14.ガランサと相談事
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振り下ろされた一撃を、木剣で弾き返す。
負けじと、こちらも打ち込むも、簡単にいなされる。
一合一合打ちあうたびに互いの剣速が増していく。払いを流し、突きを逸らす。十五ほどの打ち込みで、一本の木剣が宙を舞った。
剣を手放した相手の頭に、木剣を叩きつけ――る途中で止めた。
「ふー。参った」
「ガル兄、降参するのが遅い。それに最近鈍ってない? 歳?」
後ろに撫でつけた暗い茶の髪。面長で彫りの深い顔の男、ガランサは芝生に腰を下ろした。彼は、疲れたように衣服の首元を緩める。
「毎日、モンスターと戦ってるお前と一緒にするな。俺は、ただの生産者だぞ。あと、二歳しか違わんのに『歳?』はないだろ」
「冗談だって」
俺やシャーリー、アムの幼馴染、というより兄貴分のガル兄は、ポーション生産を生業としている。
この町の工房ギルド『精霊銀の槌』所属の生産者だ。
今日ガル兄に会いに来たのは、昨日森で手に入れた薬草の、お裾分けをしにだ。
決して、暇だったからではない。
薬草を渡した後、森での出来事を話した。
特にヘヴィオーガとの戦闘での、手際の悪さを。で、裏庭に移動して何度か打ち合いになり、今に至る。訓練というか模擬戦なら、お互い時間がある時に行っているので、まぁ、いつもの事である。
「断言してやる、お前の動きは鈍ってない。問題は結局、火の魔法が使えない時の手段が足りないってことだろ」
「接近できれば、どうにか出来るんだけどさ」
「やり過ぎて困ったんだったっけ? ハハッ。森が燃えたら俺も困るんだけどな」
「そうなったら俺も町の人も、困るじゃすまないよ」
薬草やその他の森の資源は、ポーション作りのみならず町中で活用されている。
この町でポーションを作っているのは、ガル兄含めて二人だけだ。
二人の作るポーションは多種多様。
身体治癒、体力増強、疲労回復、魔力回復、耐毒、耐火等々。爆発したり、凍結させたりするものまである。
冒険者には必需品だし、町民も当然利用する。
ポーションは比較的高価であるから、軽々しく使えるものではない。
まぁ、この目の前のガル兄は、お茶でも飲むかのように疲労回復用の青色ポーションを、ぐいっと飲んでいるのだが。
金貨が零れ落ちる幻聴が、俺には聞こえる。
「ん? マルクもいるか?」
「いいよ、そんなに疲れてないから」
「相変わらずタフで結構だが、たまにはゆっくりしろよ」
「冒険者辞めたし……そのつもり」
「どうだか」
突き刺す猜疑の目に、俺は顔を背けてしまった。
正直、自分でも自信がない。
「お前は、前から生き急ぎ過ぎなんだよ。彼女でも作って、しばらくゴロゴロしてれば……その性格も直るんだろうけどな」
「なぁ、話がかなり逸れてない?」
「彼女といわずとも、シャーリーやアムと一緒に買い物にでも行けばいいさ」
「アムとなら……散歩に行ったよ」
「散歩かぁ……初々しくて良いな。うん、一歩一歩だな」
「あ、うん」
ガル兄が勘違いをしているようだが、説明も面倒だし別にいいか。
「ん? 魔法のことで悩んでるなら、アムに聞けばいいじゃないか。あいつ、腐っても学派だぞ」
あ、話が戻った。
「んー。アムは戦うの好きじゃないから。ガル兄のほうが戦い慣れてるでしょ」
「戦闘経験でいったら冒険者をやっている魔術師が、って商売敵に、自分の魔法を教えたりはしないか」
「もう商売敵じゃないけどね。それにさ……いないんだ」
「え? いな――あ、うん、すまん」
どんよりした空気が、俺たちを包む。
今まで多くの冒険者パーティーと、助っ人依頼で共に仕事をした。
俺が名を覚えている冒険者だけでも、かなりの数になる。が、それは、相手がこっちを憶えているか、信頼を築けているか、まるで別の話だ。
結局の所、頼れる相手がいない。
冒険者を辞めて、いや、辞める前から知っておくべきことだった。そう俺は――
「友達すら……いないんだ」
「二度も言うな。切なくなるだろう……魔法の事は、一緒に考えてやるから。な」
俺の肩をポンッと叩くガル兄の手が、やけに温かかった。




