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1.もう冒険者なんて

マルクの台詞調整 読みやすいように全体修正 内容変更なし

「貴様! どう責任を取るんだと聞いているんだ!」

 

 冒険者ギルドの受付前。

 俺の目の前で、太った男が騒いでいる。全く人の話を聞かない奴だ。


「だからさ。あとから駆け付けた俺に、何の責任があるって?」

「貴様のせいで、どれほどの損失が出たと思っているんだ、この下郎めが」

「それは、緊急依頼で行った俺に言う事じゃないだろう」


 俺が受けた緊急依頼は一つ。

 バルド男爵領に発生したレッサーデーモンの討伐失敗、その後始末をすること。

 要するに、急ぎの討伐依頼だ。

 通常の討伐依頼を受けたCランク冒険者パーティーは、全滅した。

 小物とはいえ、レッサーデーモンは悪魔である。

 甘く見てはいけなかったのだ。

 レッサーデーモン一匹で、村一つが機能しなくなった。

 男爵の私兵にも死傷者が出たらしい。

 そして、その責任を俺に押し付けてくるこのデブが、男爵の代理人だという事実。酷い話だ。


「貴様のような鈍愚では話にならん。ギルドマスターを呼べ」

「いったい何の騒ぎだ……原因はお前か、マルク」


 しゃがれた声を出しながら、正直見たくもない髭面男が、奥から現れた。

 叫ぶデブと、タイミングよく登場するギルドマスター。待機していたのはバレバレだが、ただの観客と化している周りの冒険者たちは、何も言わない。


「俺に責任が無いのは、緊急依頼を出したギルドマスターのあんたが一番理解してるだろう。流石にどうにかしてくれよ」


 俺の言葉に、ギルマスは鼻を鳴らして返す。

 相変わらずのご様子だ。

 この男は普段から、俺がCランクからBランクへ上がれないよう、依頼の隠匿やら指名拒否の根回しなどの嫌がらせをしてくるクソ野郎だ。が、流石に今回の件はギルドマスターとしてしっかりと対処して欲しいものだ。


「何て口の利き方だ! ギルドマスターよ。こやつらの不手際で、いったい何人の尊き村民が命を落としたと思っている。どれほどの兵が犠牲になったと思う。ギルドとして、その(おさ)としてどうするつもりだ」

「全ては、Cランク冒険者を派遣した我々の落ち度でございます。大変申し訳ございませんでした」


 は? 何言ってんだこのギルマス? 開いた口がふさがらない。

 遠巻きから眺めている冒険者たちも、ざわつき始めた。

 周囲の様子に気付かないデブは「そうだろう、そうだろう」と得意げだ。


「全く、Cランク冒険者などという使い捨てを、我が男爵家の依頼に当てたのが、そもそもの間違いなのだ。うむ、わかっているではないかギルドマスター。特にこやつなど万年Cランクの出来損ないというではないか。ここはこんなクズばかりなのか」

「ええ、全く持ってその通りで。情けないあ奴らに変わり、わたくしがお詫び申し上げます。してバルド様の代理のご意見として、いかような処分をお望みでしょうか?」

「うむ。まずは生意気なこやつを首にしたまえ。のちにギルドマスターの責任を果たすことで今回の不手際、不問とする」

「お望みのままに。さぁマルク、冒険者カードをこちらに渡せ。貴様は今日でこのギルドから除名だ」


 静まり返った室内に、耳障りな声が響く。

 こいつらは、この静まり返った観客の意味を、理解しているのだろうか。

 三文芝居は多めに見ても、こいつらは言ってはいけないことを、冒険者の前で言ったのだ。

 除名? そんなことはどうでもいい。

 冒険者を『使い捨て』だと言い捨てやがった。

 死んだ冒険者を『情けない』と言いやがった。

 自分の額に青筋が立っていくのを自覚したのは久しぶりだ。


「クックックックック」


 俺の口から変な声が漏れている。全く……何故こんな奴の仕打ちに耐えてまで、冒険者を続けていたのだろう……。


「ふざけるなマルク。早くカードを渡せ」

「ああ、カードね……」


 俺は取り出した冒険者カードを、自身の前で横に振って見せた。

 

『名前:マルク・バンディウス(18) 魔術師 ランク:C 達成回数:●●』


 これは、俺の冒険者としての軌跡。

 依頼達成回数が塗りつぶされるほど依頼をこなした、積み重ねの証。

 父と母の遺志を継ぎ、生まれ育ったこの町で冒険者を続けてきたが――嗚呼、もう駄目だ。もうどうでもよくなってきた。

 こんなもの――


「もういらないよな。燃えろ≪炎竜(えんりゅう)吐息(といき)≫」


 俺の手から、炎が生まれる。

 生まれた熱の余波が辺りの空気を揺らし、流れる。

 赤い炎に包まれた冒険者カードは、塵一つ、痕跡一つ残さず、宙で消え失せた。


「マルク。お前、自分が何をしたのか分かってるのか!」


 分からずやってると思っているのだろうか? だとしたら大馬鹿だ。

 冒険者カードは丈夫にできている。

 火蜥蜴の火炎程度では燃えぬし、屈強な戦士でも握りつぶせない。

 そんなカードを、自分自身で壊す行為……その意味することは――


「ああ、冒険者は廃業だ! クソ野郎」


 炎を払い、俺は豚とクソ野郎に背を向ける。

 さっさと家に帰ろう。

 観客達が慌ただしいが、俺の知るところではない。


「お前の行為はギルドへの冒涜だ。マルク! 他国の冒険者ギルドでも、お前はもう終わりだ」


 わめき散らすクソ野郎に、もうかける言葉はない。

 俺は、冒険者ギルド『鉄骨龍の牙』をあとにした。

 もう二度と此処(ここ)に来ることはない。

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