業自得だからマルクは気にしなくていいよ」


 サンディの声に(とげ)がある。俺に対してではなく、冒険者に対してだ。

 深掘りしても、答えは返って来ないだろう。


「そっか。ありがとう、サンディ」


 彼女はニコリと一笑いすると、給仕の仕事に戻っていった。

 俺も食事としよう。これ以上の脇道は、目の前に置かれた料理達に失礼だ。

 

「いただきます」


 匙を手に取り、野菜を頂く。

 それぞれ違う食感の野菜たちが自己主張をする中、バターの香りが、ふわりと抜ける。バターが軽めで助かった。バターまでもりもりだったのなら、完食は不可能だっただろう。

 野菜を食べれば、当然肉だ。

 置いてあるだけで食欲をそそる豚串。

 行儀が悪いが、左手で串を持ち――(かじ)り付く。

 少し辛めの味付けが、豚の油と共に舌と腹を刺激する。噛んだ瞬間、お腹が空いてくる。嗚呼、穀物が食べたい。でも無い。また野菜に行くしかない。

 野菜の山を崩し、肉を(かじ)り、口休めに薄味のスープをごくり。

 それぞれの分配を間違えなければ、美味しい完食はすぐそこだ。

 腹減りに支配された手と口は止まらない。

 最後に肉を頬張り――


「ふー。完食。野菜とはいえ、これはバターで太る」

「うーん。毎度毎度綺麗に食べてくれちゃって。裏のお父さんも喜ぶよ」


 いつの間にか俺の後ろで、サンディが樽型ジョッキを持って立っていた。

 そして、空のジョッキを俺の前に置く。いつものことだ。


「≪(みず)≫よ」


 魔法を使い、空のジョッキを、勢いよく水で満たしていく。

 そして水が溜まり次第、俺はジョッキに口をつけ、流し込む。喉が鳴る。

 冷たい水は出せるのに、なぜ氷魔法は使えないのか。

 全く、もう。この中に氷があれば最高なのに。


「ぷはぁ。美味かったよ。ごちそうさま」


 いつもと違い、お代を払おうとバックパックに手を伸ばす。

 だが、サンディが俺を止める。


「いつものように、後でまとめてでいいってば」

「俺、冒険者やめたんだから『あと』だと払えないかもよ」

「その時は、この店でビシビシこき使ってあげるから大丈夫よ。お父さんも、『マルクから一々金取ってられるか』って言ってるし」


 こちらは非常に助かるのだが、何処(どこ)もかしこも、信頼を担保にした後払いで良いのだろうか? 無職だぞ俺。


「いいの?」

「いいの。また来てよね」


 そしてサンディは、また俺の肩をパァンと叩き、仕事に戻っていく。

 逆に俺は、喧騒から離れるように店をあとにした。

 今日は、単純作業で疲れてしまった……。

 早く帰って風呂にでも入ろう。まぁお湯を入れるのは、自分なのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ