166.氷の巨人~バルザックパーティー~
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フロストジャイアントの棍棒を盾で防いだドムが、吹き飛ばされる。
ドムの作った隙を狙って、奴の左足を切り払う。
このクレイモアの切れ味は抜群だ。が、切断は敵わない。
剣は通る。が、切れない。
斬った瞬間に回復している。ただのジャイアントとは回復速度が段違いだ。
「チッ。うらぁあ」
フロストジャイアントの股を通り抜けるついでに、奴の右足にも剣を這わせる。
手応えはある。が、やはり損傷には繋がらない。
走り抜け、一度離れる。
棍棒が、俺の背の更に後ろを通過した。
サラスとシャラガムに敵意が向かぬよう、注意を引くのは最低限の役割だ。
サラスは魔法の準備をしている。
シャラガムには、ある程度は魔力を温存してもらう。
万が一の時は、シャラガム頼りになるからだ。
「≪精霊の残り火≫」
シャラガムの声と共に、俺と、ドムと、テガーの武器に炎が纏わりつく。
ただ斬るだけでは効果が薄い事を考えての魔法だろう。
「助かる、ぜぇ!」
剛腕によって荒ぶる棍棒を、クレイモアで合わせ、弾く。
衝撃に、体が吹き飛びそうになる。だが、吹き飛ぶわけにはいかない。
全身の筋肉を駆使して、仰け反るに止める。
よろめくフロストジャイアントの後ろから、ドムとテガーが直剣と斧を振り下ろしていた。一撃を入れた二人は、即座にその場を離れ、奴から距離を取る。
二人が与えた傷も、即座に元通りになっている。
炎の魔法を付与した武器で斬り付けても、残念ながら効果は薄いようだ。
だが、あの巨体と云えど、魔力は有限だ。
回復できなくなるまで、斬って、斬って、斬りまくる。
「どんどん行くぞ。お前ら」
「「おう」」
敵意を引いた者は、攻撃を受けることに集中する。そして、体勢が整っている者が攻撃を行う。戦い方は、それだけだ。
氷漬けにさえならなければ、俺達だけでも戦えない相手ではない。
あの時とは違う。
フロストジャイアントが、羽虫でも払うかの様に、一つ、二つと棍棒を振る。
だが、そこには誰もいない。
テガーが相手を誘う様に、にじり寄る。距離感は良い。
そして、フロストジャイアントの目がテガーへと向いた。
テガーは棍棒を躱しながら、機をうかがっている。体勢を崩せる好機を。
テガーが前に動いた瞬間、俺とドムも走る。
テガーの盾と奴の棍棒がぶつかり合う。弾き飛ばされるテガー。
だが、あいつなら無事だ。
俺は奴の右足を、ドムは奴の左足を、炎を纏う剣で斬る。
ドムは、フロストジャイアントの攻撃の距離から離脱するが、俺はそのまま残り、もう一撃を狙う。
フロストジャイアントの斜め前に出て、踵を返す。そして、奴の前を横切る様に跳びながら、その腹を一文字に切り裂くべく、剣を振る。
クレイモアから、肉を切る感触が伝わってくる。手応えは、ある。
青白い奴の腹が、裂け、青い魔力が噴き出した。
着地と同時に体の向きを変え、フロストジャイアントと相対する。
そうだ。こっちを狙え。
襲い来る棍棒を弾き飛ばす。引かねぇ。
得物と得物が重なると、凍える冷気が放出される。その度に、俺の心が高ぶり、体に熱が溢れて来る。もっと来い。
お互い体勢を立て直し、もう一度だ。
出鱈目に振られた一撃を、クレイモアで叩き返す。そんな攻撃、効かねぇ。
ドムとテガーが、攻撃を重ね、離脱する。
獲物を変えるそぶりを見せたフロストジャイアントに近付き、足を切り払う。
そして態々、奴の正面に立ってやる。
「こっちだろうが」
もっと打ち込んでこい。まだ、足りない。
真正面から振り下ろされる棍棒を、真横に弾き飛ばす。
崩れた体勢を立て直しながら、フロストジャイアントを見る。まだ足りない。
「うらあぁぁぁああ」
俺の声と、フロストジャイアントの咆哮が重なり合う。
当たれば上半身が吹き飛びそうな横薙ぎを、力任せに打ち上げる。
崩れた相手の腹は、がら空きだ。
「まだ、足りねぇ」
真っ直ぐに接近し、股から腹にかけてを縦に斬り、走り抜ける。
漏らすように零れる青い魔力は、損傷の表れだ。もう一発――
「バルザック」
シャラガムの声が聞こえた。そのまま離脱するように走る。
サラスめ。もう少し待ってくれよ。
「≪炎帝竜の裁き≫」
力強いサラスの声が、響き渡る。
状況を確認するために、俺は振り返った。
フロストジャイアントを取り囲むように、床に炎の円が生まれていた。
そして、炎の円から上昇したかのように、一瞬で赤く輝く柱が生まれた。
赤く輝く柱が、フロストジャイアントの全てを覆い隠している。
あれは本当に炎なのか? いや、熱、そのものかもしれない。
柱の中から声だけが聞こえる。断末魔じみた奴の声が。
暫く眺めていると、赤く輝く柱が収縮するように、その径を狭めていく。
そして、完全に柱が消えた跡には、黒に色を変えたフロストジャイアントの姿があった。動く気配は無いが、まだ生きている。
「バルザック、とどめ」
「チッ。またかよ」
口から愚痴が零れる。が、体は自然と動いていた。
俺より早く動いていたドムとテガーが、奴の足を砕く。
俺は、倒れる巨体の下に潜りこんだ。
構え、両手に、肩に、背に力を込める。
「おわりだ」
そして力を解放する様に、剣を振り下ろした。
クレイモアによって、一直線に銀の軌跡が生まれ、巨体が左右に分れていく。
黒く染まった巨体は、俺の体に当たる事は無かった。
魔力が散っていくのが分かる。それは巨人の死だ。
ちくしょう。またこの終わり方かよ……不完全燃焼にも程がある。
嗚呼、もう一体いるじゃねぇか。
さて、マルクの方は……。