15.ガランサと魔法練習
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土で出来た人形が、裏庭にポツンと置かれた。
成人男性ほどの大きさのそれは、ガル兄の所有する魔道具の一つだ。
ガル兄が土人形へ向け、駆ける。そして、右手を体の前を横切るように振りながら――「≪水精霊の斬撃≫」――魔法を放つ。
彼の手の先から出た魔法は、日の光に照らされ輝く。
細く煌めく線が、土人形をすり抜けたように見えた。
振った腕の延長線上、魔法の当たった所から、土人形の腕がポロリと二つ落ちた。あれでは胴も真っ二つだろう。
「おおぉ。鋭い」
「鉄だろうと真っ二つだからな。まぁ実践では使わないけど」
「ん? 使える魔法じゃない?」
俺は、ガル兄から借りた銀の腕輪に魔力を込めながら、彼の話を聞く。
斬り落とされた土人形の腕がぐにょりと動き、本体へと戻っていく。そのまま吸収され、腕から生えてくるだろう。
これは、土人形とセットの、そういう魔道具だ。
「この魔法は、ギルドでアレコレ切断するときに使ってるやつでな。実戦で動く相手に対して、薄く、鋭く、切り裂くイメージが難しい上に、勢いよく水を出し続けないといけないから、魔力が持たないのさ。しかも接近しないと駄目ときた」
「いい魔法だけど、今回憶えたいのとは、違うかな」
ヘヴィオーガと戦って思ったのは、俺には、敵の攻撃圏より遠くから仕留めることができる魔法が、足りないということだ。
今、俺が覚えている魔法のほとんどは、母が生前に教えてくれたものである。
もし俺が、魔法学派の学び舎に通っていたのなら、より多く魔法を覚えていたのかもしれない。が、昔を振り返っても仕方ない話だ。
冒険者の頃は、他の冒険者に助けてもらいながらも、何とかできていたが……今度、ゆっくり魔法の研究に勤しんでもいいかもしれない。
「なーに、今言った欠点は、俺が使ったらの話さ。マルクなら上手く使えるだろう。とりあえず練習な」
そうだろうか? と思いつつも、ガル兄の好意なので、素直に頷いておく。
「とりあえず水からだな。≪水≫よ」
ガル兄の右手人差し指から、水が流れ出る。
「これを、出る量を変えず、細く、薄くって感じだな」
「量を変えずに、細く、薄く。≪水≫よ」
自分の右手人差し指でやってみる。
流れる水を細く、薄くしていく。
すると、指から出る水が、ちょぼちょぼと弱弱しくなった。
駄目だ、ガル兄のように流れ出ない、
「出る量は変えずに、あー、マルクなら強く出るってイメージの方が簡単かもな」
強く、強く。
ちょぼちょぼしていた水が勢いを増し、鋭い線になる。
指から放出される水が、その終点である芝生に当たり、霧となっている。
「そう。それを、剣にするように≪水の刃≫……斬る」
呪文と共に、ガル兄の指から吹き出す水が、より鋭く強くなる。
そのままガル兄は、土人形を斬り上げた。
魔法の通った跡を境に、土人形の上部が滑り落ちた。
水に込める魔力量を変えれば、モンスターを切れそうだ。
俺は、水を出すのを一度止め、斬撃に拍手を送る。
「おおぉ。これをまず覚えればいいんだね。よし俺も」
腕輪に魔力を送り、土人形を再生する。
残った土人形の下半身から、ぐにょっと上半身が生えてくる。
土人形に近づき、深呼吸を一つ。
剣の間合いより、少し離れて。
先程の線に見えた水で、土人形を斬る想像をする。
さらに流れを強く、鋭く。頭から股まで。
「大丈夫、出来る。≪水の刃≫」
言葉と共に、切り裂く場所を指示するように、空中を指でなぞる。
指先から作り上げた水、というよりは白い線が、土人形を切り裂く。
縦一閃で二つに分かれた土人形が、それぞれ左右に倒れた。
ガル兄の初めに見せてくれた水精霊の斬撃とは、結果が大きく違う。
あれはもっと鋭かった。
「よし、できたな。あとはイメージの確立と強化。そして練習あるのみだ」
「ガル兄。ここ使ってていい」
「おう。俺は仕事があるから、また後で戻るよ」
「仕事あったなら、そっち優先しなよ……まぁ、ありがとう、ガル兄」
軽く手を上げ返事としたガル兄は、赤色ポーションを飲みながら自分の工房に戻っていく。あんなマズい魔力回復ポーションを、よく飲めるものだ。
いや、ガル兄のは市販品か……マズいのは、特別製の赤色ポーションだけだ……あれは、思い出すだけでも、マズい。




