17.幕間~ガランサと筋肉~
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「それで? マルク坊主は、何本ほどイケるのかな?」
「マルクの事、既に御存じでしたか」
「冒険者、いや元冒険者マルクを知らぬわけが無かろう」
ガランサの前で、上腕二頭筋を震えさせながら男は言った。
頭髪無き頭に、満面の笑みが良く似合う。
男の名は、マグナ・スミス。
工房ギルド『精霊銀の槌』一と噂される鍛冶師兄弟の弟である。
筋肉の躍動を無視して、ガランサは返事をした。
「御尤もです。マルクならば、今日中に三百は軽いかと」
「三百? 一人では魔力が到底持たんぞ。そのような行動は感心せん」
マグナの言葉はマルクへではなく、ガランサへ向けたものだ。
だが、ガランサは笑みを浮かべ、言葉を返す。
「ご安心ください。マルクは、マリアさまのご子息で御座います」
「おぉ、そうだったのか。ならば納得だ」
「御二人のご子息であったことは、御存じなかったのですね」
「ハッハッハッ。俺が興味あるのは坊主本人だからな」
そのマグナの言葉に、ガランサの口元が緩む。
「知らぬは本人ばかりなり。ですかね」
「ああ。『フクロウの瞳』も『白馬の蹄』も狙っていると云うのにな」
「ですが私は、マルクを何処かに属させるべきではないと思っています」
マグナの胸筋が、ピクリと動く。
「それは、我らも含むという意味なのだろう……何故だ?」
「マルクという男に”仕事”を頼めば、早く、確かで、そして大量にこなしてしまうでしょう。もちろん、倫理にもとる仕事は行わぬでしょうが」
「ふむ。良い事ではないか。仕事の早い男は好きだぞ」
「それが可能である理由は単純、マルクはマルク自身を勘定に含まないのです。今日中に五百のポーションを用意しろと言えば、彼は寝食も、己の疲労も、枯渇していく魔力も構わず五百のポーションを作り上げてしまうでしょう」
「なるほど……良い馬鹿なのだな」
「はい。馬鹿者です。己の行いの偉大さも、尊さも知らぬ大馬鹿者です」
ガランサとマグナは、真剣な眼差しを交わし合う。
「故に、マルクを際限なく利用し、己の富を、名声を得ようとする輩が現れるならば……私が許しません」
マグナの快活な笑い声が、執務室に響き渡る。
「過保護だなガランサ。しかし、お前が冒険者ギルドを唾棄していた理由が、ようやっと分かったぞ」
「残念ですが、鉄骨龍の輩どもを嫌いなのは、十年前からですので。まぁ、あのギルドマスターに毒でも盛ろうかと考えたことは、ここ数年で何度もありましたが、もう過去のことです」
「ハッハッハッ。聞かなかったことにしよう」
「冗談ですよマグナさん」
二人の笑い声が重なる。
しばし続くも、息を合わせたかのようにピタリと止まった。
そしてガランサが、淡々とした様子で口を開いた。
「して、鉄の準備は可能で御座いますか?」
「ああ、俺にとっては利益しかないからな。早急に用意させる」
「ありがとうございます」
「しかし、お前の倫理の内では、坊主を使うお前自身はどうなのだ?」
「私は、マルクの……あいつの望むことを後押ししてやるだけです。その通り道で得られる利益を、己の指で弾くだけのことです」
「随分、都合の良い男だな」
互いに右手を差し出し、握手をする。
二人の笑い声は、先程より長く続いた。




