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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

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18/1014

17.幕間~ガランサと筋肉~

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし

「それで? マルク坊主は、何本ほどイケるのかな?」

「マルクの事、既に御存じでしたか」

「冒険者、いや元冒険者マルクを知らぬわけが無かろう」

 

 ガランサの前で、上腕二頭筋を震えさせながら男は言った。

 頭髪無き頭に、満面の笑みが良く似合う。

 男の名は、マグナ・スミス。

 工房ギルド『精霊銀(せいれいぎん)(つち)(いち)と噂される鍛冶師兄弟の弟である。

 筋肉の躍動を無視して、ガランサは返事をした。


御尤(ごもっと)もです。マルクならば、今日中に三百は軽いかと」

「三百? 一人では魔力が到底持たんぞ。そのような行動は感心せん」


 マグナの言葉はマルクへではなく、ガランサへ向けたものだ。

 だが、ガランサは笑みを浮かべ、言葉を返す。


「ご安心ください。マルクは、マリアさまのご子息で御座います」

「おぉ、そうだったのか。ならば納得だ」

「御二人のご子息であったことは、御存じなかったのですね」

「ハッハッハッ。俺が興味あるのは坊主本人だからな」


 そのマグナの言葉に、ガランサの口元が緩む。


「知らぬは本人ばかりなり。ですかね」

「ああ。『フクロウの(ひとみ)』も『白馬(はくば)(ひづめ)』も狙っていると云うのにな」

「ですが私は、マルクを何処(どこ)かに属させるべきではないと思っています」


 マグナの胸筋が、ピクリと動く。


「それは、我らも含むという意味なのだろう……何故(なぜ)だ?」

「マルクという男に”仕事”を頼めば、早く、確かで、そして大量にこなしてしまうでしょう。もちろん、倫理にもとる仕事は行わぬでしょうが」

「ふむ。良い事ではないか。仕事の早い男は好きだぞ」

「それが可能である理由は単純、マルクはマルク自身を勘定に含まないのです。今日中に五百のポーションを用意しろと言えば、彼は寝食も、己の疲労も、枯渇していく魔力も構わず五百のポーションを作り上げてしまうでしょう」

「なるほど……良い馬鹿なのだな」

「はい。馬鹿者です。己の行いの偉大さも、尊さも知らぬ大馬鹿者です」


 ガランサとマグナは、真剣な眼差しを交わし合う。


(ゆえ)に、マルクを際限なく利用し、己の富を、名声を得ようとする輩が現れるならば……私が許しません」


 マグナの快活な笑い声が、執務室に響き渡る。


「過保護だなガランサ。しかし、お前が冒険者ギルドを唾棄(だき)していた理由が、ようやっと分かったぞ」

「残念ですが、鉄骨龍の(やから)どもを嫌いなのは、十年前からですので。まぁ、あのギルドマスターに毒でも盛ろうかと考えたことは、ここ数年で何度もありましたが、もう過去のことです」

「ハッハッハッ。聞かなかったことにしよう」

「冗談ですよマグナさん」


 二人の笑い声が重なる。

 しばし続くも、息を合わせたかのようにピタリと止まった。

 そしてガランサが、淡々とした様子で口を開いた。


「して、鉄の準備は可能で御座いますか?」

「ああ、俺にとっては利益しかないからな。早急(さっきゅう)に用意させる」

「ありがとうございます」

「しかし、お前の倫理の内では、坊主を使うお前自身はどうなのだ?」

「私は、マルクの……あいつの望むことを後押ししてやるだけです。その通り道で得られる利益を、己の指で弾くだけのことです」

「随分、都合の良い男だな」


 互いに右手を差し出し、握手をする。

 二人の笑い声は、先程より長く続いた。

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