12.森の奥で~戦い~
読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝
ヘヴィオーガ。
岩山や自然洞窟奥深くで出現するモンスター。
オーガよりも数段強く、ダンジョンでの発見報告は四十層付近が多い。
赤みがかった肌と、額から飛び出る捻じれた一本の角が特徴的で、ヘヴィオーガは通常のオーガと違い、簡素ながら、胴に鎧をまとっている。
モンスターとしては、そう大きな体ではない。
成人男性より顔三つ分ほど高いだけだ。
しかし、腕が、足が、その隆起した全身の筋肉と対峙したならば、その圧を感じずにはいられない。
以前に遭遇した個体は、大鉈ではなく槌を持っていた。
投げつけてきた記憶もない。
その時は、Bランク冒険者達の助っ人依頼で参加し、五人で倒した。
一人で戦う相手ではない。ましてや、森の中でなんて。
火の魔法が使えるならば、敵の飛ばす武器に注意しながら、焼き続ければいい。
角が弱点ではあるが、焼き殺せば関係ない。
が、それが出来ないなら、角を狙うのが一番だが……。
「≪風の刃≫」
角を狙った一刃は、大鉈に薙ぎ払われた。
そうだよな……そもそも風の刃では、角を折れる気がしない。
ヘヴィオーガが叫び声を上げながら、こちらへ突進してきた。
俺に向かって振り回される大鉈が、空振り、近くの幹を両断する。
当たれば、俺も同様になるだろう。
大鉈の間合いに出来るだけ入らぬように後退しながら――「≪風の刃≫」――相手の足に一刃放つ。
切断を狙った一撃だが、右太ももの肉を切り裂くだけで終わる。
ヘヴィオーガの動きは、鈍ることはない。
大鉈を避けながら、角に、顔に、腕に、足に次々と風の刃を放つが、有効打にはならなかった。鎧に当たった風の刃に至っては、傷一つ付けることができない。
使える魔法が制限されただけで、選択肢が極端に減ってしまう。
もっと多くの魔法を習得しておくべきだった。
振るわれる大鉈と打ち合えるほど、力を鍛えていれば。
と考えても、今は変えられない。
火や雷が使えれば……もう、森ごと燃やしてしまいたくなる。
ヘヴィオーガが、青い液体を流しながら暴風のように大鉈を振り回す。
森の中に平原が出来るのではないかと思うほど、辺りは切り株と倒れた木だらけだ。動きにくい。
動きが単調なおかげで避け続けていられるが、一撃でも当たれば死につながる。
突如、一つの声が森に響いた。
「な! 先輩! 大丈夫っすか!」
ヘヴィオーガからの攻撃を回避することに集中していて、声がするまで、全く気が付かなかった。
キオの声だ。
左奥、ヘヴィオーガ越しにキオの姿が見える。
「何で来た! 早く逃げろ!」
俺の声に、先に反応したのは、キオではなく敵であった。
怒りに満ちて見えていたヘヴィオーガの顔が、いやらしく笑った気がした。
ヘヴィオーガが俺から距離を取るように、後ろへ大きく跳躍する。
奴の大鉈を下がりながら回避をし続けていた俺は、その動きにたいして、反応が遅れる。
ヘヴィオーガから大きな魔力の流れを感じる、大鉈を投擲するつもりだ。
どちらに?
考えるまでもない。俺がやるべき事は一つだ。
キオとヘヴィオーガの間を割るように、壁を作らねば。
遠くに、強く、硬く、狭く――
「≪風精霊の封壁≫」
ヘヴィオーガの動きを、もっと見ておくべきだった。
何故、手持ちの大鉈を投げるだけなのに、魔力が必要なのか?
目の前に答えがある。
二本の大鉈を持ったヘヴィオーガの姿が見えた。一本投げて、大鉈を手元に作るのではなく、先に一本作ってから投げていたのか。
キオへの防御を張ったことは、正解だったと確信した。
どちらに? 奴の選んだ答えは――両方だ。
俺は、膝を少し曲げ、奴の動きに備えた。
跳んで逃げる姿勢だ。
狙いを定めたヘヴィオーガが、咆哮と共に二本の大鉈を放つ。
荒々しく、こちらを襲い掛かるは一本。
目の前に迫る大鉈に対し、俺は――地に伏せた。
頭の上を、轟音上げた大鉈が通りすぎる。
外れた大鉈が、森を破壊する音が聞こえた。
勢いよく地面に口付けたせいで、土が口に入り……気持ち悪い。
避け方に、恥も外聞も関係ない。それよりも――
「キオ! 無事か」
俺は起き上がりながら、大声でキオに問う。
自らの作り出した魔法に自信はあるが、確かめずにはいられない。
「大丈夫っす……何か……壁に……」
何かじゃない。魔法だよ。
半分放心状態のキオに、愚痴っても仕方ない。
キオへと投げられた大鉈は、彼から大きく離れた地面に突き刺さっていた。
あれ? 一つの事実に気付き、ヘヴィオーガを見る。やっぱりだ。
今、ヘヴィオーガは武器を持っていなかった。
当然だ。二本とも投げた後、奴はまだ大鉈を作り出していない。
好機だ。
あの振り回す大鉈のせいで、接近できなかったのだから。
俺はヘヴィオーガへ向け、走る。走る。
新しく生み出される前に、捻じれた角に一撃を。
前へ進み、考えるは一つ。奴の捻じれた角を破壊できるイメージ。
しかし、俺の頭に浮かぶのは炎のイメージのみ。
いや、大鉈の脅威がない今ならば、やれることがある。
嗚呼、もうどうとでも成れ。
「其は原初の光。猛る汝に触れるは誰ぞ――」
俺は、奴の顔へと右手の剣を投げる。足は止めない。
ヘヴィオーガは剛腕を振るい、剣を跳ねのけた。
「今ここに塵と化す者の名を、我に、示せ――」
防御されようが関係ない。狙うは角、ただ一点。
俺は、地を強く蹴り、跳んだ。
「≪炎帝竜の大剣≫」
空の手で振り上げた両手の中から、溶けるように赤く揺らめく炎の剣が現れる。
身の丈ほどに伸びた炎の大剣を、俺は、振り下ろした。
角を守るヘヴィオーガの両腕を、角を、顔を、喉を、胴を、鎧を、そして股を溶かし、炎の大剣は触れた地面をも溶かす。
真っ二つに分かたれた体が、瞬時に発火し、塵となって消える。
角だけ破壊するつもりが、勢い余って、地面まで斬り付けてしまった。
「あっ、やばい」
地面を溶かす炎の大剣を咄嗟に消すも、焼け溶けた地面から、草々にどんどん燃え移る。
「ちょっとまった。≪水≫よ。≪水≫よ。≪水≫、≪水≫、≪水≫」
次々燃え移る火に、俺は、魔力で生み出した水をかけて回る。
森が焼けたら一大事だ。
消火だ消火。燻る火種一つ残してはいけない。
「大丈夫っすか先輩! というよりこの惨状……やばいっすね」
駆け寄ってきたキオが、暢気なことをいう。
改めて周囲を見ると、確かに惨状と呼ぶべき状態であった。
まるで、竜巻でも通り過ぎたかのように、倒木だらけである。
足元の焦げ跡以外は、俺のせいじゃないよな……。




